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『アンナの赤いオーバー』【今日の絵本だより 第334回】

  • 2022.11.29
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kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。 こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

『アンナの赤いオーバー』 ハリエット・ジィーフェルト/文 アニタ・ローベル/絵 松川真弓/訳 評論社 1430円

11月29日は、いい服の日。 『アンナの赤いオーバー』は、一度読んだらきっと心の奥深くに残る、一着の服のお話です。

「戦争がおわったら、あたらしいオーバーを買ってあげようね」 去年の冬、アンナのお母さんは言いました。 アンナの青いオーバーはもう古くてすりきれて、すっかり小さいのです。 でも、戦争が終わっても、お店はからっぽです。 オーバーも、食べ物も、そもそもお金だってありません。 アンナのお母さんは、どうしたらいいかと考えました。

そしてまず、家にあったおじいさんの金時計を持ってお百姓さんのところに行き、羊の毛と取り替えてくれないかと頼みました。 お百姓さんは言いました。 「そりゃ、いい考えだ!」 でも、羊の毛を狩るには、次の春まで待たなくてはなりません。 それからアンナは、日曜日には羊に会いに行き、なでたり干し草をあげたり、優しく羊のお世話をします。 春になって、ようやく羊の毛を手に入れたお母さんは、今度は糸つむぎのおばあさんに、ランプと引き換えに羊の毛を毛糸につむいでくれるように頼みます。 夏になってできあがった毛糸を、アンナとお母さんは森でつんだコケモモで煮出して、赤く染めました。 それからもお母さんは物々交換で、機屋さんに赤い毛糸の機織りを、仕立て屋さんに赤い布の仕立てをと、ひとつずつの工程をお願いし、一年かけてようやくアンナの新しい、素敵な赤いオーバーが仕上がります。

第二次世界大戦後の実話をもとに描かれたというこのお話。 表紙の赤はただの背景ではなく、よく見ると、お話に出てくるあるものです。 それに気がつくと、戦後の物もお金もない時代に支えあった、人々の優しさと温かさが一層胸にしみてきます。 アンナに新しいオーバーをと、知恵を絞って手を尽くす、お母さんの深い思いも。 お話のラストは、幸せなクリスマス。 クリスマスの時期に合わせて読むのもおすすめの一冊です。

選書・文 原陽子さん はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

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