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愛犬を亡くした伊集院静。「投げ出してしまいたい」それでも書き上げた思いとは

  • 2022.12.5

ペットを飼うなら、いつか来る別れは避けられない。大好きなパートナーを失う悲しみを経験したことのある人は、多いはずだ。

作家の伊集院静さんもその一人。「東北一のバカ犬」と可愛がってきた愛犬・ノボが、2021年1月に旅立った。伊集院さんは、ノボとの別れを一冊の本につづった。『君のいた時間 大人の流儀Special』(講談社)だ。

本書は、累計228万部突破のベストセラー「大人の流儀」シリーズの特別編として発売された。

仙台の実家と東京の仕事場を行き来する伊集院さんの、多忙な日々を支えてきたノボ。大切な存在との別れを文章にするのは、簡単なことではなかったという。

編集部から、亡くなった愛犬のことをまとめて一冊の本にしたいと申し出られた時、
――それはたぶん完成しないだろう......。
と確信があった。
あれほど好きだった犬のことをスラスラと書けるわけがない。担当者にも尋ねたが、犬のことを書いて欲しいという人は、まず犬も猫も飼ってないし、飼った経験がない。
(本文より)

ペットを亡くしたことのある人なら、この気持ちに共感できるのではないだろうか。伊集院さんはさらに「実はこのような本、投げ出してしまいたかった」とまで書いている。

何度も書き直しながらも、こうして出来上がった本書。ノボと過ごしたかけがえのない思い出、ノボへの思い、愛が全てのページに詰まっている。もし今ペットとの別れの悲しみが癒えていない人がいれば、本書はその心に寄り添い、ともに乗り越える助けになってくれるだろう。

出逢えば別れは必ずやって来る。それでも出逢ったことが生きてきた証しであるならば、別れることも生きた証しなのだろう

[目次]

第一章 いったい誰に似たのやら
ダメな子ほど可愛い
初めて哀しい顔を見た
売れ残った犬
一緒に木槿を眺めた
いったい誰に似たのやら
いつか別れが来る
たぶんわかっているのだろう
風に吹かれて
犬には犬なりの考えがある
待て! 待てだぞ
私のほうが救われている

第二章 運命の出逢い
あいつ、どうしてるだろうか
明日は我が身
今食べたばかりだろう!
ふいに切なくなった
どこ行ってたんだよ
運命の出逢い
おまえは十分に生きた
我が家に酸素室が入った
ノボが不良になった朝
生きる速度が違うのだ
よく、ガンバッタナ

第三章 かけがえのない時間
犬も辛抱せねばならぬ
一匹の寝つく力
どこへ行くのかナ
バカだね、おまえは
少しは心配せんか
かがやくガラクタ
言葉が返ってこなくても
犬に誕生日があるのか!
あの犬メ~
かけがえのない時間

第四章 ともかくノボよ、ありがとう
飼い主と犬以上のもの
とぼけたような瞳
いらぬ手助けはしない
二人で眠るとしよう
ともかくノボよ、ありがとう
悲しみは、ふいにやって来る
そうか、君はもういないのか
急に静けさがひろがった
グズグズした男になるな
人は歩きだすしかない
出逢いを忘れずに
ずっと隣にいてくれた

特別収録
湘南のちいさな海辺で

■伊集院静さんプロフィール
いじゅういん・しずか/1950年、山口県防府市生まれ。72年、立教大学文学部卒業。81年『皐月』で作家デビュー。91年『乳房』で吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で直木賞、94年『機関車先生』で柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で吉川英治文学賞受賞。作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』『春の旅人』などを手掛けている。2016年に紫綬褒章を受章。

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