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目玉はないが、好感度はやけに高い…ついに「48歳オタク向け」にシフトしたNHK紅白歌合戦を私が推すワケ

  • 2022.12.8

NHK紅白歌合戦の出場者が11月16日に発表された。コラムニストの河崎環さんはその顔ぶれを見て「高齢者ばかりにおもねらず、だからといって若いZ世代にも媚びず、正しく日本のボリュームゾーンである団塊ジュニアにピントをあてた結果だ」という――。

「NHK紅白歌合戦公式サイト」HPより
「NHK紅白歌合戦公式サイト」HPより
「なんか、目玉がない気がする」

ああ、中森明菜を引っ張り出してくることはできなかったのかあ……。

11月16日、第73回「NHK紅白歌合戦」の出場者が発表されたけれど、その顔ぶれを見て年末恒例の“そこはかとない不安”を生じさせた人は決して少なくなかったのじゃないか。

「なんか、目玉がない気がする」

もちろん紅白出場者リストとは、NHKが毎年、その権威と芸能界における絶大なるブランド力をもって国民的な一大歌番組へと出演を要請できる中でも、最高峰のポップアーティストたちであることには間違いがない。

昭和の時代からいま現在に至るまで、どの年齢層のアーティストにとっても「紅白に出る」とはすなわちその人気や存在が「国民的である」という認定であり、売れ方や実力への太鼓判である。だけどそれ以上に、そのアーティストのファンというもともとポジティブな承認を向けてくれる集団の境界を越え、身近な親類縁者や先生・同級生に地元商店街のおじちゃんおばちゃんという、アーティストにとっての足元にこそ存在を承認され尊敬を勝ち得るという、最大の社会的承認を手にすることを意味するのだ。

高齢日本社会の情報基準は依然NHK

おかしな言い方だけれど「腐ってもNHK」。ネットでどれだけ受信料批判が展開されて、騒ぐ寂しい人たちにとっては旨みのある祭りネタであっても、日本全国津々浦々の年金生活をするご老人や、介護をしたり子育てしたり、リアルな生活者である老若のファミリーの耳には届かない。

彼らは毎日通うクリニックや処方せん薬局の待合室でつけっぱなしになっているNHKを見る。それは1台のテレビ画面に対して多くの人々が待ち時間の10分や30分注視して情報を得、「○○さーん」と名前を呼ばれて去っていくという、日頃の視聴率計算のリーチ外に大きく存在する名前も体温もある視聴者たちの姿である。

高齢日本社会の情報基準は依然、NHKなのである。社会を覆うインフラであるNHKのブランド力は揺らがない。だからそれゆえに、年末の紅白が迷走している姿はちょっとした社会不安を生じさせる。「紅白視聴率歴代最低」という言葉は、在宅率が高くて視聴率が比較的正確に出やすいはずの大晦日の夜においてすら、興味関心が分散し、社会がバラバラになってこぼれ落ちちゃっていることを意味している。

NHKのテレビにおけるブランド力は揺るがない。だが、そのブランドがもうこの社会には効かない。日本はもう、同じ時間に、同じ映像を、だけど別々の場所で別々の人たちと共有し、感動しエキサイトするということをしなくなりつつあるのだ、サッカーW杯以外は。

なぜ日本社会は紅白に「冷めて」いるのか

いま、紅白というワードを聞いて老若男女が抱くのは、具体的な出演者がどうとかいう積極的関心よりも「どこまで続けられるんでしょうねえ」という、どうしたことかみんなで俯瞰的な意見である。熱を帯びておらず、妙にクールだ。

熱狂が生まれず、視聴者がみな批評家のように俯瞰してかかる番組が爆発的な成功を見るわけがない。日本社会は、失われたとされる30年かかって「冷めることにした」んだろうか。

でも私は、こんなに推し消費カルチャー全盛、ある限定された一点の興味関心に向かってはアホみたいにお金も時間も労力も感情も注ぎ込み、ネット空間でも物理でも集団を巻き込んで局地的な祭りを起こすのを大の得意とする、根底が愛しきオタク体質の日本社会が、その年のポップカルチャーコンテンツの集大成といえる(なれる)紅白というイベントに妙に冷めてしまっているのが、よくよく考えると不思議でならない。そもそもの構造として、ポイントポイントで過剰に熱くなれる話題が、それぞれのオタクにとって山盛りのはずなのに。

だって、この秋に起きたキンプリの脱退やジャニーズ事務所の騒動が、どれだけメジャーなメディアが事務所への遠慮から右にならえで真正面からは扱わないようにして声をひそめようとも、ネットを席巻しおばさんや少女たちのリアルな会話を埋め、“本当の世間”の話題を奪っていったか。(私は自分の渾身のネット記事がキンプリ騒動に負けて埋もれて影も形もなく消えたので、歯ぎしりしてそのリリースのタイミングの悪さを呪ったものだ。)

日本の平均年齢、48歳

AKB48の岡田奈々ちゃんの交際発覚で突如大きな話題となった「アイドルの恋愛禁止」の話題が、「どうでもよくね」という冷静な意見と「いや、ファンのためにそういう設定でやってるんだから、そこは夢を守ってもらわないと!」という夢見がちな意見でうまいこと対立の構図ができて、おじさんや少年たち(だが主におじさん)を巻き込んでいったか。

長らくネットで「氷川きよしは紅組なのか白組なのか」「いや彼はピンクだから」と定期的な話題になり、2022年とうとう紅/白の枠組みを超えて横断的な存在となった“氷川きよしタイム”の導入に「NHK英断」「SDGsの体現」「まじサステナブル」とどれほど大きな喝采が起きたか。

そう、ここでそろそろ我々も気づくのだ。実はオタク的消費構造をもっとも力強く牽引するのは、注ぎ込める財力がある程度あり、ネット(ツイート)にも物理(実際に購買行動を起こしイベントなどの現地に行くこと)にも使える時間があり、人生に決して必要ではない余計なことをたくさん考え、無駄な熱量もまだ残ったおじさんおばさんであるということに。

いま、刻々と減少する1億2500万の日本の人口。その平均とは約48歳ザッツ団塊ジュニア、ボリュームゾーンの中央値である。まさにその平均年齢の人々が、日本の暑苦しい(真剣に褒めています)オタクの中央値、「センター・オブ・オタクジャパン」なのである。

NHK
※写真はイメージです
大泉洋がモーゼとなる

紅白再生、いや、再生しなくたっていいけど、少なくとも“ちゃんと盛り上がる”ためには、団塊ジュニアシフトが鍵となる。そろそろ子育ても終わって、会社でもある程度結果が見えてきて落ち着く。自分の時間ができて自由になるお金もあって、情報収集の基礎能力も十分にある。かつ、周りを見回す余裕があり、自分以外への興味がまだ枯れていない(年取って体悪くなり始めると、自分のことで精一杯になるからね)。

篠原涼子に工藤静香、ジャニーズ、坂道諸姉にK-POP、ヒゲダンにキンヌー、Perfumeに純烈、星野の源さんに福山雅治、MISIAとゆず。2022年の出場者リストに対して「FM3層(50代以上の視聴者)を大胆に捨てた」との分析があるが、その通り、これは団塊ジュニア層を対象のど真ん中に据えた戦力配置(団塊ジュニアシフト)なのだ。

そこに、司会者である大泉洋(彼を北海道から全国へ連れ出した『水曜どうでしょう』世代は団塊ジュニア)が、大河の顔を利用し全世代にやけに好感度の高い面白モーゼとなって、新たな「昭和平成令和歌合戦ぽんぽこ」を切り拓く。橋本環奈、スペシャルナビゲーターの櫻井翔、そして桑子真帆アナと、団塊ジュニアで彼らを特別嫌いな人はまあいない、絶妙な布陣である。

祭りには巻き込まれた方が断然楽しい

インフラNHKは、高齢者ばかりにおもねらず、だからといって若いZ世代にも媚びず、正しく日本のボリュームゾーンにピントを当てたのだ。アジア諸外国に比べて圧倒的にコンテンツ業界のグローバル化に遅れた日本の、日本による、日本のための紅白歌合戦。これが2022年の回答だということなのである。

カギは、ターゲットされたオタク団塊ジュニアの熱量が、その企みに応えるかだ。一つだけ言えるのは、「祭りには巻き込まれた方が、人生断然楽しい」ということ。これでとうとう明菜ちゃんが出て「DESIRE」でも歌ったら、テレビの前で30代から50代の女子が突然全員立ち上がってエアマイク持って朗々と歌い上げ、日本中で明菜祭りのツイートと動画が上がるだろう。

河崎 環(かわさき・たまき)
コラムニスト
1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』ほか。

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