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メイクだってジェンダー・ニュートラル! メイクアップアーティスト吉川康雄「世界はキレイでできている」Vol.29

  • 2022.12.20
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アメリカでは性を表す言葉を避け、ジェンダー・ニュートラルへとシフトチェンジしています

ピンク色の壁
子どもの頃、男性のシンボル的カラーは青か黒、女性は赤やピンクとされていました。そんな理不尽な常識の中で育った感覚はなかなか消えない。

まだまだ変化の途上ではありますが、日本でも認知度が広まってきたジェンダーに対する意識。なかでもビューティに関しては、性別を問わず使えるスキンケアやメイクアイテムなど、いろいろな人とシェアできるコスメが日本でも続々と登場しつつあります。

「アメリカの場合ですが、ジェンダーフリーの考え方は、トイレの性別をはじめ、あらゆるところまで広まっていると思います。僕個人としては、4~5年前、unmixLoveのNY取材で、いろんな個性をリスペクトしようというアイデアに、多くの方の強い賛同と考えを知らされました。現在は、性差に偏らない、または性別による役割認識にとらわれない思考や行動が“ジェンダー・ニュートラル”という言葉で認知されるようになりました。

ひと口に『アメリカ』と言っても、進歩的な地域もあれば、日本以上に保守的なところもあったりして、ジェンダー・ニュートラルに関しても受け取り方はいろいろです。でもアメリカでは、18歳になるとすべてのことに関して自分の意志が尊重され、たとえ親や保護者であっても口出しすることはできない、ということもあり、自分の性に関して違和感がある人は、例えば自分の生きやすさを求めて、それに応じたレベルの整形などで手を加える人を僕の近しいところでもよく聞きます。そんな“自分らしさを尊重する”流れもあり、『Mr./Mrs./Ms.』といった男女別の敬称はもちろん、性を表す言葉は使わない、という動きもあるんです。

身近なところで言えば、娘のボーイフレンドは、『自分のことをHe/Himと呼ばないで』と言ってきました。では、なんと呼ぶのか? 『They/Them』と呼ぶんです。一人称でも『They/Them』を使うので文法的には間違いですが、こんなふうに性別を特定しない呼び方も最近は注目されています。ちなみに、娘は『She/Her』でいいそう。呼び方に関しても、その人の考え次第なんですね。日本語では、あえて性別を特定するような言い回しが英語ほどはないので不思議に思われるかもしれませんが、アメリカではこうした考えを持つ人が増えつつあるんです」

コンプレックスをカバーするだけじゃない。性に関係なく、自分にYESと言えるメイクを!

そんなふうにジェンダー・ニュートラルが広がりを見せるなか、これまで男性のビューティといえば、清潔感第一。ギラつき、カサつきがちな肌をスキンケアで清潔に保ち、眉を整えるくらいが主流だったのが、K-Popブームも重なってか、近年はベースメイクからアイシャドウ、リップやネイルといったメイクを楽しむ人たちも増えてきています。

「僕はメイクアップアーティストだから、性に関係なく、その人らしさを引き出すためのメイクをしてきたし、男性がプライベートでメイクをすることに対しても、自分がしたいのであれば素敵なことだと思っています。ただ、現時点では、メイクをするのが当たり前に近い感覚である女性たちに比べ、男性は圧倒的にメイクテクニックと変身に対する経験が少ない方が多いんじゃないかな、と思います。あえて言わせてもらえば、例えば男性として魅力的に見せたいと思っている人が、メイクによってどこか線の細い印象になってしまったり…。そんな人たちを見ると、『こうしたらもっと似合うのになあ』と、メイクアップアーティスト視点で感じたりすることはあります。

女性もそうですが、メイクで自分の魅力を引き出すには、幅広い美意識を高めたり、メイクアップテクニックを学んだりと、勉強が必要なんです。メイクの本質は、変身することではなく、自分らしく生きていくためのツール。だとしたら、自分の顔やキャラクターを客観視し、クール、かわいい、繊細、ワイルド…などなど、いろいろな形の美しさを認識し、そこに近づける方法を覚えていくプロセスが必要だと思う。

それこそメイクするのが当たり前ではなかった頃の男性は、生まれ持った自分の容姿にコンプレックスがあれば、それを補うように話術を磨いたり、勉学に勤しんでみたりして、自身の魅力を高める努力をしてきました。でも、容姿のコンプレックスをメイクでカバーするようになると、素の自分になかなかYESを出せなくなってしまう人も出てくるんじゃないかな。実はこれって多くの女性が長らく悩んできたことのように思います。女性は今ようやくそこに気づいて、一人一人が自分らしさを謳える時代になってきているのに、その落とし穴に男性が陥ってしまうんじゃないかという一抹の不安を感じています。ちょっと前の“一生自分を隠しつづけるメイク時代”とでもいうべきか…。ある意味、男性はこれから大変な時期になってしまうんだろうな、と感じています」

枯れた花
ずっとそこに置いて、ほんのちょっとの変化を見続ける。

「コンプレックスを隠すのではなく、自分の魅力を生かしながらメイクをしよう、ということは、すべてのジェンダーに伝える必要があることを実感します。

“自分は何者なのか?”“自分の魅力は?”をきちんと見直すこと。年齢による変化を“劣化”としてとらえないこと。人は生まれ持った素材を選べず、しかも変化していく生きものですが、だからこそ、今の自分のよさを知ってそれをうまく利用し、メイクすることで自分の魅力を感じる。これがメイクにおけるポジティブな効果だと思うんです。

女性もここにたどり着くにはかなりの時間を要し、ようやく今、変身に頼らないで自分らしさをアピールできる時代になってきました。ネガティブメイクからポジティブメイクへ、きっと男性も女性と同じような時間をかけながら、自分が心地よくいられる形を探っていくんだろうな。そう考えると同時に、僕は女性だけでなく、すべての人に“ありのままの自分の美しさ”についてお伝えしていかなければ、と改めて感じています」

「男性だってメイクしてOK!」という時代の変化に、楽しみや自分らしさを見出した人も多いはず。おしゃれの一環だったり、変身的な意味合いという枠を超えて、今後は美容におけるジェンダーフリーはもっと身近なものになるのかも。そうしたなかで、メイクを通して自分の新たな魅力を見つけられる人も増えていきそうですね。

メイクだってジェンダー・ニュートラル! メイクアップアーティスト吉川康雄「世界はキレイでできている」Vol.29 _3
1983年にメイクアップアーティストとして活動開始。 1995年に渡米。2008年から19年まで「CHICCA(キッカ)」のブランドクリエイターを務める。現在は、ニューヨークを拠点に、ファッション、広告、コレクション、セレブリティのポートレートなど、トップメイクアップアーティストとして活躍中。自身が運営するウェブメディア「unmixlove(アンミックスラブ)」で美容情報を発信する中、2021年春に「UNMIX」を立ち上げる。

取材・文/藤井優美(dis-moi) 撮影/Mikako Koyama 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)

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