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たくさんの出会いと憩いのチャンスに満ちた、創業90年の銭湯「黄金湯」:東京ケンチク物語 vol.37

  • 2022.12.5
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家にお風呂があったって、楽しい銭湯なら絶対に行きたくなる!リノベーションによって、町の居心地のよい拠点として生まれ変わった、創業90年の銭湯を訪ねました。

黄金湯
KOGANEYU

洗面器に石けんとタオルだけを入れてトコトコ歩いて通うとか、壁の向こうの家族に「そろそろ出るよ〜!」と声をかけるとか。ノスタルジックな銭湯のエピソードは、今やすっかり昭和歌謡や落語の中の世界。それぞれの家庭にお風呂があるのが当たり前になって以降、銭湯は激減し続けている。1965年の都内の銭湯の数は2600軒以上。これが2021年末には481軒だというから、業界の苦戦ぶりがうかがえる。

ところが、そんな苦悩はどこへやら?というほどの賑わいを見せる銭湯がある。錦糸町駅から歩いてすぐの「黄金湯」だ。辺りの景色に溶け込むタイル貼りのマンションの1階。1932年に創業したこちらが、この建物内に移転したのは85年のこと。それが老朽化を機に大幅な改装を行って、一昨年再オープンした。

内装設計を手がけたのは長坂常。「ブルーボトルコーヒー 中目黒カフェ」や「イソップ 青山店」をはじめ、多くのリノベが知られる建築家の力量は「黄金湯」でも大いに発揮されている。内装では、男女のエリアを分ける、2.25mという絶妙な壁の高さを手がかりに、それより下部は明るいベージュトーンで、上部は打ち放しコンクリートで統一。風呂場の上部コンクリート壁には、漫画家ほしよりこが銭湯絵を描いた。男女で続き物のストーリー仕立てになっているというこの銭湯絵、「女湯/男湯はこうだったよ」という会話のきっかけになりそうで楽しい。この「黄金湯」のさらに愉快な部分は、エントランスまわりだ。昔ながらの銭湯ならば、男女別の入り口の真ん中に素っ気ない番台があって、その周囲に自動販売機やマッサージ機、靴箱があって……といった様子が普通だが、こちらの“番台”はDJブースやビアサーバーも設置された「ロ」の字型のカウンター。お風呂上がりに牛乳やクラフトビールが楽しめる、さながら「番台バー」だ。さらにこの番台バーは、ガラスの引き戸越しに町に大きく開かれていて、通りを行く人からも、めいめいにリラックスした時間を過ごす人たちの姿が目に入る。レコードから流れる音楽を聞いたり、一杯だけ飲んだり、隣り合った誰かとちょっと話したり……。ひとっ風呂浴びるだけじゃない、たくさんの出会いと憩いのチャンスに満ちた場だ。

GINZA2022年7月号掲載

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