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踊りと手話。身体の力を信じるMIKIKOと和田夏実の “やさしさを引き出す力”とは

  • 2022.12.26
踊りと手話。身体の力を信じる2人の “やさしさを引き出す力”とは

MIKIKO

和田さんがなさっているインタープリターというのは、どういう活動なんですか?

和田夏実

手話通訳の領域を広げた“解釈者”という意味で名乗っています。例えば障害のある方と私が対話し、それを私が誰かに伝える。その際、相手と私で異なる感覚を、どうしたらその人らしい形で、その人の魅力を最大化して伝えられるのか。そういうことを研究しているんです。

MIKIKO

手話以外もあるんですね。

和田

はい。視覚・聴覚によるコミュニケーションや、触手話という、盲聾(もうろう)の方が触覚で伝え合う表現も。多様な身体性を持つ人同士の感覚を、やさしく柔軟につなぐ。その媒体に、私自身がなるイメージです。

MIKIKO

それで言うと私の“振り付け”もある種の媒体。振り付けを、踊る人を通して間接的に伝える職業です。踊る人の体の中に私が入り込んでその人を分析し、その人に合う振りを付ける。人が踊ることで、その人が誰かに好かれるのが目標です。

和田

通訳では、私がイタコのような役割なので、その人を私の体の中に入れて表現します。その人が魅力的に見えなくちゃいけないという目的は同じですが、立ち場は逆ですね。

MIKIKO

振り付けの場合、最終的に大切なのは、踊り手のことを知らない方たちが観た時に、心が震えるかどうか。そのためにはまず、踊り手の根底にあるキャラクターを引き出し、その個性を生かす“隠し味”をその人が自覚できる段階まで持っていくんです。

和田

具体的なダンスや技術を教えるよりも前の段階が大切なんですね。

MIKIKO

その人が踊る時に、隠し味を自覚してるかどうかで、同じ動きをしても伝わり方が違う。「なんだかわからないけどあの人の動きに目が行ってしまう」ということがあると思うんですけど、その「なんだかわからないけど」の部分を作るのに、すごく時間をかけています。

和田

隠し味に時間をかけるって、とても真摯なやさしさ。それが良い伝わり方を生むと信じているんですよね。私は視覚障害のある方と共に、映像の通訳や音声ガイド制作をすることがあって。その時に必要なのは、敬意のようなやさしさなのだと思います。

例えば「赤いリンゴ」が出てきたとして、その状況を説明するために、なぜ今現れたのか、作品の中でどんな意味を持つのか、作り手が映像メディアを選んだ理由は何なのか、と、とことん考える。一本の映像が、何も考えていない瞬間がないほど真剣に作られた時にこそ人は胸打たれると思うし、それを最大限豊かに伝えることが、作る人へのリスペクトであり、受け取る人への誠実なやさしさだと思うんです。

MIKIKO(演出振付家)

自分を信じる強さと相手を信じるやさしさ

和田

踊り手の個性を引き出す時の手がかりは何ですか?

MIKIKO

相手と直接話す時より、その人が誰かと話している時の無意識の行動を観察します。なるべく俯瞰で、相手のいいところを見つけるように。「自分でも苦手だと思っているだろうな」という部分には直接触れずに解消することが多いです。

和田

わ、それはやさしいですね。

MIKIKO

もちろん直接言った方が伸びる人にはそうします。むしろ、引き出し方を個々の性格に合わせて変えること自体がやさしさなのかも。

和田

通訳のやさしさは想像力に近いんです。私がのっぺらぼうになってしまうと、その人の魅力が伝わらないから、その人のキャラクターを、感情の温度や仕草や「ええと……」という思考の変遷も含めて想像し解釈し、丁寧に自分の中に移す努力をします。アツアツの唐揚げが、今、その人から発せられたことを私は知っているのに、私の体を通った瞬間、冷めた唐揚げになってしまう、そういう事態をいかに防ぐかが大変で。

MIKIKO

“解釈者”と名乗られていることの意味がわかりました。

和田

ただ、通訳の場で初めて会った相手のことを、「この人の言葉は、体に入れるのがちょっと大変かも」と思うこともあるんです。

MIKIKO

そういう時はどうされるんですか?

和田

相手を全肯定できる方法を必死に模索します。例えば、目の前にいるこの人のことは苦手に感じるけど、彼が3歳だったらやさしい気持ちで接することができるかもしれない。そう考えて、小さい頃の話を聞いてみるんです。無邪気に遊ぶ姿を想像すると、好きになれることもあって。MIKIKO先生は、振り付けが踊り手の体に入っていきにくい時はどうしますか?

MIKIKO

ダンスは、練習すれば必ずうまくなる。努力すれば絶対にある水準までは到達するから、とにかくその人の体にダンスがフィットするまで練習に付き合います。そこを乗り越えた体からしか出てこないものがあるし、それは観る方に必ず伝わる。努力して乗り越えた時にだけ、神様がポンとくださるギフトを信じているんです。

和田

私もたぶん、ただただ信じているだけなんです。社会の側に壁があると、人は信じるプロセスを重ねにくい。インタープリターとしてできることがあるとすれば、そういう人の横で「あなたのこういう点がとても素敵」と伝え続けることだと思います。すべての人の中にとてつもない魅力があることを伝えたい。

MIKIKO

周りを迷わせないために、まず私が信じる、ということも大切。自分が迷いの中にいると周りに伝染するので、私自身が「どっちに転んでも大丈夫。成功する」と信じて前に進む。それを信じてくれる相手を信じる。この部分さえ成立していたら、物事は達成できるんです。

和田

迷わないという潔さは、やさしさのすぐ近くにあるものだと感じます。私はいつも、違う身体性を持つ人と感覚や感情を共有する方法を探っていて。そういう時は、迷わずその人の感覚を信じて委ねる、そして委ねた自分を信じる、というコミュニケーションを繰り返します。

和田夏実(インタープリター)

時間をかけて伝わるやさしい記憶と余韻

和田

以前、新しい握手を考える遊びをしたことがあるんですけど、(一方の拳をもう一方の手で包んで)
こういう握手だと、包まれる側はやさしさを感じるのに、包んでる側はすごく寂しい。不思議です。

MIKIKO

私が振り付けでやさしさを表すとしたら、やさしい質感や触り方を表すのかな……(と、左手の指先を揃えて右手をスッと撫でる)。

和田

触り方は重要。触手話で話してると、「この人の触り方、誠実で惹かれるな」と思うことがあります。

MIKIKO

言葉で伝わるやさしさがすべてではなく、触感、表情、仕草……体で伝えられるやさしさって実はたくさんありますよね。

和田

私は、言葉はラベルの付いた箱だと考えていて、「やさしい」という言葉を誰かと交換しても、その箱に入っている感情やエピソードは一人一人違うと思っているんです。

MIKIKO

私の箱に入っているのは、記憶や余韻のようなものですね。直接やさしい言葉をかけられた時より、「あの時に触れられた余韻」とか「互いに目を合わせてうなずき合った時の視線」とか、その人が目の前からいなくなった時に、嘘のないやさしさが浸透してくる感じ。

和田

時間をかけて伝わる余韻のようなもの……素敵ですね。

MIKIKO

振りを教える時も、今は私が言ったことを厳しく思うかもしれないけど、5年後に思い出してくれたらいいなと、それがやさしさだと信じて伝えることはあります。

和田

人それぞれの箱に、誰かとの会話の余韻や誰かにもらった記憶の断片が入っている。箱の中でやさしくなったものもある。それを想像するだけで幸せな気持ちになりますね。

即興で“やさしさ”を表現する2人の手
即興で“やさしさ”を表現する2人。「触れることによる表現は言葉より本能的です。感情がダイレクトに伝わります」と和田さん。

profile

MIKIKO(演出振付家)

MIKIKO(演出振付家)

みきこ/ダンスカンパニー〈ELEVENPLAY〉主宰。振り付けのほか、テクノロジーをエンタメに昇華させる演出で活躍。歌詞やビートを可視化した振り付け、日常の仕草を取り入れたダンスも特徴。愛称はMIKIKO先生。

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和田夏実(インタープリター)

和田夏実(インタープリター)

わだ・なつみ/1993年生まれ。視覚身体言語の研究や、多様な身体性を持つ表現者との協働を続け、人の感覚共有の可能性を探る。カードゲームなどのコミュニケーションツールやデジタルメディア開発も。現在脳科学も研究中。

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