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家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.70頑張ろう、の道のり

  • 2022.12.23

クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。28歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回はvol.69当たり前の意味を私に尋ねて

vol.70頑張ろう、の道のり

17時を知らせるチャイムが鳴る前から陽はもう傾きはじめていた。時刻を確認したスマホを薄手のコートのポケットに仕舞うと「今年の冬はあったかいのかな」と私が今しがた思っていたことを仕事帰りに合流したばかりの彼女が不思議そうに呟いた。11月に入って暗くなるのがぐっと早まった。だけど寒さがそれに追いついていないせいで、どこかチグハグな印象を受ける。

朝から飲み物以外何も口にしていないせいで、頭が回らない。左手に持っているビニール袋の中には焼肉屋でテイクアウトした冷麺が入っている。旨味が凝縮された半分凍ったみぞれ状のスープが、しっかりコシのある葛麺に絡み…それをすすった後すぐに、上に乗っている水キムチを頬張りキュウリの歯触りを楽しむ。空腹であればあるほど、脳内実況が盛んになってしまう。とにかく…どこか座れるところ…とベンチや芝生に目をやるとはしゃぐ子どもたちや老夫婦、スーツ姿のサラリーマン、犬の散歩の小休憩で利用している方たち多数。

「私の冷麺…」と泣きべそをかきたい気持ちをグッと堪え頭をフル回転させる。茂みで死角になっている、あの場所のベンチなら!と一縷の望みに賭けて、残り3%の体力をそこに移動することに使った結果、予想は的中。「本当にお腹空きすぎて全力で隣で麺すすってると思うけど、話はちゃんと聞いてるから」と断りを入れ、最近の彼女の近況に耳を傾ける。頷きながら、箸で麺をすくい上げ、すすり、咀嚼することを繰り返し、やっとお腹が満たされて、今度は私が最近読んだ小説『ミッキーマウスの憂鬱』の話をした。誰かの笑顔を支えるエンタメの真骨頂に心を打たれた。そして彼女と話しながら、映画とか音楽とか遊園地とかライブとか。日常の嫌なことを全部忘れさせてくれるのも魔法だけど、そういう物に触れた帰り道に、嫌だなぁって思ってたことを明日はちょっと頑張ってみようかなぁって思えた時とても嬉しいよねって。2人で顔を近づけ合って笑った。

「ねぇ休み合うとこ探して今度ディズニーランド行こうよ」と彼女が言い、私は「いいよ」と答えながら、私もそんなライブがしたい、と強く思っていた。

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