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ドラマ『つくたべ』が描き出すジェンダーロール(性役割)のさりげなさ

  • 2022.12.5

夜ドラ『作りたい女と食べたい女』(NHK)は、比嘉愛未演じる“作りたい女”野本さんと、西野恵未演じる“食べたい女”春日さんの、2人の女性に焦点を当てたドラマ。ゆざきさかおみによる同名漫画が原作です。おいしそうな料理を媒介に交流を深めていく2人をとらえつつ、ジェンダーロール(性役割)にまつわるモヤモヤまでも切り取る、1〜3話の内容を振り返ります。

飯テロ+同性愛+ジェンダーロールを描き出す

飯テロと同性愛をテーマにしたドラマといえば、真っ先に思い浮かぶのは『きのう何食べた?』(テレ東系)だろう。よしながふみによる同名漫画を原作にしたドラマシリーズは、その人気さゆえに劇場版にもなった。西島秀俊演じる史朗(通称シロさん)と、内野聖陽演じる賢二のコンビが、なんともほほ笑ましく描かれている。

こちらの作品は男性同士の恋愛を描いているが、夜ドラ『作りたい女と食べたい女』(以下、『つくたべ』ドラマ)は、女性同士の恋愛に焦点を当てている。

野本さん(比嘉愛未)は、料理を作るのが趣味。SNSに料理の写真をアップすれば、すぐにコメントやいいね! がつくほどの腕前だ。野本さんと同じマンションに暮らす、お隣のお隣さんである春日さん(西野恵未)は、とにかくよく食べる。11月29日に放送された第1話では、大量のチキンが入ったボックスを両手に提げる春日さんの描写が。原作にもあるシーンだが、映像となると、また違った迫力が感じられる。

作りたい女である野本さんと、食べたい女である春日さん。大量のチキンを「1人で食べます」と言った春日さんに対し、野本さんは好奇心を抑えられない。デカ盛り料理を作りたい欲求はあれど、小食である野本さんには全部を食べきれないのだ。その点、春日さんならおいしく完食してくれるに違いない。

その予感は的中。大盛りのルーロー飯やオムライスなど、次々と平らげていく春日さん。気持ち良い食べっぷりを見守る野本さんの様子も相まって、なんともほほ笑ましい。出てくる料理の、たいそうおいしそうなこと。料理を媒介に、2人は交流を深めていく。

このドラマのすごいところは、飯テロドラマとしてのクオリティーもさることながら、原作に忠実に「同性愛」「ジェンダーロール」「女性の雇用問題」などの、センシティブなテーマを扱っている点である。

意図や悪意なく生み出される“偏見”

ジェンダーロール(=性役割)とは、性別によって役割が分けられてしまう考え方を指す。第1話に登場したシーンを例に挙げよう。野本さんがデスクで手作り弁当を広げていると、男性社員に声をかけられる。

「野本さんって、絶対良いお母さんになるタイプっすよね」
「良いなあ、俺も彼女にお弁当作ってもらいたいなあ〜」

女性=料理が上手、といった構図があると、なぜか「良い妻」もしくは「良い母」につなげられるパターンが多い。これは、立派なジェンダーロールだ。男性社員からの言葉を受け、野本さん自身も「自分のために好きでやってるもんを、全部男のためだって回収されるの、つれえなあ〜」とぼやいている。相手に悪気はなく、むしろ褒め言葉として言っているからこそ、このモヤモヤは発散しにくい。

仮に、野本さんが男性だった場合、同じことをしていても「良いお父さんになるタイプ」とは言われないだろう。

同じく第1話では、飲食店で唐揚げ定食を頼んだ春日さんが、「女性だから」という理由でご飯の量を減らされてしまうシーンもある。こちらも、仮に春日さんが男性だったなら、されなかった配慮である。

野本さんに声をかけた男性社員も、春日さんに提供するご飯の量を減らした店員も、その発言の根本にあるのは“優しさ”なのだ。だからこそ、ジェンダーロールに当てはめられた側も、むやみに反論できなくなる。差別や偏見は、いつだって意図や悪意なく生み出されるものなのかもしれない。他者に対する想像力が大事だと、あらためて教えてくれるドラマである。

15分に込められた制作陣の本気

同性愛をテーマにしたドラマが増えてきた。2022年12月現在放送中のドラマ『ファーストペンギン!』(日テレ系)でも、『君の花になる』(TBS系)でも、男性同士のカップルが登場している。

しかし、記事冒頭に挙げた『きのう何食べた?』もそうであるように、男性同士の恋愛が描かれることはあれど、女性同士の恋愛が主軸となることは少ない。直近では、Netflixオリジナル映画『彼女』くらいではないだろうか。どちらかというと、シスターフッド(女性同士の連帯)に寄った作風が目立つ。

こういった背景がありながら、『つくたべ』ドラマは、原作に忠実に「女性が女性に惹(ひ)かれる瞬間」を細やかに描く。放送前から、制作陣の本気が感じられ、丁寧に作られていることが伝わってくる。

その筆頭となるのが、制作統括を担うNHKエンタープライズ・坂部康二、そして脚本家・山田由梨の存在だろう。

坂部康二は、一般的には表に出ることのない制作統括としての立ち位置から、実名でSNSアカウントを公開。『つくたべ』ドラマの制作過程をつづっている。扱うのがセンシティブなテーマであるだけに、「キャストや他のスタッフが矢面に立つことが減るよう、プロデューサーとして自分の言葉で発信していきます」と語る覚悟は頼もしい。

そして、Abemaオリジナルドラマ『30までにとうるさくて』の脚本も手がけた山田由梨が、オリジナルのキャラクターやセリフも交えながら『つくたべ』ドラマの世界観を作り上げる。ご自身も書籍などでジェンダーマイノリティーについて学びつつ、ドラマを見て傷つく人がいないよう、専門家も監修に付けているそう。1話15分に込められた、制作陣の本気を感じずにはいられない。

言いにくいことを言葉にする大切さ

原作を読んでいる方なら、春日さんのイメージ通りっぷりに驚いたのではないだろうか。居住まい、声のトーン、すべてが脳内で再現していたとおり。彼女の朴訥(ぼくとつ)とした語り口や素朴な魅力を、オーディションで決まったという西野恵未が見事に表現している。

飯テロ、同性愛、ジェンダーロール。このドラマにおいて言及したいテーマは数々ある。そのひとつとして、「言いにくいことを言葉にすることの大切さ」も挙げたい。

第2話にて、料理を作ってくれる野本さんに対し、お返しとして食費を渡そうとする春日さん。野本さんは「作りたくて作っているわけですし」と遠慮するが、春日さんは「このままごちそうしてもらい続けるだけだと、お互いがフェアじゃない気がして、私がイヤです」とはっきり主張する。

お金の問題をはじめ、食い違う価値観について早めに言葉にしておくことは、どんなコミュニケーションにおいても重要である。真正面から堂々と「イヤです」と言える春日さんが、眩しい。きっと、野本さんは彼女のこういった面にも惹かれていくのだろうと想像できる。

思うことは言葉にして伝える、真っすぐな春日さんの姿勢は、第3話でも見られる。飲食店でギョーザ3人前とご飯を頼んだ春日さんに対し、その注文の仕方にイチャモンをつけてきたスーツ姿の男性。「ギョーザには米じゃなくて、やっぱりビールが一番なんすよ」と絡んでくる彼に対し、春日さんは大ジョッキのビールを飲み干して「これで、いいですか?」と言ってのけた。なんとも、しびれる。

人間関係における、あまたのすれ違いは、大事なことを言葉にしなかったり、勝手に推測してしまったりすることで生まれやすい。春日さんのスタンスには、多くのことを学べるはず。

第4話以降は、週末にドライブデートに出かける野本さんと春日さんが見られそうだ。よりお互いのことを深く知っていく過程が、どのように描かれていくのだろうか。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■emma(絵馬)のプロフィール
福岡県出身。現在は大阪在住のイラストレーター&クリエイター。"変化を起こすトキメキ"をテーマにPOPなイラストを描いています。WEBサイト、ノベルティーグッズ、イベントロゴ、動画などでイラストを提供中。趣味は映画、ドラマ、アニメ、ミュージカルなど鑑賞に偏りがち。

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