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中学受験、塾費用は「月20~30万円」が平均の時代に? 共働きママが「狂気を持ったATM」と化すのはなぜか

  • 2022.11.6

中学受検熱が高まる中、青春出版社が「最強の塾ガイド」と銘打って発売した『中学受験 やってはいけない塾選び』の初動が好調だという。ノンフィクションライターの杉浦由美子さんが各塾の幹部に直撃取材し、普通ならば聞きにくい質問をしているのが、本書の見どころだ。

ちまたで「ハードルが高い」と評判のサピックスの入塾テストは実際どの程度難しいのか、早稲田アカデミーの「脱体育会系」は本当なのかといった各塾の実情ほか、自習室はあるのか、質問対応はどうなのかといった各塾の細かいデータも掲載されている。

そんな本書を読むと、最近では、サピックスや日能研などの4教科型の塾と、「それらの塾に通うための塾」を併用することが普通になっていることがわかる。塾を増やせば費用もかさんでくる。なぜ、そんなに中学受験は費用をかけるケースが増えたのか。今回、著者の杉浦さんに、加熱する現在の中学受験塾への課金事情を聞いた。

◎中学受験の塾代は「月20万円」が普通になっている?

――著書の中に、子どもを複数の塾に通わせ、塾代が「月20~30万円」というケースが出てきて驚きました。さすがに特殊な例で、平均ではないんじゃないかと思ったのですが。

杉浦由美子さん(以下、杉浦) 最初、私もそういう話をいくつか聞いて「取材先が偏っているのかな」と感じました。それで大手塾の校舎長に聞いたら「月に20万円ぐらい使うのが普通になっているんですよ。うちの個別指導塾にも、他塾の生徒さんがたくさん来ています」と笑顔でおっしゃいました。ほかの取材先で同じ質問をしても同じような答えが返ってきたので、決して特別な例ではないんですよ。

――今、個別指導塾という言葉が出ましたが「塾に通うために塾に通う」んですね。なぜそうなっているのでしょう。

杉浦 保護者さんの世代ですと、街の小さな個人塾で受験対策をしていたというケースも多いんですよ。そういう塾は手厚くて、わからないところがあればベテランの先生がマンツーマンで教えてくれるんですから、何の不自由もなかったんです。

ところが今、東京ではそういう個人塾は減り、大手塾の寡占状態。浜学園やサピックスはテキストが本当に素晴らしいのですが、個人塾のような手厚さはありません。そうなると、親が宿題を管理してやらせる必要が出てくるものの、今は働くママが増えていますからそうも宿題に付き添えないので、個別指導塾にアウトソーシングするんです。

◎中学受験、共働きママが「狂気を持ったATM」に

――本書には、個別指導塾以外に単科塾の話題も登場します。これもメインの4教科を学ぶ集団塾と併行して通うんですよね。

杉浦 本書の中で取り上げた単科塾はどこも大人気です。フォトン算数クラブは小2から算数の受験対策を始め、直井メソッドは個別指導で国語対策、アルファ実験教室は理科の単元を実験で学びます。

要は大手塾で足りないところを補強する塾がバラエティに富みつつ増えているんですよ。取材すると、どこも魅力的で私も子どもがいたら通わせたいくらい。国語の専門塾で読解力を鍛えておけば、本を読むといった娯楽も増えますしね。

――そうすると塾代は二重三重にもどんどん膨らみますね。日本人の給与は30年上がっていないのに、塾代が膨らんでいくのは不思議に思えますが。

杉浦 給与は上がっていませんが、共働き家庭は増えていますからね。授業料が高い個別指導塾を取材したら、生徒さんはほとんどが共働き家庭の子だとのこと。中学受験をテーマにしたマンガ『二月の勝者-絶対合格の教室-』(高瀬志帆氏、小学館)の冒頭には、中学受験合格に必要なのは「父親の『経済力』そして、母親の『狂気』」とあります。10年前は確かにそういうご両親が多かったです。お母さまは基本的に主婦業をメインとしていて、塾代のためにパートに出るという感じで。

しかし、首都圏では、出産後の女性が正社員のままで働き続けることが普通になってきました。そうなると男性と同等の経済力を持つお母さまたちが増えてきて、「狂気を持ったATM」になることもしばしばあります。

個別指導塾の腕のいい講師たちは最初の3カ月でまず成績を上げますからね。そうなると「もう1コマ増やしたらもっと成績が上がるかも」と思っちゃいますよ。そうやって課金額が上がっていくと、「ここまで頑張るなら、近所の偏差値55ぐらいの学校ではなく、もう少し上の学校を狙いたい」と考え出してしまうんです。

◎中学受験塾に重課金して難関校合格――入学後に深海魚にならないのか?

――莫大なお金をかけ、大人に管理されてどうにか難関校に入っても、入学してからいわゆる深海魚(成績が深海に沈む生徒)になるんじゃないかと心配になります。

杉浦 取材すると、そうやって親や個別指導塾に管理され、勉強をさせられてきた子が中学で成績が振るわないかというと、そうでもないんですよ。

反対に地頭がよくて、たいして勉強をせずに御三家に合格する子もいて、そういうタイプこそ中学以降、成績が低迷することがあります。中学以降の勉強は単純作業、つまり暗記が増えます。英単語や数式を覚えるのに地頭のよさは不要で、いかに地道な努力をするかが重要なんです。そうなると地頭のいい子より、大人に管理されつつも学習習慣がついている子のほうが有利になります。

――親や塾に鞭を打たれて勉強してきた子が、中学以降に自立することもありますしね。

杉浦 そうですよ。小学生は自分から勉強しないのが普通でしょう。以前、御三家から塾なしで東大に現役合格した人たちを取材しましたが、「中学受験の時は母親が鬼軍曹のように厳しく見張ってた。泣きながら勉強をした」という話もありました。でも、高校生になると自学自習の達人に育ったわけです。だから、課金したり、親が横に座ったりして、管理して勉強をさせることが一概にダメだとはいえないように思います。

――しかし、メインの集団塾に3年間通うだけで250万円前後もかかるのに、ほかの塾に通わせるとなると、経済的な負担は大きいですよね。

杉浦 今は過渡期なんじゃないでしょうか。現状、大手塾が働くママにサービスを合わせていないので、大人が宿題を管理しなければならず、結果、共働き家庭は個人指導塾代がかさんでいるわけですが、今後は変化していくでしょう。大手塾もサービスを強化していますし、少数制の面倒見のいい塾も増えてきていて、それらについても本の中で紹介しています。

たいていの保護者さんが「終わってからこんなに使ってしまったと気づく」と話されます。ですから、最初の段階でどの程度の費用をかけるか見積もりをして、決まった予算の中で入れる学校に進学するというのも作戦だと思います。偏差値と学校の質は全然関係ないですからね。

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)
ノンフィクションライター。会社員や専門学校講師などを経て、2005年からライターとして活動を開始。『女子校力』(PHP新書)、『ママの世界はいつも戦争』(ベスト新書)など著書多数。

【著書紹介】
『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)
中学受験は、子どもと家庭に合う「塾選び」が成功の鍵を握る――首都圏・関西の大手から中小塾、話題の単科塾、個別指導塾まで最新情報を徹底取材。先輩パパ・ママの塾選び失敗談から、四大塾(サピックス、日能研、四谷大塚、早稲田アカデミー)の実際、難関校に強い塾などを解説する最強の塾ガイド。

サイゾーウーマン編集部
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