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子どもが従わないので腹を立てる…「不適切保育」をする保育士の信じられない言い分

  • 2022.12.13
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静岡県裾野市のさくら保育園で保育士3人が暴行容疑で逮捕され、その後も別の園で不適切保育があったことが報道されている。保育園を考える親の会顧問の普光院亜紀さんは「類似した問題行為について相談されることは少なくありません。不適切保育をしてしまう保育者の多くが『しつけ』のつもりだったと言います。それらのケースを見ると、子どもの発達や状態に合わない要求をして、従わないので腹を立てているケースが多いようです」という――。

私立「さくら保育園」に家宅捜索に入る静岡県警の捜査員=2022年12月4日午前、静岡県裾野市
私立「さくら保育園」に家宅捜索に入る静岡県警の捜査員=2022年12月4日午前、静岡県裾野市
保育園・こども園の「不適切保育」の実際

11月30日、静岡県裾野市のさくら保育園で繰り返された虐待保育の実態が、市によって公表されました。その内容のひどさに衝撃を受けた方も多かったと思います。

筆者は保育園を考える親の会で保育園・こども園に関するさまざまな相談を受けていますが、類似した問題行為について相談されることは少なくありません。

裾野市の保育園の事件は「虐待保育」として報道されましたが、虐待を含め、子どもの人権を侵害し、心身の安全・安心や健やかな育ちに悪影響を与える保育のことを「不適切保育」と呼びます。

保育園を考える親の会にも訴えが届いている「不適切保育」を挙げると、たたく・押す・引っ張るなど子どもの心身に苦痛を与える、恫喝する・怒鳴るなどこわい叱り方で脅す、保育室の外に出す・年齢が下のクラスに行かせる・トイレや押し入れに閉じ込める・食事やおやつを取り上げるなどの罰を与える、食事を無理強いする、容姿などについて子どもを言葉で侮辱するなどがあります。

いずれも体に傷が残らないので、やっている本人も周囲も軽く考えてしまう傾向がありますが、子どもが感じる苦痛や恐怖を想像すれば、明らかな人権侵害に当たります。

心身を脅かすことと「しつけ」は違う

全国保育士会では、「不適切保育」の定義を次のようにまとめています。

① 子ども一人ひとりの人格を尊重しないかかわり
② 物事を強要するようなかかわり・脅迫的な言葉がけ
③ 罰を与える・乱暴なかかわり
④ 一人ひとりの子どもの育ちや家庭環境を考慮しないかかわり
⑤ 差別的なかかわり

こうして抽象的な言葉で聞くと、「しつけのために必要なこともあるのではないか」と思う人もいるかもしれません。しかし、その考えが、不適切保育を容認してしまうことがあることに注意が必要です。

虐待をしてしまう親、不適切保育をしてしまう保育者の多くが「しつけ」のつもりだったと言います。それらのケースを見ると、子どもの発達や状態に合わない要求をして、従わないので腹を立てているケースが多いようです。大人は子どもが従わないことをわがままだと言い、罰を与えてもよいと考えがちですが、子どもの側から見ると、まったく違う風景が見えています。

子どもは大人の要求の意味がわからない

大人は体も巨大で力が強く、小さな子どもにとっては抵抗できない相手です。子どもは時間感覚や先のことを予測する力も未熟ですから、大人の要求の意味がわからない場合が多いし、子どもなりの理由で従えない場合もあると思うのですが、そのことを大人に伝える力をもっていません。

大人は、「時間どおりに給食の後片付けをしたい」「人手が足りないからトイレは一斉に行かせたい」など大人の都合で子どもに無理を強いて、それが子どもにとってつらい要求になっていることに気づかなかったりします。そうなると、子どもはただ大人にされるがままになり、泣くしかありません。もしも大人が同じこと(食事を無理やり口に押し込まれる、監禁されてトイレに行かせてもらえない)をされたら、警察に行くでしょう。

「しつけ」というのは本来、「大人に従わせること」ではなく「生活習慣や社会性を身につけること」なのですが、勘違いしている大人は多いと思います。保育園やこども園は子どもが長時間にわたって共同生活をする場なので、このような勘違いをしている保育者に支配されたら、子どもは大きな苦痛を味わいます。

保育内容の基準を示す「保育所保育指針」は、それぞれの子どもの発達や個性に応じて生活習慣を無理なく身につけられるよう、保育者が適切にかかわることを求めています。具体的には、園生活の中で、子どもが保育者から励まされたりさりげなく援助されたりしながら、自分のペースで「できる」体験を積み重ね、自然に生活習慣を身につけていけるような保育が望まれているのです。

「不適切保育」は暴力の教育

暴力をふるわれたり、体を邪険に扱われたり、恫喝されたり、集団から排除されたりといった体験は、子どもの自尊心の育ち、積極的に活動する意欲など、子どもの心の発達にネガティブな影響を与えます。

「保育所保育指針」や「幼稚園教育要領」は、幼児期の教育は子どもの主体的な活動(遊び)を通して実現されることを示していますが、保育者が一方的に従わせるような保育では、子どもは萎縮してしまうので、教育的な観点からもネガティブです。

食べたくないと拒否する赤ちゃん
※写真はイメージです

また、保育者のふるまいからも子どもは学びます。たとえば、子どもを集めて、「今日、お片付けができなくて先生に叱られた子は誰?」と尋ね、子どもたちに名前を言わせる保育者がいますが、私からは、いじめのやり方を教えているようにしか見えません。

国連の子どもの権利委員会は、一般的意見8号(2006年)で「子どもは、おとなの言葉だけではなくおとなの行動からも学ぶ。子どもがもっとも緊密な関係を持っている大人が、その子どもとの関係において暴力および屈辱を用いるとき、その大人は人権の軽視を実演するとともに、それが紛争を解決したり行動を変えたりするための正当な方法であるという、危険な教訓を与えている可能性がある」と指摘しています。

保護者が子どもを守るために

保育園やこども園の多くは、子どもの人格を尊重する保育を行ってくれているはずです。保育園・こども園に不信感をもち、保護者が細かいことを気にしすぎるのもあまりお勧めできません。保育現場に「圧」をかけることは、保育者の余裕を奪い、保育の質に悪影響を与える場合もあるからです。

「不適切保育」から子どもを守るために保護者にできることとしては、次のようなことが考えられます。

① 園選びを子ども中心の目線で行う

園見学などで、保育者が子どもに接する様子、園長が保育について語る内容から、子どもを尊重する意識があるかどうかを感じ取ってください。保育施設の中の人たちの信頼性を、親の利便性や習い事などよりも重視して選ぶことが大切です。

② 入園後、子どもの様子に注意を払い、保育者とコミュニケーションを深める

送迎時の子どもの様子に注意します。子どもが保育士におびえる様子があった場合は注意が必要です。言葉が話せる子どもとは、日々の会話を大切にし、子どもの言うことに耳を傾けましょう。ただし、保護者から保育者をネガティブに見る発言を繰り返すと、子どもも影響を受けてしまいます。また、子どもはまだ事実を正確に伝えられない場合があるので、気になることがあったら担任に相談するなど、まずは信頼関係を基本にしたアプローチをしたほうがよいでしょう。

連絡ノートや送迎時の会話などで保育者とコミュニケーションをとり、保育参加や保護者懇談会などの行事にもできるだけ参加して関係を深めることは、「不適切保育」の防止につながります。

お迎えに来た母親
※写真はイメージです
③ 「不適切保育」を見聞きしてしまったら

疑いをもったという程度であれば、保育者に「こうするのはなぜなんですか?」と保育の意図を確認したほうがよいと思います。その答えがおかしい場合や、明らかな行為を見聞きしてしまった場合は、園長や主任に相談したほうがよいでしょう。怒りをぶつけるのではなく、見聞きした問題行為や問題と思う理由を具体的に説明する、子どもが苦痛を感じている事実を伝えるなど、冷静に交渉することが重要です。

それでも「しつけです」と言われるなど不誠実な対応しかない場合は、市区町村の担当課などに通報します。市区町村が頼りにならない場合は、都道府県の指導監査部門に連絡をします。

保護者同志の情報交換で見えてくることがある
④ 保護者同士のつながりも大切に

日頃から保護者同士のつながりをつくっておくことも大切です。父母会などの組織がない場合も、クラスごとにSNSでつながるなどできれば安心です。「不適切保育」なのかどうか、保護者同士の情報交換から判断できる場合もあります。そのような事態にならなくても、保育のよい面を見つけて園を応援していくことにも活用できます。

⑤ 保育の制度にも関心をもつ

「不適切保育」が発生したりエスカレートしたりする背景には、保育士に適格な人材が不足していたり、保育士の仕事の負担が重すぎたりする構造的な問題もあると思います。改善するためには、保育士の待遇改善や配置人数をふやすことが必要です。そういった保育制度の問題に保護者も関心を持ち、保育施設を応援していくことも防止に役立つと思います。

参考:普光院亜紀『後悔しない保育園・こども園の選び方』(ひとなる書房)

普光院 亜紀(ふこういん・あき)
保育園を考える親の会顧問(アドバイザー)
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経て保育ジャーナリストに。著書に『共働き子育て入門』(集英社新書)、『後悔しない保育園・こども園の選び方』(ひとなる書房)などがある。

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