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「イヨーオ!」の掛け声で…宴会の最後に行われる「手締め」、何のためにするの?

  • 2022.12.28
手締めは何のために行われる?
手締めは何のために行われる?

4月は、歓迎会など職場での宴会が増える季節。宴会の最後に、会社の幹部が音頭を取って行うことがあるのが、「一本締め」「三本締め」などの「手締め」です。ネット上では、「上司が言うから何となくやっているけど、なぜやるのか分からない」「周囲の目が気になって恥ずかしい」などの声もあります。手締めとは、どのようなものなのか、和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

地域独自の「手締め」も存在

Q.そもそも、「手締め」とは何ですか。

齊木さん「物事の決着や成就を祝い、関係者がそろって掛け声とともに手拍子を打つことで、『手打ち』とも言います。手拍子の前の掛け声は、『イヨーオ』と言うのが一般的です。イヨーオは、『祝おう』が転じたものとされています」

Q.行われ始めた背景は。

齊木さん「ルーツは古く、『古事記』に、大国主命(おおくにぬしのみこと)が国譲りを行う際、『拍手を打って国譲りを承諾した』という記述が出てきますが、この『承諾して柏手を打った』ことが転じて『うまく物事がまとまって手を打った』という意味で、手締めが行われるようになったと考えられています。つまり、物事が落着することにつながり、『拍手を打つ→手を打つ→手締め』へと変わってきました。現代でも、『手を打つ』というのは決着をつけるという意味で使われています」

Q.手締めの代表的なものに「一本締め」「一丁締め」「三本締め」があります。それぞれ、どのような手締めですか。

齊木さん「一本締めは、拍数の『シャシャシャン シャシャシャン シャシャシャン シャン』と、3回の拍が3セットで『九』になり、もう一回手を打つことで九に点が打たれて『丸』になることから、『丸く納めました』の意味合いが込められています。一丁締めは、一本締めの略式のやり方です。『イヨーオ』という発声とともに最後の1回だけ『シャン』と手を打ちます。関東でよく行われており、『関東一本締め』ともいいます。

三本締めは、一本締めである『シャシャシャン シャシャシャン シャシャシャン シャン』を3回行います。フォーマルな宴席や行事でよく行われます。発声者は、間に『イヨッ』『もう一丁』と声を挟みます。

手締めは、リズムや手を打つ回数、掛け声が地域によって異なります。例えば、大阪では『大阪締め』といい、(1)『打ーちましょ』シャンシャン(2)『もひとつせ』シャシャン シャン(3)『祝うて三度』シャシャン シャン シャシャン シャン シャシャン シャン(4)『おめでとうございますー』(拍手)という手順になります」

Q.その地域にしかない独自の手締めもあるのですか。

齊木さん「福岡では『博多手一本』という独自のスタイルがあります。手順は、(1)『よー』 シャンシャン(2)『まひとつしょ(もひとつ)』シャンシャン(3)『祝うて三度(よーてさんど)』シャシャン シャン、となります。決まりも独特で、手一本を入れた後、拍手をするのは無作法、やり直しは不可となっています。

名古屋では『名古屋ナモ締め』という手締めが2014年に誕生しました。『ナモ』は名古屋言葉特有の敬語表現で言葉の終わりに付ける丁寧語です。今後も続く地域文化の象徴となるように考案されました。その他にも、埼玉では『川越締め』『武州川越締め』『江戸川越締め』『秩父締め』があり、各地で独自の手締めが存在しています」

人々の結束を深める手段

Q.なぜ、宴会の最後に手締めを行うのですか。

齊木さん「手締めは、宴会の最後に『手打ちによって締める』ことを指し、結束を高めるために行われます。また、宴会や行事を行った人が、無事に終了したことを協力者に感謝する意味が込められています」

Q.どのような手締めを行うことが多いのですか。

齊木さん「一般的な宴席では、『問題なく丸くおさまる』という意味を込めて一本締めを行います。お祝いの席や格式の高い宴席では、正式とされる三本締めを行います。一方、気の置ける仲間や身内だけの軽い宴会では、一丁締めを行います。さらに、貸し切りではない場所や、あまり大きな声を出せない場所などでの手締めは、周囲への配慮として、小さな声で簡略化された一丁締めを行います。手締めの種類を理解して、TPOに合わせて行うことが大切です」

Q.「周囲の目が気になり、手締めをするのが恥ずかしい」というネット上の声もあります。恥ずかしく感じずに手締めを行う方法はありますか。

齊木さん「手締めの本来の意味を理解することに秘訣(ひけつ)があります。手締めは宴会を取り仕切った人が、協力者に感謝するために大切にされてきた日本の風習です。主催者や取り仕切った人、その場を共にした人へ御礼の気持ちを込めて行ってみてはいかがでしょうか。自然と心や身体が動くものです。恥ずかしいと思う人がいたら、手締めの由来を伝えてみましょう」

Q.証券取引所や卸売市場、地域のお祭りなどでも手締めが行われますが、若い人ほどなじみがないようです。いずれ、手締めの風習はなくなってしまうのでしょうか。

齊木さん「手締めを行う歴史は古く、1878年に東京証券取引所(当時は東京株式取引所)が発足して以降、日本中に手締めを行う風習が広まったといわれています。現在でも、日本の大切な行事には必ず行われています。若い人ほどなじみがないのは、こうした歴史的背景や由来を教わる機会が少なくなっているからではないでしょうか。

手締めは、人々の結束を深めるものです。先人の心に寄り添い、現代に生きる私たちが、次の時代へ伝えていくべきことではないでしょうか。こうした伝えていく努力こそが、明日の文化を育てていくのではないかと考えます」

オトナンサー編集部

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