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「男子は後伸びしますから」塾の先生の常套句を鵜呑みにしてはいけない深い理由

  • 2022.11.29
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「男子は算数、女子は国語が得意」「男子は後伸びするから今からでも難関校を狙える」。受験塾の先生からそんな話を聞いて、モヤモヤしたことがある人もいるのではないだろうか。大妻女子大学准教授の田中俊之さんは「平均値の話をさも全員にあてはまるかのように話し、それを前提に指導しているなら、大きな問題だ」という――。

教室で勉強する女子小学生
※写真はイメージです
性差より個人差のほうが大きい

小中学生を対象とした受験塾では、しばしば男子はこう、女子はこうといった決めつけの言葉が聞かれるといいます。よくあるのが「女子より男子のほうが算数が得意」というもので、「先生が言うならそうなのかな」と納得してしまう親御さんも多いようです。

しかし、得意不得意は性差より個人差のほうが大きい問題です。たとえば徒競走のタイムを考えてみてください。平均値は男子のほうが上でしょうが、女子の中には男子より速い子もいるはずです。平均値はあくまでも平均値で、すべての子に当てはまるものではありません。

「男子のほうが算数が得意」も、本来は「平均すればそうである」という話なのにもかかわらず、どの子にも当てはまる事実であるかのように話してしまう、あるいは思い込んでしまうところに問題があります。

「性別あるある説」は腹落ちしやすい

個人的には、平均値で男女の違いを語る塾の先生は、そうすることで親の納得感を得ようとしているのではないかと感じます。人は、男子はこう、女子はこうと単純化された話に納得しやすいものです。特に、それが自身のジェンダー観と合っている場合や、自分に役立つ情報をすぐ得たいと思っている場合ほど飛びつきがちです。

性別という属性は、わかりやすい「あるある説」を唱えるときの象徴的存在でもあります。場をコントロールしたり人を管理したりするために性別で分ける、あるいはこの性別はこうであると決めつける。そうした事例は塾に限らずほかにもたくさんあります。性別ごとにくくる語り方は、今もまだ多くの人が腹落ちしやすいということでしょう。

男子後伸び説の背景を考える

同じような言葉では、「男子のほうが後伸びする」も塾でよく聞かれるといいます。これも性別にもとづいた決めつけとしてはよくある話です。男子は多少成績が悪くても受験までに伸びるから、今から勉強すれば合格できる──。確かに過去のデータを平均すればそうなのかもしれませんが、男子生徒全員が後伸びするわけではないはずです。

塾の先生の中には、この言葉を親を安心させるための常套句として、「今は成績が悪くても大丈夫ですよ」と伝えるために使っている人もいるかもしれません。問題は本当にそう思い込んでいる場合です。もし平均を生徒全員に通用する事実だと信じ込んで指導している先生がいたら、僕はそんな塾に子どもを通わせるのは怖いなと思ってしまいます。

子供の手と上向きのトレンドグラフ
※写真はイメージです

男子は後伸びするというデータがあるのなら、それは親の進学熱やその子への期待が理由になっている可能性もあります。実際、「男の子だから将来は有名企業で高収入を得てほしい、だから難関校へ行かせなきゃ」と考える人はいまだに少なくありません。

そうした親御さんは受験が近づくと子どもに勉強するよう追い込みをかけるでしょうから、その結果として直前に学力が上がるということも考えられます。こうした伸びがデータとして蓄積され、またそれを経験で知っている先生が男子後伸び説を口にするようになったのかもしれません。

親も塾講師も女子に期待しなさすぎではないか

この場合、男子後伸び説は生物学的特性から生まれたものではなく、社会的な期待度の違いから生まれたものということになります。そうすると、ここにもうひとつ違う問題が見えてきます。

男の子だからこそ難関校への進学を期待する。これは裏を返せば、女の子だったらそこまで難関校を期待しないということでもあります。日本では大学の学部生はほぼ男女半々ですが、東京大学では長いあいだ女子の学部生が2割を超えていません。

これも、女の子に対してそこまで高い進学熱を持つ親御さんが少ないからではないでしょうか。親御さんや先生たちは、男子には期待する難関校→難関大学→有名企業というコースを、女子には期待しなさすぎなのではと思います。

算数の問題に難易度の差

また、中学受験の算数問題は、共学校や女子校よりも男子校のほうが難しいと言われています。ここにも「男子のほうが算数が得意」という思い込みや、「男子だから将来は理系に進んでほしい」という期待が潜んでいるように感じます。

性別によって算数問題の難易度に差があることにモヤモヤを感じたら、親としては「そういう学校には行かせない」という選択をとることもできます。男子校ではなく共学という選択肢もあるわけですし、モヤモヤを感じる親御さんが増えればそうした学校は生徒を集めにくくなっていく可能性もあります。

ただ、こうした男子校は進学実績が高いのも事実です。男の子だから難関大学に行かせたいと願う親が一定数いる以上、人気もそう簡単には落ちないでしょう。長期的に見ればともかく、短期的にはこの傾向はなかなか変わらないと思います。

教科書をなぞる指先
※写真はイメージです
子どもが「あるある説」を信じてしまわないように

では、塾や学校にジェンダーバイアスを感じた場合、親はどんな姿勢でいるのが望ましいのでしょうか。性別にからむ俗説のようなものはたくさんありますが、まずは鵜呑みにしないことが大事です。子どもまでそれを信じてしまわないように、大人には現象の背景や裏の原因まで考えることが求められると思います。

能力や適性に関する問題は、性別ごとの平均値がどうであるかにかかわらず、個人個人の違いとして考えていくべきです。決めつけを感じたら簡単に納得せず、背景や原因を考えてみてください。それが、性別による決めつけの「あるある説」を社会からなくしていくことにつながっていきます。

そして、子どもの受験や進路について考えるときは、性別や決めつけるような言葉に惑わされず、わが子はどうなのかと考えるようにしてほしいと思います。頭から「うちの子は平均に当てはまる」と信じ込むことなく、その子の得意なことや興味関心ごと、ペースなどをしっかり見極めてあげてください。

構成=辻村洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学 社会学専攻 准教授
1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。

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