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考察『ファーストペンギン!』8話「有害な男らしさ」の中でもがく堤真一はどうなる?

  • 2022.11.30

水曜ドラマ『ファーストペンギン!』(日テレ系)は、実話をもとにしたドラマ。漁業の世界に飛び込んだシングルマザーを奈緒が演じます。脚本は『ごちそうさん』『おんな城主 直虎』(NHK)、『天皇の料理番』『義母と娘のブルース』『天国と地獄〜サイコな2人〜』(TBS系)などを手掛けた森下佳子。政治家ぐるみの大きな力にバラバラにされかかる和佳(奈緒)たち「さんし船団丸」はどう戦えばいいのか。片岡(堤真一)の苦悩を中心に8話を振り返ります。

政治と「男らしさ」に立ち向かう

「ジャンヌ・ダルクじゃあやぁ……」

水曜ドラマ『ファーストペンギン!』(日本テレビ系)第8話、水産フェアで堂々と講演をする和佳(奈緒)の姿に、片岡(堤真一)は驚き、感動し、思わずこうつぶやいていた。

「みんなで、日本の漁業を、海を蘇らせていきましょう!」

講演会場に集まったイカつい漁師たちに物怖じすることなく、和佳は呼びかける。普段、あまり感情をあらわにしない「さんし船団丸」の新人漁師・小森(北川尚弥)も、このときばかりはいの一番に立ち上がって拍手を送っていた。

前回の第7話では、さんし船団丸も所属する汐ヶ崎漁業協同組合などを地盤にしていた元議員・辰海(泉谷しげる)が登場。漁協やそれをまとめる漁業協同組合連合会と、それらを票田にする政治家との結びつきを描いた。漁業に限らず、さまざまな業界は大なり小なり政治家に恩があったり、悪い場合は賄賂や談合などのつながりがあったりするのだろう。漁協以上の大きな力に、和佳やさんしがどう立ち向かうのかが、第8話の見どころのひとつだった。

そして、第8話でフォーカスされたもうひとつのポイントは「男らしさ」の問題ではないだろうか。

さんしの漁師たちと片岡が仲違いしてしまい、片岡、小森、和佳だけが残された事務所。片岡は「わしと、あんた(和佳)と、そいつ(小森)と、こっから3人で出直しじゃ!」と虚勢を張るが、たった2人の漁師と社長がいるだけで漁には出られない。山中(梶原善)は、片岡にミスを疑われた、信じてもらえなかった、と憤って出て行った。磯田(吹越満)は、新人教育や母親のケガなどの心労に耐えられなくなった。そして、他の漁師たちはこのふたりに続いてしまった。

片岡が、疑ったと思わせて悪かった、心労をかけて悪かったと謝れば、話の通じないふたりではない。けれど、片岡は彼らに連絡もせず、会いに行こうともしない。それどころか、どうせ自分が悪いんだと卑屈になっていってしまう。

和佳が水産フェアで注目を浴びたことで、片岡のいじけはさらに深まっていく。堂々とした講演をし、農林水産省の職員たちとも落ち着いて話せる和佳。小森は、片岡よりも和佳のそばについていくようになる。さらに、官僚から漁師になり、現在は1次産業のビジネスコーディネーターをしている波佐間(小西遼生)が登場した。片岡と波佐間は同じペンギン柄のネクタイをしていたのに、和佳は波佐間のネクタイだけを褒める。そんなことが積み重なって、片岡はますます拗ねていく。

人を頼れない悪い頑固さが

謝ることができない。自分が注目されていたり、一番優先されていないと気が済まない。そんな片岡の姿から「トキシック・マスキュリニティ(Toxic Masculinity)」という言葉を連想した。日本語では「有害な男らしさ(男性性)」と訳される。「男性はこうあるべき」と考えられる行動規範のなかでも、負の側面があるとされる男らしさを指す言葉だ。トキシック・マスキュリニティに無自覚だと、他者への差別や暴力につながる。また、男性は強くあるべきという規範を内面化することで「助けを求められない」など、自分が苦しむことにもなる。

第8話の片岡は、まさに「助けを求められない」状態だった。和佳とケンカしてみなとみらい線の駅に置き去りにされてしまう。スマートフォンの電池も切れた。現金もほとんど持っていない。駅員や周りの人に声をかけて、充電器や電話を借りたり、公衆電話で息子の琴平(渡辺大知)に連絡したり、または和佳に「迎えに来てくれ」と頼んだりすることだってできたはずだ。「(琴平)祐介に借りるしかない」という考えが浮かんで、それをボソリとつぶやいたときもあった。でも、彼は行動しない。

わかりやすく「男たるもの」といったセリフはない。けれど、琴平を頼りたいが頼れないこと、ファミレスで店員に頼みごとができないことなどから、片岡の意地や恥ずかしさ、人を頼れない悪い頑固さが感じられる。

もうひとり、人を頼れない男らしさにとらわれていたのが磯田だ。母親・靖子(鷲尾真知子)がケガで歩行困難になり、以前のように家事ができなくなっていた。洗濯物や洗い物が溜まった様子の磯田家を見て、そよ(志田未来)が手伝いを申し出るが「そういうのは母ちゃんが一番嫌がる」と断ってしまう。嫌がるというのは嘘で、磯田は、家のことは息子(男)の自分がやるべきだと、抱え込もうとしていたのではないだろうか。

それを見て行動を起こしたのは靖子のほうだった。自ら梨花(ファーストサマーウイカ)を家に呼び、磯田には写真付きで「梨花ちゃんにうちのことお手伝い頼んだけぇ。がんばれ」とメールを送る。荷が下りた磯田は、再び自分がやるべきさんしの仕事に戻ることができた。

片岡に手を差し伸べたのは琴平だ。同性パートナーと一緒に暮らす家に片岡を連れて行き、話を聞いてあげた。ところが、琴平は「お客さんはどうするの」「無責任なんじゃないの」と、片岡に問う。責められているように感じた片岡は、また拗ねる。

さらに、さんしの漁師たちから届いたメッセージを見て汐ヶ崎に戻った片岡は、船団長の自分ではなく、波佐間と和佳がさんしのピンチを救った状況を目の当たりにする。自分が守ってきたさんしに居場所がなくなったと感じただろう。大切なものを奪われたように感じただろう。片岡はさんしに戻れなくなってしまう。片岡が「(有害な)男らしさ」から離れて、どのように再びみんなの輪に戻っていくのか。

漁業に根づいていく若くて新しいちから

「古いもんを壊して、新しいことをやっちょる気になる。そういうのを『浅知恵』いいます」

辰海はこう言っていた。古いものとは、形骸化した漁協のルールのことだろう。しかし、片岡がもがき苦しんでいる様子を見てから聞くこの言葉には、古い「男らしさ」や、漁業の「極端な男社会」という言葉も当てはまるように思う。水産フェアの講演で、和佳は「お嬢ちゃん」という揶揄を「子持ち、離婚歴ありです」と言っていなしていた。まだまだ漁業の男社会は壊れていないのだ。

漁協から借金の貸しはがしに遭い、途方に暮れて消費者金融の看板を見つめた和佳。看板の頭文字をぼんやり眺めて「は……、ざ……、ま……」と、波佐間に頼ることを思いつく。東京に残った片岡は、数少ない知っている場所であるレストラン「モンシェリミスティーク」に立ち寄る。店は定休日だったが、そこに琴平が現れた。そんな偶然あるかーい! と笑ってしまうほどのタイミングのよさ。

第8話のさんしには、和佳のほかに、小森、そよ、たくみと若いメンバーが残っていた。漁師になる前は携帯電話の販売をしていたたくみが、SNS上での顧客とのやりとりを担当していたようだ。たくみがさんしに馴染んできた分、山中たちへのツッコミ役が小森に回ってきた。ツッコミに勢いよく反応する山中を見ると、小森もすぐにさんしに馴染むのではないかと感じる。さんしにやってきた「新しいもの」たちは、着実に根づいてきているのだ。

第9話では、片岡のいないさんしに永沢(鈴木伸之)が戻ってくる。ひょっこりと顔を出した永沢の存在の頼もしさは、第6話での別れのシーンがあってこそ。波佐間とのビジネスを、片岡がいないまま進めていこうとする和佳。だが、波佐間が信用してもいい人物なのかどうか不安もある。早くさんしがまたひとつになる未来を願いながら、第9話を待つ。

■むらたえりかのプロフィール
ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。

■pon3のプロフィール
東京生まれ。イラストレーター&デザイナー。 ユーモアと少しのスパイスを大事に、楽しいイラストを目指しています。こころと体の疲れはもっぱらサウナで癒します。

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