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【連載#最終回:宮司愛海の不器用の楽しみ方】殻を破りたかったキラキラではない私~周りに流されず、しなやかな大人へ

  • 2022.12.27

30代になり転機を迎えたフジテレビアナウンサーの宮司愛海さん(31)。自らを“不器用”と評する宮司さんが、仕事やプライベート、様々な葛藤について、ありのままの言葉で語る連載も今回で最終回。連載開始からの半年間の変化について率直にお伝えします。

不安、学び、未熟さ・・・

7月から始まったこの連載も今回で最後。10月から平日夕方の報道番組「Live News イット!」のメインキャスターを務めるようになるなど、大きく環境が変化する中で感じた思いを、これまで語ってきました。新しい場所に足を踏み入れることへの不安、始まってからの発見や学び、私自身の未熟さ……。

私はこれまで、バラエティー番組などに出演した際にも、自分のパーソナリティーの根幹に関わるような内面的な部分を表現する場面はなかったし、控えてもきました。
それでも、この連載では“不器用でバランスが取りづらい”性格であることや、仕事に関する悩みなどを率直に話してきました。自分を出した方が楽になると感じたし、殻を破りたいという衝動もありましたから。

そんな私は今、ここ数年の経験の中で得た、様々な発見を過去、そして未来の自分に伝えたい気持ちがあります。
過去の自分に対しては、後輩に話したいことにも通じます。それは「~しなければならない」「~するべきだ」に、実は大した意味はないということ。
2015年に入社してから数年間の私は、生き生きと仕事をする方法を探りつつ働いてきたつもりでした。でも、振り返ると他者からの見られ方や、べき論にものすごくとらわれていたように思います。
それに加えて、「1週間や1カ月という短い単位では変わらないことも多い」ということも伝えたい。日々の努力を欠かさないことは大切だけれど、感じている“辛さ”や“難しさ”は時間が解決してくれる面が大きい。「だから、大丈夫。まずはやってみて」と当時の私や後輩を応援したいのです。

一方、未来の自分に対しては、これまで公私ともに悲しかったり、辛かったり、しんどく感じたりしたことが多かったのだから、「その思いを他人に重ねて考えられるような、素敵で優しい温かい大人になっていて欲しい」と伝えたいです。

朝日新聞telling,(テリング)

プラスアルファの価値を生み出したい

まもなく2022年も終わり。今年も前述のキャスター就任など怒濤の1年でした。ただ、ここ数年は新型コロナウイルスの感染拡大や東京五輪の延期、母の死、妹に第1子が誕生したことなどがあり、毎年、激動の中で過ごしているような気がします。

今年については、キャスターになったことで責任や立場が大きく変わる中で、自分の理想とする“大人”に少し近づいたり、遠ざかったりしながら、一生懸命に生きた1年でした。
時にきつく見られることは自覚している私が目指しているのは、まろやかだったり、芯はあるけれど内面は柔らかかったり、しなやかだったりする大人。
自分の未熟さや意地、子どもっぽさのせいで、理想から離れる場面が多々あった一方、感覚的に「こういうことか」と気づいたこともありました。

23年は目の前のことに自分なりの合格点を設け、そこに向けて努力を積み重ねていきたいです。10月にキャスターになり、月曜から金曜の週5日、3時間強の生放送にも慣れつつある。その生活の中からどのように余裕を持って、プラスアルファの価値を生み出していけるのか――ということが大事ですね。

朝日新聞telling,(テリング)

「会えて、よかった」と思ってもらいたい

担当している「Live News イット!」は、すべての分野を扱うので、意識しなくても私自身の思いや経験とリンクすることがあります。その中で、改めて自分のことを考えたり、ニュースの当事者に思いを馳せたりできるようにもなりました。
しかも、客観的な情報を通すことで、物事を私自身の感覚や目線といった“平面的”にだけではなく、様々な利害関係者も含めた“立体的”な視点から見られるようになりました。

取材に出る機会も多くなり、先日は聴覚障害を扱ったドラマ「silent」のシナリオ考証にも関わった、東京都中途失聴・難聴者協会理事の小谷野依久さんにお話を伺いました。話題のドラマを「感動した」と消費するだけではなく、当事者の方の日々の暮らしや、困っていること、そしてどのようにしてコミュニケーションを取ればいいかなどを聞くことが重要だと感じたので、自ら提案しました。取材して改めて、私が見ている景色が一面的なものだったことが身に染みてわかりましたね。

取材では「この人には話しても、いい」と信頼してもらうことが大事。人としての誠実さなど私の人間性が日々、問われているように感じます。以前、阿川佐和子さんとお話をさせていただいたときに、阿川さんの話の聞き方や人との向き合い方に感動しました。だから私も、取材で出会う人には「会えて、よかった」と後で思ってもらいたい。そのために、どうすればいいか――も考えるようになりました。

朝日新聞telling,(テリング)

漠然とした不安や焦る気持ちはあるけれど・・・

コロナをめぐる社会的状況も変わってきています。みなさんと同様、ここ数年は私も人と会うのを我慢してきました。その中で一人問答を繰り返し、“変わろう”としてきた私ですが、来年は様々な人との交流を通して、感覚を外に開きながら変わっていけたら、と考えています。

ただ、私の中では「○○年だから●●」といった数字上で区切る意識はあまり強くない。4月で入社9年目になるからといって特別なことを始めようとは考えないし、7月に32歳になるからといって「結婚しなければ」といったことも思わないです。自分の周りを取り囲む数字に流されない。それに目標を立てたら、できなかった時に辛くなるので、意味を持たせすぎないとように注意もしています。

とはいえ、telling,の読者の方の中にも年齢を気にされている方はいらっしゃると思います。私自身も、30歳を過ぎて漠然とした不安や焦る気持ちを抱え続けていることは否定できない。だけど、その焦りに突き動かされて、自分自身の感覚を無視した選択をすると、絶対後悔するだろうと思うんです。
そのためにも、意識的に自分の生活に余裕を持たせることで、周りと比べないようにしたり、宙ぶらりんの状態を受け入れることを大事にしたりしていきたい。そして「~すべきだ」ではなく、「~したい」という自分の感覚に従って、生きていきたいですね。

連載開始前に付けたタイトルは「“不器用”の楽しみ方」でした。果たして今の私が楽しめているかというと……。今回も含めて全6回の連載の中でも感情の起伏があったり、凹凸があったりしました。不器用そのものと向き合うのが嫌なことも時にはあったのですが、こうした“波”があるのは、根本的な性格や性質。不器用を楽しんだり、諦めたりしている中で気づいたのは、「私が白黒はっきりさせたいタイプで、それが自身を苦しめている」のだということ。波があっても、自分の考えは明確に伝えたかったし、瞬時に善悪や好悪などの判断をしようとしていたのです。

これからは無理に白黒をつけようとせず、例えば仕事では「自分はこうしたい」という明確なイメージがあっても、周りの人の要望も受け止め、その時の最適解を探りながら進んでみる。考えてみれば当たり前のことですが、それが私はできていなかった。それに、すべての事柄に対して明確に答えが出せるわけではないので、中途半端な状態も許容していけるようになりたい。自分を苦しめている「白」と「黒」から距離を置き、「グレーゾーン」を広げたり、受け入れたり、受け止めたり……。“波”と向き合いながら、ようやくそう考えられるようになりました。

朝日新聞telling,(テリング)

半年間、こんな私の変化にお付き合いいただきましてありがとうございました。個人的にノートで心情を綴っているのとは違い、私が思いや考えを率直に話すことができたのは、telling,読者のみなさんが「見守ってくださっている」という安心感を抱くことができたおかげです。本当にありがたかったですし、「様々な葛藤を抱えているのは自分だけじゃないと感じました」や「同じ思いです」といった声もいただいて。
キラキラしているわけでもない“不器用な私”に共感していただけたというのは本当に嬉しかったですね。改めて御礼申し上げます。

■宮司愛海のプロフィール
1991年福岡市生まれ。早稲田大学文化構想学部を卒業し、2015年にフジテレビ入社。18年春から週末のスポーツニュース番組「S-PARK」を担当し、東京五輪ではメインキャスターを務めた。現在は月曜から金曜の「Live News イット!」や「タイプライターズ」などを担当。趣味は落語鑑賞やカラオケ。

■岩田智博のプロフィール
ハイボールと阪神タイガースを愛するアラフォーおひとりさま。神戸で生まれ育ち、学生時代は高知、千葉、名古屋と国内を転々……。雑誌で週刊朝日とAERA、新聞では文化部と社会部などを経験し、現在telling,編集部。20年以上の1人暮らしを経て、そろそろ限界を感じています。

■岡田晃奈のプロフィール
1989年東京生まれ、神奈川育ち。写真学校卒業後、出版社カメラマンとして勤務。現在フリーランス。

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