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幻の屋久島民謡“まつばんだ”とは?世界中の祭りや音楽を追う大石始が新刊を発表

  • 2022.12.27
大石始『南洋のソングライン―幻の屋久島古謡を追って』

幻の屋久島民謡“まつばんだ”を求めて

実は2020年に、執筆の相談があってから、初めて屋久島へ行ったんです。島に降り立った瞬間から、肌が潤うような感覚がありました。空気を吸うだけで気持ちがいいという。これまでに国内外の島へ取材に行きましたが、体験したことのない感覚でした。海はもちろん、山の木々も湿度を保っていて、全身が水分に包まれるような感覚。その中に屋久杉があり、山に対する信仰が芽生えた。そんな環境のもとに生まれた歌が“まつばんだ”なんだと思います」

大石始 屋久島 屋久島民謡“まつばんだ
白川山在住の手塚賢至さんを取材。
大石始 屋久島 屋久島民謡“まつばんだ
島中央部の小花之江河を探索。右から、ガイドの小原比呂志さん、大石さん、緒方麗さん。

“まつばんだ”は、琉球音階だが、沖縄のそれとは違う側面もある。起源を探るほど、複雑に絡まる歌の起源に、大石さんも戸惑ったという。

「ピアニストの江草啓太さん、奄美群島の島唄にも取り組む歌い手であるゆうこさん夫婦から“まつばんだ”の話は聞いていました。しかし、島へ行ったこともないし、不安もあった。ところが島で話を聞くうち、歌い手の緒方麗さんがとある場所で体験した“まつばんだ”をめぐる不思議な現象。たまたま出会った漁師さんが歌のヒントをくれたり。予想外の体験が続いた。想像していた屋久島と違う側面を見て、すごくそそられて。島や歌について、もっと知りたいと思ったんです」

島や歌の魅力や歴史を伝える一方、“まつばんだ”誕生秘話に迫るほど、話は二転三転ひっくり返る。それはミステリアスで、謎を解くために動くさまはアドベンチャー的でもある。

「私と一緒に島を巡っていたのは、担当編集の国本真治さん、屋久島在住の歌い手である緒方麗さん。3人とも同じ年で山や海など、あちらこちらへ動くため、大人版グーニーズ的な要素があるのかも(笑)」

大石始『南洋のソングライン―幻の屋久島古謡を追って』

Information

『南洋のソングライン ―幻の屋久島古謡を追って』

2020年を皮切りに、コロナ禍を挟みながら、3度屋久島へ渡って書かれた島の歴史と、“まつばんだ”の起源、そして忘れられた原因に迫る。山岳信仰や屋久杉の輸出など、複雑な歴史に翻弄された伝承歌の物語。キルティブックス/2,640円。

profile

大石 始

おおいし・はじめ/1975年東京都生まれ。旅と祭りの編集プロダクション〈B.O.N〉主宰。著書に『盆踊りの戦後史』『ニッポンのマツリズム』『奥東京人に会いに行く』などがある。

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