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「わざとぶつからないでよ!」駅構内で遭遇した"ぶつかり男"に抗議した衝撃的な結果

  • 2022.12.12

人ごみで女性にわざと体当たりをする「ぶつかり男」は、なぜぶつかってくるのか。漫画家の田房永子さんは「私も何度もぶつかられたことがあり、『ぶつかり男』本人に抗議したこともある。どうしても、『ぶつかり男』と(映画『もののけ姫』に登場する)『タタリ神』を重ねて見てしまう」という――。

ラッシュアワーの東京の駅
※写真はイメージです
「ぶつかり男」との遭遇

「ぶつかり男」という言葉があります。街中で女性にわざと体当たりする男性のことを指します。

2018年ごろからSNS上で、男性が女性にぶつかっている様子が撮られた動画がアップされ、「ぶつかり男」と名前が付けられるようになりました。ワイドショーでも取り上げられ、女性がけがをしたニュースや、2019年には「ぶつかり男」逮捕も報道されました。

「ぶつかられたことがない。本当にそんなことがあるの?」という女性もいます。

私は結構「ぶつかり男」に遭ったことがあるので、今回は、ぶつかり男とやりとりしたことを書きたいと思います。

私が初めて「ぶつかられた」と認識したのは2011年、新宿南口の駅構内にいた時です。

午後の比較的、人の往来が少ない時間帯でした。大きめのバッグを右肩にかけて歩いていたら、右後ろからドーーン! とタックルみたいに当たってきた人がいました。

人混みを歩いてたら、人とぶつかってしまうことはあります。

だけど「え? わざと?」と思ったのは、そのおじさんにとってもかなりの衝撃を感じたはずなのに、一切こちらを見ることもなくそのまま進行していってあっという間に目の前から消えたからでした。スーツを着た小柄な50代くらいの男性でした。

人混みで他人にぶつかってしまった場合、「あ、すみません」という動作をするのが自然だと思います。ぶつかられたほうも「大丈夫ですよ」とか口に出して言わなくても、会釈するなど、他人とぶつかったことで起こる衝撃への何かしらのリアクションをし合うもの。

昔の漫画やドラマでは、ワルな人が自分からぶつかっておきながら「チンタラ歩いてんじゃねえーよ!」と叱る、というのもよく見ました。「俺が今お前にぶつかってしまったのはノロノロ歩いているお前のせいだ」という意味にも取れるこのフレーズ。事故であろうが故意であろうが、そしてリアクションが謝罪でもチンタラでも、ぶつかり後になんらかのコミュニケーションがあることで「私はいまあなたにぶつかった」という事実の共有はできている、と考えられます。

これらよくある、人混みで他人とぶつかってしまう出来事と「ぶつかり男」の違い。それはぶつかり男は「無」であるという点です。

ぶつかり男自身のボディにもかなりの衝撃を感じているはずなのに、何事も起こってないかのように「無」で歩いて行きます。自身の肩もグインって後ろにいってるのに、顔はまっすぐのまま、です。その不自然さが「ぶつかろうと思ってぶつかった」という印象をこちらに与えます。

ぶつかり男にぶつかられた!
「わざとぶつからないでよ」と抗議した

私は一度だけ「ぶつかり男」に抗議したことがありました。

10年くらい前、新宿駅の丸ノ内線の改札付近のことです。1人で歩いていたらダーン! と後ろからぶつかられ、例のごとく「無」で進んでいくその人を見ると、ちょうど改札に入ろうとしていました。突然の衝撃で上半身が痛かったし、そのぶつかりの重みに悪意を感じたし、今まで何人もぶつかられてそのまま何も言えなかったことも相まって、思わず私は「わざとぶつからないでよ!」と後ろから言いました。

あえて「わざと」という言葉を入れたのを覚えています。わざと、としか思えないぶつかり方だったからです。改札という壁がなかったら恐ろしすぎて絶対に言えなかったけど、壁があることにより「もし相手が『わざとではない』と釈明してきたり、『お前が邪魔だからだ』と反論されたりしたら、相手の意見もちゃんと聞くぞ」と瞬間的に覚悟を決めることができました(直接の抗議は本当に危険だと思うのでオススメはしません)。

身長170㎝くらいのその男性は、一目で高級と分かるスーツに、腕には豪華な腕時計と装飾品をたくさんつけた、40代と思しきゴージャスな人でした。全身から「お金持ち」があふれているその男性は改札内から私を見るなり、声を張り上げて怒鳴ってきました。

雑踏だったので「Kじjfあ‼ ろひb0えr0!!!!」って感じで何を言ってるかは聞き取れないけど、私からの刺激によって瞬間的に彼の中で何か爆竹のようなものが破裂したことだけは伝わってきました。

「ぶつからないでよ」「あ?! なんだよ」というやりとりがあってから10、20、って徐々に怒りだすならわかるけど、最初から4000万馬力くらいのフルスロットル。顔は“怒った男梅”みたいに真っ赤になっていました。抗議した私のほうが「あ、この人、相当いろんなものがたまってるんだな」と一瞬で冷静になるほどでした。

何言ってるかわかんないけどものすごい怒ってるし、めちゃくちゃ怖い。新宿駅の丸ノ内線の改札は腰の高さまでの柵で仕切られていて、私が歩き始めると、男性も私に怒鳴りながらついてきました。改札内はたくさんの人が行き交っていて、こちらをチラ見する人もいつつ、みんな忙しそうに歩いています。私は最初の一言以外は何も言ってないのですが、彼はまだまだ「義オアhbはとgは:hg0g0えr!!!!」と怒鳴り続けています。

ぶつかられてから1~2分ほどの出来事でしたが、“怒った男梅”みたいな顔になっている彼は最終的に「ラブストーリーは突然に」のジャケットの小田和正みたいに体を反り、天を仰いで「ア゛ーーーーッ!!!!」と叫んでいました。

イラスト】彼は“怒った男梅”みたいな顔で怒鳴り続け、天を仰いで叫んでいました

本当に改札越しでよかったと思いながら、「この人の中には日々の不満が蓄積され、ものすごく疲れているんだな」とも感じました。私に何か怒鳴っているけど、私とは関係ない何かへの不満が爆発している。私も今までの「ぶつかり男」へのメッセージをこの人1人へ込めて放ってしまったけど、それ以上の強烈なものが返ってきてしまい、悲しくなりました。

最近出会った「追いつめ男」

最近は私の体が大きくなったためか、ぶつかられることはめっきり減りましたが、このあいだ1人で子どもを乗せた自転車を押して歩いていたら、向かいから歩いてきた男性がこっちに突進してきました。自転車を押して歩いていい道で、他に人はポツポツといるくらいで人混みではありませんでした。

私は自転車の左側にいて、男性は右前方から突進してきました。だからそのままぶつかったら男性が痛いだけなので「ぶつかり」とは違って、「追いつめ」みたいな感じでした。自転車と壁の間に私が挟まれて動けなくなるみたいなやつ。そんなに広い道でもなかったので、普通だったら「避け合う、譲り合う、すみませんと言い合う」シーンです。だけどそこでグオーってこっちに向かってくるのは本来行くルートと別方向なので、異様だし不自然でした。

私はとっさに「ぶつかり系の人だ」と思って、わざと「えっとあのあの、どっち行ったらいいですか」的な感じで、自転車のハンドルを右左に動かしました。するとその人は私の横で「チッ!」とでかい舌打ちをして駅のほうに歩いて行きました。

スーツではないけど、襟の付いたピシッとしたシャツを着て、それなりの職業に就いてる感のある、私より少し年上っぽい男性でした。

そのあとも何回かその男性を見かけたのですが、いつでも「無」と「怒った男梅」が混ざったような表情で歩いています。

彼の身だしなみの整ったファッションを見ると、仕事先などではちゃんとした人って感じがします。別の立場で会ったら、私にも丁寧に親切に接してくれるかもしれない、ということを思わせます。

最初から攻撃的で破壊的だったわけではない

そういった「ぶつかり男」って「タタリ神」の状態なんじゃないか、と思います。

スタジオジブリの映画「もののけ姫」に「タタリ神(祟り神)」という怪物が出てきます。タタリ神が村に出てきちゃうと、むちゃくちゃ大変です。まず話が通じません。とにかく攻撃しかしてこなくて、村は破壊されます。だから村人もタタリ神を退治しようと攻撃します。

でもタタリ神は触るだけで危険です。勇敢に立ち向かった青年には、死に至る呪いがかかっちゃいます。とにかく徹底してワケの分からない、迷惑でしかないタタリ神。

でも実は、もともとは愛情深くて正義感の強いみんなの頼りになる者が、怒りと憎しみに心をとらわれたために「タタリ神」になる、ということが「もののけ姫」では描かれています。最初から攻撃的で破滅的な人というわけではなく、何かのきっかけがあって「タタリ神」の状態になっている、ということです。

私は、「ぶつかり男」と「タタリ神」を重ね合わせてしまいます。彼らは24時間365日、見知らぬ誰かにぶつかっているわけじゃないだろうからです。きちんと誰かに優しく接する時間もきっとあるだろう、ということを彼らの姿から感じるからです。

「もののけ姫」で、怒りと憎しみにまみれタタリ神になっていく乙事主おっことぬしにサンは叫びます。

「タタリ神なんかにならないで!」

タタリ神になってしまった乙事主を助けようとするサンも、巻き込まれてタタリ神になってしまいそうになります。

憎悪に心を支配されてしまった人が無関係な人たちに危害を加え、周りの人たちが迷惑をこうむり、けがをさせたり逮捕されたり、自分の地位や尊厳も失墜させてしまう。そんな日常生活でよくある光景を「もののけ姫」で見ることができます。

「ぶつかり男」と「タタリ神」の共通点

「ぶつかり男」は「タタリ神」と同じです。その上で、タタリ神にならないようにするには。本人がその、自分の中の憎悪や、それを見知らぬ相手にぶつけて巻き込んでいることに気づかないと無理でしょう。周りの人はどうにもできない。

もし雑踏の中で邪魔な人がいたら「ちょっと通ります」とか言えばいいだけです。ぶつかって何も言わずに立ち去る必要なんてない。ぶつかり男になってしまったばかりに、逮捕されちゃうかもしれない、そんなリスクをおかす必要ないわけです。だから言いたい。

「ぶつかり男なんかにならないで!」

田房 永子(たぶさ・えいこ)
漫画家
1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞(青林工藝舎)。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。ほかの主な著書に『キレる私をやめたい』(竹書房)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)、『しんどい母から逃げる!!』(小学館)などがある。

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