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「会議で発言するとシーンとしてしまう…」そんな痛い事態を回避できる"2つの会議テクニック"

  • 2022.11.25

会議で言いたいことがあっても「もし反応がなかったら」と思うとなかなか発言できないときにはどうしたいいのか。明治大学教授の堀田秀吾さんは「人間の行動に関する最新の研究結果を活用することで、こうした場合への対策ができる」という――。(第1回/全3回)

※本稿は、堀田秀吾『最新研究でわかった“他人の目”を気にせず動ける人の考え方』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

オフィスで会議中
※写真はイメージです
なぜ会議が「シーン」としてしまうのか

会議で、何か言わなきゃと発言したものの反応がないと、「あー、的外れなこと言っちゃったかな?」と焦りますよね。メールやSNSでも同様です。

誰も反応してくれなくて、しょんぼりした経験は多くの人が持っていると思います。

しかし、気にしないでください。

「社会的手抜き」、「傍観者効果」、「リンゲルマン効果」などと言って、人は、他の人の数が多くなればなるほど、自分がやらなくても誰かがやってくれるだろうという気持ちになり、やらなくなります。

会議での発言への反応も同じです。誰かがあいづちを打ったり返事をしてくれるだろうとお互いに思っていて、結局誰もやらない、反応しないという事態が発生するのです。

私たちは、誰かと2人きりで会話しているときは、相手の発言に対して、必ずうなづき、あいづち、合いの手など何らかの反応をします。しかし何人かが同席していたら、ましてや大人数だったらそれほど反応を表現しなくなりますよね。そういうことなんです。

一大事であっても「傍観者効果」は起こる

ニューヨーク大学のダーリーとコロンビア大学のラタネが行った実験があります(*1)。

議論をしているときに突然、参加者の1人が発作を起こすという緊急事態が起こった場合、人はどういう行動をとるかを観察したのです。

結果、他に誰もいない状況では全員がスタッフに連絡したのに対し、他の人が4人いる状況では、なんと4割近くの人が連絡しなかったのです。自分以外の参加者が多くなれば多くなるほど、みずからは動かなくなることがわかったのです。

発作という生命にも関わる一大事でさえ、このような傍観者効果が起こるのです。会議で誰も反応してくれないなんていうのは、当たり前も当たり前です。気にすることないのです。

(*1)Darley, J.M. & Latané, B. (1968) . Bystander intervention in emergencies: Diffusion of responsibility. Journal of Personality and Social Psychology, 8 (4) , 377–383.

「目線ロックオン」で相手の傍観者意識をなくす

無反応が嫌なら、誰か反応してくれそうな人をじっと見て発言するなどしてみてください。目線をロックオンされると、もはや傍観者ではない意識がその人の中で生まれるので、反応せざるをえなくなります。

また、参加者の中には、誰も反応していないので恥ずかしくて反応できない人もいるでしょうから、他の人が発言しているときに、あなたが自ら積極的に反応するようにしてみてください。誰か1人でも自分と同じ言動をしている人がいると、人間は安心して自分もできたりするものです。自ら積極的にリアクションをとっていれば、きっと同じように反応してくれる人が現れ、自分の発言のときにも同様に反応してくれるでしょう。

まずは「自分がしてほしいことを他人にする」。

これが人間社会をより快適に生き抜く大原則でもあります。

会議で反応が薄くても気に病まず、「傍観者効果」だから仕方ないと割り切る。あるいは自ら他者の発言に積極的に反応する。最終手段として、誰かをターゲットにロックオンして、その人を見つめて喋る。これらを実践してみてください。

会議中、資料を手にする女性
※写真はイメージです
「ゲインロス効果」で第一印象を挽回する

人づきあいにおいて第一印象がどれだけ重要かは、今さら言うまでもないでしょう。

しかし、相手に悪い印象を与えてしまったとしても、諦める必要はありません。

「話が盛り上がらない」「なんか気が合わなさそう」など、ネガティブなレッテルを貼られても、挽回するチャンスはあります。

ここでは「ゲインロス効果」を活用しましょう。

ゲインロス効果とは、人に対して抱くプラスの印象(ゲイン)と、マイナスの印象(ロス)をうまく使い分け、人を惹きつけるギャップを作り出すというものです。ミネソタ大学の心理学者アロンソンとリンダーが提唱しました(*2)。

研究の結果わかったのは、非好意的に接していた人が、その後好意的になるとき、つまり「ツンデレ」のとき、人はもっとも好印象を抱くということです。

アロンソンらは、女子大生80人に対し、「ある実験のために被験者Aさんを騙だましたいので、アシスタントをしてほしい」

と依頼しました。ところが実際は、被験者Aさんはサクラ(実験する側の人間)であり、実験対象は女子大生80人でした。流れは次のようなものです。

(1)女子大生がサクラと会話をする。
(2)会話の最中に、サクラが女子大生の印象(好意的・非好意的)を7回評価する。
(3)サクラが評価した内容に対し、女子大生がどういう印象を抱いたか調査する。

(*2)Aronson, E., & Linder, D. (1965) . Gain and Loss of Esteem as Determinants of Interpersonal Attractiveness. Journal of Experimental Social Psychology, 1, 156-171.

「ツンデレ」が一番効果的

なお、サクラが女子大生の印象を評価するさいには、次の4パターンで行うよう決められていました。

(A)ずっとデレデレ(最初から最後まで好意的)
(B)ずっとツンツン(最初から最後まで非好意的)
(C)デレデレの後にツンツン(好意的に接していたのに最後に非好意的になる)
(D)ツンツンの後にデレデレ(非好意的に接していたのに最後に好意的になる)

注目したいのは、この4パターンのサクラに対し、女子大生がどの程度の好意を抱いたか、です。

結果は、好意が大きいものから、(D)ツンツンの後にデレデレ(ツンデレ)、(A)ずっとデレデレ、(B)ずっとツンツン、(C)デレデレの後にツンツン(デレツン)、でした。

つまり女子大生は、サクラに「最初から最後までずっと好き」という態度をとられるより、「最初は嫌いだったけど、最後に好きになっちゃった」というツンデレな態度をとられるほうが、良い印象を持ったということです。

ツンデレといえば、恋愛ドラマの王道です。「最初は嫌なヤツだと思ってたけど、話してみたらいいヤツじゃない」。このギャップで人は恋におちてしまうのです。

そう考えてみると、良くない第一印象を与えてしまったときほど、むしろそのあと好印象を与えたときの大逆転が期待できます。決して諦めてはいけません。

逆にいうと、第一印象が良すぎる人は注意が必要です。

長らく「いい人、やさしい人」で人気だった著名人も、たった1つのスキャンダルで失墜してしまう。アロンソンらの研究でも、「デレツン」は最低評価でした。

終わり良ければすべて良し。時代劇の「水戸黄門」のように、最初は見くびられていても、最後にバッチリ良いところを見せればいいのです。

第一印象は「1秒以内」に決まる

自分がどう思われているかを、人は気にせずには生きていけません。

社会的生活を営む上で、あるいは生物として生存競争を生き抜くために、他人から良く思われたり、「仲良くしたい」と思ってもらえる自分を見せていく必要があるからです。

しかし、相手はこちらが思っているようには見てくれないから問題なのです。

例えば、「自分は話下手だ」と思い悩んでいても、相手には「あの人は口が固くて誠実そうだ」と思われているかもしれません。

逆に「自分は話がうまい、コミュニケーションに長けている」と自負していても、相手には「ペラペラよくしゃべるけど、なんか信用できない」と警戒されていることもあります。

ここでは、初めて会った人との印象形成に絞って、第一印象の話をもう少し考えてみましょう。

プリンストン大学のウィリィスとトドロフの研究によると、魅力、好意、信頼、能力、積極性などの印象形成は、顔を見てから0.1秒で行われるとのことです(*3)。

0.1秒から0.5秒に増やすと、ネガティブな印象を抱き始め、0.5秒から1秒になると、ほとんど違いが出ないものの、判断への自信は増えるとのことです。

つまり、印象形成には1秒もかからないということです。

(*3)Willis, J., & Todorov, A. (2006) . First Impressions: Making Up Your Mind After a 100-Ms Exposure to a Face. Psychological Science, 17 (7) , 592–598.

「ポジティブ」→「ネガティブ」が好印象

また、最初の印象が大事だということについて、心理学者のソロモン・アッシュの有名な実験を紹介しましょう(*4)。

実験では、人の紹介をするときに、言葉を2パターン用意しました。

紹介① 知的な 勤勉な 衝動的な 批判的な 頑固な 嫉妬深い
紹介② 嫉妬深い 頑固な 批判的な 衝動的な 勤勉な 知的な

2つのパターンは、まったく同じ言葉を使っています。違いは順番だけです。

ところが実験の結果、人が受ける印象は大きく変わりました。

ポジティブな言葉が最初に来ている①には肯定的な評価が得られました。

一方、ネガティブな言葉が先に来ている②には否定的な評価が多かったのです。

言葉の順番を変えただけで印象は変わってしまうのです。

人の感覚は、なんと騙されやすいことでしょう。

「温かいコーヒー」が印象を変える

また、人を騙すのは言葉だけではありません。

堀田秀吾『最新研究でわかった“他人の目”を気にせず動ける人の考え方』(秀和システム)
堀田秀吾『最新研究でわかった“他人の目”を気にせず動ける人の考え方』(秀和システム)

「温かいコーヒー」を一緒に飲みながら話すだけで、相手の印象が変わることがわかっています。

コロラド大学のウィリアムズとイェール大学のバーグの研究で、温かいコーヒーを手に持っていると、冷たいコーヒーを手に持っているときより、相手のことを「寛大で気遣いのできる人だ」という印象を抱く傾向があったそうです(*5)。

こうして見てくると、人の印象なんて、ちょっとした要因で変わってしまうのだということが分かります。ということは、相手に与える印象を完璧にコントロールしようとしても、まず難しいということです。

もちろん、完璧は目指せなくても、こういった知識をあらかじめ蓄えておいて、最大限の演出をしていくこともできます。

どこまでやるかは好みの問題ではありますが、無理に良い自分をずっと演出しすぎたり、あまり気にしすぎると心が疲れてしまいます。

とりあえず、第一印象だけはポジティブな面を見せるように心がける。それくらいに考えておいた方が、気持ちはラクになるでしょう。

(*4)Asch, S. E. (1946) . Forming impressions of personality. Journal of Abnormal and Social Psychology, 41, 258–290
(*5)Williams, L. E., & Bargh, J. A. (2008) . Experiencing physical warmth promotes interpersonal warmth. Science, 322 (5901) , 606–607.

堀田 秀吾(ほった・しゅうご)
明治大学法学部教授
1968年、熊本県生まれ。シカゴ大学博士課程、ヨーク大学ロースクール修士課程修了、同博士課程単位取得満期退学。言語学博士。立命館大学准教授、明治大学准教授などを経て、2010年より現職。専門は司法におけるコミュニケーション分析。脳科学、言語学、法学、社会心理学などのさまざまな分野を横断した研究を展開している。『科学的に元気が出る方法集めました』(文響社)など著書多数。コメンテーターとしても活躍中で、メディア出演も多い。

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