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部下の「特にありません」に絶句してはいけない…深い会話ができる上司の"質問フレーズ"

  • 2022.12.3

部下が意見を出してくれないときはどうしたらいいだろうか。プロコーチの原田将嗣さんは「意見を求めた部下から『特にありません』と返ってきても大丈夫。さらに掘り下げる質問を投げかけましょう」という――。

※本稿は、原田将嗣『最高のチームはみんな使っている 心理的安全性をつくる言葉55』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

オフィスで働くビジネスパーソン
※写真はイメージです
「意味がわからない」ときにかける言葉

×「意味わからないんだけど」
○「理解したいから聞くんだけど、もうちょっと教えてくれないかな?」

誰もが意見を言い合える心理的安全性の高いチームでは、時に意見の衝突が起こります。

議論が白熱すると「意味がわからない」とか「君はわかってないな……」などと言いたくなることもあるでしょう。

しかし、このような発言は会議を険悪な雰囲気にし、「話しやすさ」の因子を下げてしまうだけ。そこから議論が発展したり、いいアイデアを思いつく未来はあまり見えてこないですよね。

「意味がわからない」と単に否定するスタンスではなく、相手の意見の背景まで、踏み込んで聞くことが、価値あるゴールに向かって健全に意見を衝突させるために有効でしょう。

そこで使っていきたい「おかえし言葉」が「理解したいから聞くんだけど、もうちょっと教えてくれないかな?」です。

ポイントは「理解したい」と伝え、相手が自分なりの意見を言いやすくすることです。

同じ機能を持った言葉には他にも、

「お客さまだと思って説明してもらえますか?」
「その分野の素人だと思って説明してみてもらえますか?」

などがあります。

はじめは「まとはずれ」とか「突飛な意見だな」と思えるものでも、その意見が出てきている背景や着眼点、思考のプロセスなどが共有されることで、その背景を踏まえたアイデアが出てくることもあるでしょう。

人はなぜ意見の対立を怖がってしまうのか

心理的安全性がない状態では、なぜ意見の衝突を怖く感じてしまうのでしょうか。

それは「意見の対立」がそのまま「人間関係の対立」となってしまうから。たとえ業務上の意見が食い違っただけでも、当事者間ではつい「コトよりヒト」に目が向いてしまい、人間関係にまで影響してしまう傾向があるのです。

その結果、「○○さんにひどい指摘をされた」「○○さんと私はソリが合わない」「○○さんは、きっと私のことを嫌っていると思う」といった考えや感情が湧き、人間関係が修復不可能に……。

そんな事例は枚挙にいとまがありません。あなたももしかすると、そんなケースを見聞きしたり、当事者になってしまったことがあるのではないでしょうか?

そうした諍いは、もちろん組織やチームにとって、望ましいものではありません。しかし、人間関係の対立を過度に恐れ、意見の衝突を避け続けることも、仕事を進めるうえでは問題です。

例えば上司の方針の致命的な問題に気づいていても「いいと思います……」と答えるといったように、「問題に気づいている人がいるのに、言えなくなる」ことは、時に大きなトラブルや不祥事につながるような重要課題。

ですから、「トラブル防止や業績向上のため、意見を自由に衝突させることができる」けれども、それが「人間関係の対立に発展するわけではない」という、心理的安全性が担保されシナジーを生むような衝突、いわば「健全な意見の衝突(ヘルシーコンフリクト)」が重要なのです。

「健全な意見の衝突」は、チームの成長に欠かせない

健全な衝突とは、価値あるゴールに向かって、多様な意見が出尽くしている状態を指します。私たちのチームの会議でも、発言をしていないメンバーに意図的に話を振っていきます。もし「ちょっとズレているかも?」と思う意見があっても「理解したいから聞くんだけど、もうちょっと教えてくれないかな?」とこの言葉を使ってみると、たくさんの人の意見を引き出しやすくなります。

この「おかえし言葉」に加えて、均等な発言量を目指したり、比較的経験の浅いメンバーから順に意見を聞いていくと、発言が出やすくなるでしょう。

「なぜ、できなかったのか」を聞いてはいけない

× なんで、できなかったの?
○ やってみてわかったことを、一緒にふりかえってみよう

成果や進捗を報告・共有する会議の場を想像してみましょう。

なかには思ったような内容ではないものもあるでしょう。そんなとき「なぜ、できなかったのか?」を聞くことは心理的安全性のためにも、会議の活性化のためにも、さらには成果を上げるためにも、実は有効ではありません。

「なぜ?(Why?)」と聞かれたら思考が止まり、「すみません」と謝罪や後悔が出てきてしまいます。

「なぜ」を問う代わりに「なに」「どこ」を聞いて状況把握をしたほうがいいのです。

ここでは、取り組みの後の“収穫”について、たずねるやり方を紹介します。

この言葉かけの目的は「行動をした本人」しか知り得ない体験や情報を言語化してもらい、会議の場で共有することです。その共有を通じてチームと本人の学びを深めることが狙いです。

ですから、成果が出た場合であっても、この問いかけは役に立ちます。

具体例で考えてみます。人材開発などを担う課で、新人研修を担当したメンバーがいたとしましょう。

ビジネス人材会議計画戦略、事業計画、事業進捗報告書について語る
※写真はイメージです

「今回の研修、あまり参加者から意見が出てこなかったね。なんでなの?」と成果について問い詰めても

「はい……すみません」とか「今年の新人は大人しくて……」と返ってくるだけでしょう。

そうではなく、次の例を参考にしてみてください。

「今回の新人研修、やってみてわかったことを、一緒にふりかえってみよう」
「そうですね。思ったように新入社員から意見が出てきませんでしたが……参加者同士の会話を聞いていると、○○という問いかけが、実は答えにくいようでした」
「なるほどね。どういう問いかけをすると答えやすそうか、一緒に考えてみよう」

部下の「特にありません」を掘り下げるフレーズ

「やってみてわかったことを教えて」。

そんな問いに「特にありません」という回答が返ってきたとしても大丈夫。次の例のように、さらに掘り下げてみてください。

「Aさんは特にないって言うけれど、もし何か“収穫”があったとすると、それはどんなことでしょう? 会社にとって不都合なことでも構わないので、思い出してみて」
「うーん。ちょっと言いにくいんですが、競合と比べてお客さまが不十分だと感じているポイントを教えてもらいました。それを聞いてセールスしにくくなっちゃいました……」
「なるほど! それは開発部と共同で改善すべき大事な発見だと思います」

このように「収穫」を掘り起こす質問・問いかけは「壁打ち」(自分の考えなどを人に話し、そこから返ってくる反応を元に、さらに考えを深める手法)の一種とも言えます。

ビジネスの提案をする女性
※写真はイメージです

会議で責めるトーンではなく、学習・収穫を引き出すトーンでこの「壁打ち」を行うことで、チームの「話しやすさ」「挑戦」因子が高まります。

想定外は学びの宝庫と捉える

実際のところ、私たちが仕事をしているこの時代には、多くの「うまくいかないこと」や「想定外のこと」が起き続けます。

それはもはや避けようもない前提となる時代です。

失敗やトラブルに落ち込んだり、反省したりすることに時間を使っている場合ではなく、「想定外」のことすら「変化に気づき、軌道修正するための学びの宝庫」だと捉えるといいでしょう。

この「おかえし言葉」を参考に、たとえ想定外のことでも「現実」から情報を掘り起こし、「わかったこと」をチームで共有し、学びへ変えていきましょう!

立場の違う相手には「自分視点」で話さない

× こっちの立場も考えてくださいよ!
〇 ○○の観点では、こう思います

会議の場では、立場の違う相手と議論することもあるでしょう。例えば営業部門と開発部門、コーポレート部門と事業部門……立場が違えば担っているミッション(使命・役割)も違い、意見がまとまらないことがよく起こります。

原田将嗣『最高のチームはみんな使っている 心理的安全性をつくる言葉55』(飛鳥新社)
原田将嗣『最高のチームはみんな使っている 心理的安全性をつくる言葉55』(飛鳥新社)

立場が違うだけなのに、ついつい私たちは「相手の意見=相手そのもの」と捉え「あの人は話が通じない」「あいつはわかってない!」「嫌い」など、人そのものの評価をしてしまいがちです。

当の本人は、自分の役割や立場に責任を持って発言しているだけなのに、人間関係の衝突・問題に発展してしまっては、組織間やチーム内外の心理的安全性を下げてしまいます。

そのようなときには「立場をわかってもらおう」と躍起になるのではなく、まずは「自分と意見の間に少し距離をおいた」この言葉を使うことをオススメします。

主語を変えれば「個人vs個人」の対立にならない

利害が対立し、衝突が起こりそうなときに、「これだと、うまくいかないのでは」「もっと、こうしたら」というフレーズを使うと「個人vs個人」の対立になりがちです。

それを「課題やゴール vs ○○の立場」という構図に「スライド」させてみましょう。

具体的に言うと、「私は~」という主語を「○○の観点では」という言葉に置き換えればいいのです。

「新商品のリリースは、いつに設定しましょう? できるだけ今期で実績を積みたいので、早めがいいと思っていて、連休直前を予定しているんですが」
「スケジュールは、お任せします。ただ広報の観点から言うと、企業向けの商品なので、連休直前の新製品のリリースは避けたほうがよいかと思われます。企業担当者が連休明けまで動かないためです」

別の例も見てみましょう。

「このパッケージ、どうでしょう。シンプルなデザインがトレンドなんです」
「モダンなデザインでいいですね! ただ、営業の観点で言わせてもらうと、店頭に並んだとき、他社の製品に埋もれてしまい、目立ちづらいように感じるのです」
「目立たないのは困りますね。じゃあ、派手なバージョンに戻してみましょう」

このように「目立たせたほうがいい」という意見を伝えたいとき「目立ちづらいと思います」とストレートに投げかけると、たとえそれが的を射た意見であっても、相手は聞き入れにくいもの。

しかし「営業の観点で言うと……」というフレーズに変えることで、「発言者個人の好みではなく、営業の視点から、意見をくれているのだな」と受け取られることで、「それなら話を聞こうかな」と建設的な議論をしやすくなります。

図表1のように、それぞれの人が一見バラバラなことを言っているようでも、目的地に安全に向かう同じ船の仲間だということを思い出しましょう!

出所=『最高のチームはみんな使っている 心理的安全性をつくる言葉55』

原田 将嗣(はらだ・まさし)
プロコーチ、ZENTech シニアコンサルタント
スターツグループで営業・人事・コンプライアンス部門での経験を経て、2020年プロフェッショナルコーチとして独立。現在はZENTechシニアコンサルタントとして心理的安全性を切り口にコンプライアンス意識の浸透・ダイバーシティの醸成や、デジタルトランスフォーメーションの土台となる組織づくりを支援。「組織・チームで使う言葉」をテーマにした研修を行っている。

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