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割り算ができなくて命の危機に! 「数学って何の役に立つの?」という人のための数学本

  • 2022.11.11

「数学って何の役に立つの?」と学ぶ意義を見い出せず、学生時代には数学を避けて生きてきた......そんな人は少なくないはず。しかし、私たちが知らないだけで数学の考え方や公式は、日常生活のあらゆる物や事象に使われているという。

佐々木淳(ささき じゅん)さんの『世界が面白くなる!身の回りの数学』(あさ出版)は、身の回りの物や事象に数学がどのように取り入れられているかを解説することで、数学の奥深さや楽しさを紹介してくれる1冊。

割り算ができず巡洋艦がダウン

1997年9月、米海軍のミサイル巡洋艦「ヨークタウン」が突如任務不能となり、最終的には他の船に引っ張られて帰港する異例の事態が発生した。

大量のミサイルを載せた巡洋艦が制御不能になるという、あわや大惨事のこの出来事。当然、高度なサイバーテロや兵器などによる攻撃が疑われた。ところが、調査の結果わかったのは、原因は巡洋艦の外部ではなく、簡単な割り算の失敗にあったということだった。

足し算や引き算とは違い、割り算にはある「禁足事項」が存在するという。それは、「ゼロで割る」こと。著者はこのルールを、割り算を「引き算の応用」として見ることで説明している。

例えば、7÷0の計算は「引き算の応用」で考えると、「7から0を何回引いたら0になるのか」と言い換えることができる。しかし、0を無限に引いても7である状態は変わらず、答えは永遠に求まらない。なので、「数をゼロで割ってはいけない」。

もちろん、私たち人間は、計算しても答えが求まらないとわかれば、計算を止めることができる。ところが、「ヨークタウン」のコンピュータは自分で割り算を止めることができなかった。乗組員のミスで「ゼロで割る」という計算が発生し、コンピュータが計算し続けることでメモリを大量消費。やがて「ヨークタウン」全体がシステムダウンしてしまったというのが、事件の真相だったという。割り算のミスがとんでもない事態を招いてしまったのだ。

辛さの仕組みは複雑だった

もはや日本人のソウルフードと言える「カレー」。飲食店などでは辛さを選べることがあり、辛さを数値化して2倍、3倍......10倍、20倍、30倍と表示している店も存在する。そうした辛さの調整は、どのように行われているのか。

実は、香辛料などの辛み成分を3倍に増やしても、辛さは3倍にはならないという。辛さの仕組みはもっと複雑で、それを理解するためには、やはり数学が必要なのだ。

数学には、辛さをはじめ、人間の五感を定量化 (数値で表すこと) できる法則がある。この法則は、発見者の名前にちなんで「ヴェーバー=フェヒナーの法則」と呼ばれ、以下の式で人間の五感を定量化して表す。

感覚の強さ=(定数)×log(刺激の強さ)

式に出てくる「log (対数)」とは、大まかにいうと掛け算した回数を表す記号のこと。例えば、辛さ1のときの香辛料の基準量を10とした場合、2倍の辛さや3倍の辛さに必要な香辛料の量は、それぞれ下記のように式を変形してlogの計算をすれば求められる。

(辛さ2倍の場合)100=10×10
(辛さ3倍の場合)1000=10×10×10

つまり、辛さを3倍にするためには、もともとの香辛料の量を2回かけた量、今回の場合なら元の100倍の香辛料が必要になる。ちなみに、この方程式は人間の五感全てに対応しているので、閉め切った部屋の嫌な臭いや洗濯物の生乾きの臭いもこの方程式で説明できるという。

ほかにも、本題の数学の話を聞かずとも「へ~」と感心するエピソードが盛りだくさん。本来は数学の生命線ともいえる「厳密さ」を棚上げし、ざっくりしたイメージや具体例を用いて解説しているので、文系出身の人も楽しく学ぶことができる。本書を読んで、数学の世界に足を踏み入れてみよう。

■佐々木淳さんプロフィール
下関市立大学教養教職機構准教授。1980年、宮城県仙台市生まれ。東京理科大学理学部第一部数学科を卒業後、東北大学大学院理学研究科数学専攻を修了。代々木ゼミナールの数学科講師、防衛省海上自衛隊の数学教官を経て、2022年4月より現職。海上自衛隊では、パイロット候補生の教育に大きく尽力した功績が認められて、事務官職では異例ともいえる第3級賞詞(職務遂行にあたり、著しい功績があった者や技術上、優秀な発明をした者などに授与される)を受賞する。著書に『AI実装検定 公式テキスト A級』(大学教育出版)、『公務員試験 最初でつまずかない数的推理』(実務教育出版)、『身近なアレを数学で説明してみる』(SBクリエイティブ)などがある。

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