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鬼才トム・サックスの頭脳をまるで覗き込むかのよう。スタジオの棚を一挙公開

  • 2022.11.24
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現代アーティスト・トム・サックスの作品「棚」、「ハードウェア・ライブラリー」こと部品キャビネットの一部

平面も柱も、「棚」へと進化する。トム・サックスの“ノーリング”美学

「スタジオの空間すべてがノーリングされている」とトムは言う。「KNOLLING」とは、彼が提唱する独自の収納法だ。その手法を説明しよう。まずは身の回りのモノをすべて実際に使っているかどうかで分類し、使っていないモノはしまい込む。使うモノは「仲間同士」でグループ分けをする。そしてグループごとに全アイテムを平行・垂直もしくは90度の角度にカッチリと並べれば、完了!

現代アーティスト・トム・サックスのスタジオ内のキッチン
「スタジオ内で最も神聖な空間」とトムが呼ぶキッチン。住居だった頃からこのテーブルが執筆や会議、接客の場だ。最上段右に積んだ黄色い容器の塩は?「心配性でつい買いだめを。ロゴが僕の作風に通じるんだよね」
現代アーティスト・トム・サックスの「テープライブラリー」
トムは旅行先でも必ずテープを買い集めるほどのテープ好き。3つある通称「テープ・ライブラリー」の1つがキッチンに。荷造り用クリアテープや両面テープなどよく使うものは、手や目の届きやすい下から2番目の段へ。
現代アーティスト・トム・サックスの「ペイントスプレー・ライブラリー」
「ペイントスプレー・ライブラリー」の一部。クリロン社の塗料を長年愛用。スタジオ独自の色別コードとその背景をユーモラスに解説した短編映画『COLOR.』を、ぜひ読者にもネットで観てほしい、とトム。
現代アーティスト・トム・サックスのの作業台
必要な道具が残らず収納してあるトム専用の作業台。折り畳んでコンパクトにできるので、出張や旅行にも丸ごと運び込める!その名も「ジャーニーマン」。昔の軍隊が戦場に運んだ移動式家具にならったネーミングだ。

整理法であると同時に、トムの創作理念にも通じる概念だ。シンプルながら合理的なこの手順を隅々にまで徹底することで、スタジオの能率は向上する。また大勢のスタッフが機械工具や危険物も扱う現場だけに、高い識別性=安全管理というメリットの重みは計り知れない。

3フロアにわたる巨大な空間にひしめく棚、そして棚。仲間同士でそれぞれまとまったアイテム群に充てられた、専用の「居場所」が棚と言っても過言じゃない。奥行きは作らず「面」で展開することで、視認性が高まる。トムやベテランスタッフはもちろん、新入りスタッフでも必要なモノのありかがすぐわかるのだ。

面白いことに、トム独特のこだわり抜く美意識までもが「ノーリング」によって浮かび上がってくる。そう、棚の一つ一つがまるで彼の生み出す立体作品のように見えるのも、実は決して偶然ではないのである。

現代アーティスト・トム・サックスの《次元超越ロケット製造工場》プロジェクト
今トムが最も情熱を注ぐ《次元超越ロケット製造工場》プロジェクト。正面に完全なロケット、右にはツギハギ状ロケット。購入者にはシュレッダーで壊す選択肢も。
現代アーティスト・トム・サックスのスタジオの棚
「スタジオが作るものはすべて、この棚に並ぶ材料から生まれる」とトムが誇るプライウッド(成型合板)の棚。板の規格に合わせ、約245cmもの奥行きがある。
現代アーティスト・トム・サックスのスタジオのエポキシ樹脂ルーム
通称・エポキシ樹脂ルームに専用道具や試作がズラリ。机の上の4本は柱?「息子用にプールで“完全に沈没する”タイタニック号の模型を制作中。その煙突さ!」
現代アーティスト・トム・サックスの作品「棚」
電動ドリルと充電器がびっしり留め付けられた「棚」。板の内部は19世紀建造のこのビルに元からあった鋳鉄の柱だ。トムが仕事場として使う30年の間に徐々に「棚」化し、この形態に。
現代アーティスト・トム・サックスの作品「ハードウェア・ライブラリー」こと部品キャビネットの一部
巨大な「ハードウェア・ライブラリー」こと部品キャビネットの一部。留め具など種々雑多なアイテムをラベルで色別管理する。白い紙に黒い文字のラベルはナットやボルト、と一目瞭然。
現代アーティスト・トム・サックスのスタジオのリペアルーム
電子系統のリペアルーム。かつてはトムの寝室だった場所。ノーリングされたモノたちによって、頭上の空間や棚板の「厚み」さえも棚と化す。トムの真骨頂といえるスペース。

profile

現代アーティスト・トム・サックス

Tom Sachs(現代アーティスト)

トム・サックス/1966年NY生まれ。建築を学んだ後フランク・ゲーリー事務所で家具製作に携わる。消費社会や自らのアイデンティティをめぐる作品で世界中にファンが。NASA火星探査や茶の湯等のプロジェクトのほか先頃はNIKEとのコラボスニーカーが話題に。photo:Mario Sorrenti

HP:https://www.tomsachs.com/

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