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『の方へ、流れる』主演の唐田えりかさん、「イメージと違うと言われても、信頼している人に理解してもらえたら」

  • 2022.12.7

国内外から注目を集めている映画監督・竹馬靖具による最新作『の方へ、流れる』(池袋シネマ・ロサ、下北沢K2などで11月26日から、その後順次公開)で、会社を辞め、姉の営む雑貨店の店番をする所在なげな女性・里美を演じるのは女優の唐田えりかさん。撮影の中で感じた演じることへの思いや、最近になって変化したという「自分との向き合い方」について伺いました。

――『の方へ、流れる』は、ミステリアスでどこに本心があるかわからない女性・里美と、恋人から待ちぼうけをくらった男性・智徳がひょんなことから出会い、奇妙な距離感で会話を重ねていく作品です。言葉の中にある真実を探り合う様子が作品の軸となりますが、脚本を読まれたときの感想を教えてください。

唐田えりかさん(以下唐田): 台本を初めて読んだのはオーディションの前なんですけど、その時は正直……わからなかったんです。

――わからなかった、というのは?

唐田: 会話がずーっと続いていく脚本で、その内容がわからないというより、この脚本が映像になった時に、どうなるかが想像できなかった、という感じでしょうか。その時は、世界観がつかめていなかったんだと思います。

――なるほど。

唐田: でも、竹馬監督の前作『ふたつのシルエット』を拝見して、「こういう世界観で、そこにこんなふうに言葉たちがあるんだ」ってすっと脚本が理解できた、自分の体に染み込んできたような感覚があって。これは絶対に自分が演じたいって、改めて感じました。

朝日新聞telling,(テリング)

私のことをちゃんと見てくれている

――そんな中でオーディションに臨まれました。印象的だったことを教えてください

唐田: ひたすら本読みをしました。お芝居をするというよりも、声を通して自分というものを見てもらう感じに近かったです。オーディションでは「私のことをちゃんと見てくれているんだ」っていう安心感から自然と自分が開いていく感覚があったんですね。

――唐田さんご自身を「見てくれている」ということですか、それとも“女優・唐田えりか”をということでしょうか?

唐田: まず私自身というものを見てくださっているな、という感覚に近かったです。

――女優さんとしてオーディションに行かれていて、そこで女優としてではなく、唐田さん自身を見られるというのは、居心地が悪くなかったですか?

唐田: たぶん私がまだ女優としてそこまで自信がないっていうのもあると思うんですけど、女優である前にまずは、人間……自分の本当の部分を見てくださっている感じがしたので嬉しかったです。

――出演が決まってから、どこか本⾳がつかめない里美をどう演じていこうとイメージしましたか?

唐田: 里美が相手に向けて発する言葉はキツイところも多いし、棘もあるけど、私としてはそんなに嫌な女の子だとはとらえてなくて。演じるにあたって監督から「台本を信じてください」と言われたので、私はセリフを信じてお芝居をしていこうと、身を任せるようにやりました。演じていて不安なことがあっても、監督がOKしてくれたら「大丈夫なんだ」と思うようにして、撮影しました。

――里美の他人を煙に巻くような言動は、魅力的ではありますが、あえて言えば「女友達が少なそうな」というか……(笑)、厄介な性格のようにも感じたのですが、唐田さんは里美という人物を好きになれましたか?

唐田: たしかにあまり深く考えずにズバズバ思ったことを発してしまうところがある子ですよね。小中学生の頃、クラスにひとりはいたような、そんなタイプの女の子がそのまま大人になったみたいな。ただ私は、どんな作品でも演じるにあたって、まずその役を好きになろうと努力をするんです。

――男性に辛辣な言葉を浴びせたり、急に駆け引きのようなふるまいをしたりする魔性な部分も好きになれましたか?

唐田: 演じている時は里美という子がどんなふうに見られるとか、こんなふうに見えてほしいとか、そういったことはあまり考えていなかったように思います。会話を繰り広げる相手役の遠藤(雄弥)さんの行動や、目の動き一つひとつに注目して、そこに反応して勝手にセリフが出てきた感覚の方が大きいです。

――それは里美という役が憑依している感じなのでしょうか?

唐田: 憑依という感じではないですね。ただ、私はもともと感じることを大切に思うというか、「今、相手はこう思っているかな」とか感じることが多くて。お芝居をしている時にも感覚を研ぎ澄まして相手のお芝居を受け取ることができるように、とは思っています。

――「竹馬監督の演出を受けて、自分がより自分になっていく感覚があった」とコメントされていましたが、詳しくその感覚について伺えますか。

唐田: 「感情を優先させないように」という演出を受けていたので、言葉の一つひとつを一貫して大切に意識しました。その中で遠藤さんとセリフを交わしていくうちに、言葉を越えて出てくる感情みたいなものを感じる瞬間が多くありました。役を演じてはいるんだけど、自分の体の中で感じたことと、役として感じることの壁が一切なくなる瞬間みたいな。本当に、役と自分がひとつっていう感覚。頭で計算したりせずに、感覚で演じることができたっていうのは、すごくありがたい経験でした。

――完成した作品をご自身で観て、いかがでしたか?

唐田: 私はまだ自分が出ている作品を客観的に観るということがあまりできなくて。自分の芝居に注目して観てしまうほうなんですけど……だからけっこうハラハラしながら、「観た人はこれ、どう思うんだろう?」って。

朝日新聞telling,(テリング)

他人の声に左右されず自分を保ちたい

――作品の中で、女性に対して身勝手な幻想を抱いている智徳を、里美が冷静に言葉で追い込んでいく場面があります。見た目だけで「清純そう」とか、他人から勝手にラベリングされる経験を女性なら一度は、“したことがあるよなぁ”と、リアリティを感じました。

唐田: そうですね、「思ってたイメージと違う」と言われたりすることは誰しもあるかもしれないですね。私自身は、自分が信頼している方に理解してもらえることが一番ありがたくて。今はそうなれることを目指しています。

――では、他人からイメージを押し付けられたり、勝手に幻滅されたりというようなことはあまり気にしないですか?

唐田: 仕事上、演じる役によって観る方が私に対して持つイメージも変わると思うので全く気にしないということもないんですけど、他人の声に左右されず、なるべく自分を強く保っていたいとは思います。

朝日新聞telling,(テリング)

モラトリアムから逃げたくない

――本作の中で里美は、仕事を辞めて喪失感を抱え、モラトリアムのような時間を過ごしていますよね。日々を突っ走るように生きてきた人たちは共感する部分があるように思います。唐田さん自身は、そういった、ちょっと糸が切れた時間をどんなふうに過ごすことが多いですか?

唐田: そういう時間ができたとしても、私はなるべくその自分から逃げないというか、自分の弱いところと向き合って、根っこにある原因を探すようにしています。

――悩んでいることがあっても立ち止まらず動き続けていたい?

唐田: そうですね。「なんでできない?」「なんでこうなった?」というように、“なんで?なんで?”を自分の中で繋げて解決策を見つけるようにします。

――昔からそういう性格だったんですか?

唐田: 昔は、そうではなかったかもしれないです。ただ、最近は考え方も変わってきて、“動き続けなきゃいけない”“立ち止まっていたらいけない”と思うようになって。なるべくモラトリアムな時間から、逃げないようにしていますね。

――お仕事を始めてから自分との向き合い方も変わっていった、ということでしょうか?

唐田: はい。私は不器用なので、たとえばお芝居でも疑問点があると、うまく演じられないほうなんです。その時も逃げずに、クリアにするよう努力しています。

■田中 春香のプロフィール
大学卒業後、芸能事務所のマネージャーとして俳優・アイドル・漫画家や作家などのマネージメントを行う。その後、未経験からフリーライターの道へ。

■岡田晃奈のプロフィール
1989年東京生まれ、神奈川育ち。写真学校卒業後、出版社カメラマンとして勤務。現在フリーランス。

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