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ジブリの世界を作った鈴木敏夫8800冊の森

  • 2022.12.26
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今年はテーマパーク「ジブリパーク」オープンでも話題のスタジオジブリで代表取締役プロデューサーを務める鈴木敏夫さんが、少年時代から読み込んできた本と人生を縦横に語ったインタビュー集『読書道楽』が筑摩書房から出版された。ジブリという世界を創り上げた鈴木さん自身の血肉ともいえる膨大な書物。その森の中を歩き回るような感覚を味わうことができる一冊だ。

本書の成り立ちは、インタビュアーであるフリーライター柳橋閑さんによって明かされている。2022年春と夏に開催された「鈴木敏夫とジブリ展」の企画のため、鈴木さんの蔵書8800冊を収めた隠れ家的マンション「れんが屋」で行われたインタビュー15時間分がもとになっているのだ。

ジブリ作品と鈴木さんに関する著作でその名を知られた柳橋さんの巧みな質問もあって、テーマは鈴木さんの名古屋での幼少期の漫画、児童小説から慶応大学時代の詩と文学に始まり、74歳の今日に至る読書遍歴と世相、ジブリにかかわる歴史、そこで出会った多様な人物群像にまで及ぶ。ジブリファンならずとも興味津々の現代史のひとつとなっている。

「キネ旬」は右翼の隠れ蓑だった?!

鈴木さんの仕事柄ということもあるが、読んだ本の作家や著者、またメディア関係者と交流もあり、作品と作者との関係にも話が及ぶ。ときにテーマは大きく脱線するが、本筋に勝るとも劣らない秘話がさりげなく語られたりもし、それだけでノンフィクションの1章ができそうな気がしてくる。

ひとつ挙げれば、芥川賞作家の堀田善衞が、映画雑誌『キネマ旬報』の社長だった上森子鉄という右翼の総会屋と家族ぐるみの付き合いがあったと鈴木さんが明かすと、さすがの柳橋さんも「『キネマ旬報』の社長は右翼だったんですか」と驚く。鈴木さんは、キネ旬は隠れ蓑で、右翼の情報も仕入れるのが小説家だと思う、と答えている。ほかにも、「えっ?」と口走ってしまうエピソードが少なくない。

そうした横道を楽しみながら、柳橋さんの誘導で再び読書遍歴に連れ戻される快感は、本好きにはたまらないだろう。鈴木さんより10年ほど遅れて東北地方に生まれた身には、少年時代を含め、少しは重なる時代の空気を吸いながら読んだ共通の漫画から小説、背伸びして読んだ哲学書が登場するたびに、そのときの自分と世の中の記憶がよみがえる。また、読もうと思って断念した本が登場すると、今からでも読みたいという感覚に襲われる個所もあった。

もちろん、若い世代に人気の作品も出てくるし、アニメに関する話題は事欠かない。現代の歌手にも話は及び、あいみょんや米津玄師も登場し、柳橋さんと交わす歌詞への評価も魅力的だ。

『風立ちぬ』めぐる宮崎駿との対立

毎年ノーベル文学賞候補として話題となる村上春樹さんの小説に関する鈴木さんの評価も、ありきたりではない。村上さんの小説の作風に対する分析も鋭いが、村上小説を映画化した作品『ノルウェイの森』や最近の『ドライブ・マイ・カー』についての評を合わせて読むと、鈴木さんがジブリ映画に込めている思いも伝わってくる。

ジブリと言えば欠かせない世界的アニメーター宮崎駿さんも、本書では鈴木さんが柳橋さんの問いに答える形で、「宮さん」と呼んで何度も言及している。その語り口に遠慮はなく、すべてをさらけ出している。

鈴木さんは、映画『風立ちぬ』の制作をめぐって、鈴木さんと宮崎さんが、ある映像を挿入するかどうかで意見が合わず、最後までやりあった事件があったことを明かしている。戦闘機「零戦」を作った堀越二郎をめぐる考え方の違いも潜んでいる。その結末は本書で読んでいただくとして、この個所を読めば、映画『風立ちぬ』の見方は変わってくるだろう。

本書末尾には、本書に登場する「人名」「書名」「映像作品名」が6ページにわたり、索引として掲載されている。小さなフォントのひとつひとつを眺めているうちに、これらの本と人が鈴木さんを作り、その鈴木さんがジブリの世界を作ってきたのだな、と納得させられる。

インタビューでの鈴木さんの最後の言葉は

「だって活字がないといきていけないもの、やっぱり」

である。今後も鈴木さんと本との関係は切れることなく続き、あらたなジブリの世界が生み出されるのだろう。

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