1. トップ
  2. ファッション
  3. ニコラ・ジェスキエール、『スターマニア』で新たな衣装デザインを展開。

ニコラ・ジェスキエール、『スターマニア』で新たな衣装デザインを展開。

  • 2022.11.2
  • 411 views

伝説のロック・オペラが帰ってくる!しかも同世代で最も影響力のあるファッションデザイナー、ニコラ・ジェスキエールが舞台の衣装デザインを手がけたという。ルイ・ヴィトンのウィメンズ アーティスティック・ディレクターのニコラに独占インタビュー。

預言的、未来的、時代を超越したロック・オペラ「スターマニア」。コレクションを発表するたびに時代を先取りするクリエイションで強烈な印象を与えてきたルイ・ヴィトンのウィメンズコレクションのアーティスティック・ディレクター、ニコラ・ジェスキエール。両者には明らかに通じ合うものがある。事実、今年2月にフランス・ギャルとミシェル・ベルジェの息子であるラファエル ・ハンバーガーから、新版『スターマニア』の衣装デザインを打診されたとき、ニコラは快諾した。

1970年代生まれのニコラは、ミシェル・ベルジェとリュック・プラモンドンが構想したこのロック・オペラのカルト的楽曲やアイコニックな登場人物に親しんで育った世代だ。1979年にパレ・デ・コングレで初演が行われたこのミュージカルの鑑賞者数は40年間で600万人以上に上る。若かりし日のニコラも例外ではなく、「Quand on arrive en ville(街にやって来たとき)」や「Le Blues du businessman(ビジネスマンのブルース)」、「Le monde est stone(石の世界)」、「Besoin d’amour(愛を求めて)」といった楽曲を口ずさんでいた。その後、デザイナーとなった彼のムードボードには、エトワール・ノワール団、クリスタル(フランス・ギャル)、ステラ (ディアーヌ・デュフレーヌ)といった作品の登場人物たちのイメージが現れることになった。

この伝説の舞台の新バージョンでは、トマ・ジョリが演出を、シディ・ラルビ・シェルカウイが振付けを担当する。そして、衣装デザインを手がけるのは、現代アートの愛好家でもある知性派クリエーター、ニコラ・ジェスキエールだ。「まさにチャレンジでした」と彼は強調する。「同時に、みんなで力を合わせて挑んだ破格の冒険でもあった」。彼自身の世界観とも親和性が高いこの冒険は、今日の世界と多くの点で響き合うものを持っている。デザイナーとして挑戦した新たなオデュッセイアの舞台裏と制作秘話を明かしてくれた。

―― 新版『スターマニア』に関わることになったきっかけは?

ある日、長年一緒に仕事をしているグラフィックデザインスタジオ「M/M」のアーティスティック・ディレクターのミカエル・アムザラグとマティアス・オーギュスティニアクから電話がありました。今年の1月頃で、「いま、ラファエル ・ハンバーガーと極秘プロジェクトを進めているんだが、みんな、君にもこの冒険に参加してもらいたいと考えている」と言うのです。それから、そのプロジェクトが『スターマニア』だと知ったとき、光栄に思い、感慨深くもありました。1970年代に育った僕にとって、「スターマニア」はプルーストのマドレーヌ。予言的で時代を先取りしたこの作品の2022年版に参加する。そして、新しい世代の若者たちにこの作品を伝えるのだと思うと、とても興奮します。

――制作チームはなぜあなたに白羽の矢を立てたのでしょうか?

ラファエルとプロデューサーのティエリー・シュックから、ことに衣装にはフランスらしい感性を必要としていると言われました。この種の依頼を受けたことはあまりなかったので驚きました。ですがそれでますますこのプロジェクトを引受ける気になりました。

――『スターマニア』の初演版を観たことはありますか?

いいえ。初演が行われたとき、僕はまだ8歳でしたから。でも舞台の歌を聞いて育ったし(両親が『スターマニア』のファンだったのです)、さまざまなアーティストが演じる映像も何度もテレビで観ています。衣装もとてもよく出来ていた。フランス・ギャルやミシェル・ベルジェも大好きでした。彼らが生み出した作品はどれも素晴らしい。「スターマニア」はなかでも見事です。大人になったいまの視点で作品を再発見しているところですが、このディストピア的な作品が現代にも通じる広い射程を持っていることには驚くばかりです。

――どのように制作に取り掛かりましたか?

まずラファエル ・ハンバーガー(ミシェル・ベルジェとフランス・ギャルの息子で、両親の作品管理人)が会いに来て、彼自身の『スターマニア』観を説明してくれました。次に、ミュージシャンが新バージョンを録音するのでスタジオに聞きに来ないかと招待してくれました。僕が訪ねた時は、ちょうどミュージシャンがそろって「Ce soir, on danse à Naziland(今夜はナチランドで踊ろう)」を練習している最中。実に素晴らしかった!この日のおかげで物語の世界に入って行くことができました。それから本格的に仕事に取り組みました……。

――舞台衣装を手がけられるのは初めてですね。ファッションのコレクションとはまったく違いますか?

そうですね。舞台では動きを考えなければなりません。登場人物は舞台上を動き回り、歌い、踊るわけですから……。ただ、これまでにミュージシャン(ミック・ジャガー、ローリン・ヒル、ケリス)の衣装をデザインしたことがあるので、舞台衣装に必要な要素はわかっていました。舞台の規模も非常に重要です。大勢の観客を収容できるホールの舞台では、遠くから見てもわかるように、色や形などのメッセージが視覚的に読み取りやすく、明瞭でなければなりません。「スターマニア」のように、登場人物がデュエットでやりとりする場面が多い作品では特に。初めてスタジオを訪れた日には、下絵がすっかり仕上がっていました。どうしてもアーティスト全員に自分でデッサンを見せたかったのです。

――まずどの人物から始めましたか?

ロボット召使いのマリー=ジャンヌです。彼女の歌が大好きなので。それからモノポリスのスターテレビ司会者クリスタル。とても胸を打たれる人物です。彼女はセレブリティという祭壇にいけにえとして捧げられる流れ星です。太陽に近づきすぎて翼が燃えてしまう。そこで彼女は気づくのです。有名になることとは別のやり方で幸せになれるのではないか、たとえばエコロジーのような別の闘いで自分を表現することもできるのではないかと。最初に登場するときに彼女が着ているのは、とてもきらびやかなドレスです。光を反射するラメ入りのジャージー素材に極小のスパンコールを手作業で縫いつけたものです。まるで火花を放っているように見えたフランス・ギャルの衣装のイメージが記憶に蘇りました。そこで、無数のスパンコールが肩や衿できらめき、いつも輝いている妖精のようなクリスタルを思い描きました。

――何点の衣装をデザインしたのですか?

ダンサーやエトワル・ノワール団を別にすれば、主要な登場人物だけで全部で40点ほどです。まずスケッチブックを描き、その後に服や装身具一式の制作に取り掛かりました。素晴らしい舞台衣装家ユルゲン・ダーリングの協力も得ました。彼とはオリヴィエ・アサイヤス監督のドラマ「イルマ・ヴェップ」で一緒に仕事をしたことがあります。衣装の大部分はルイ・ヴィトンのアトリエで制作されました。これは私にとってとても重要なことでした。メゾンのためにデザインするコレクションと同じ条件で、細部までこだわって作り上げたかったからです。

――劇中で「ユニークな男の子」と呼ばれる、ジギーのことを話していただけますか?

2022年には多くのジギーがいます……。若者たちは(彼のように)同時に無数のものごとを実現し、ノンバイナリーであること、つまり、自分には男性的な部分も女性的な部分もあることを認めている。ジギーはまた内面に一種のナイーブさを持っています。彼は何がなんでも成功したいという野心ゆえに利用されますが、それでも彼に芸術的な側面があることに変わりはありません。今回の新しいジギーを通して、表現の自由を訴えたかった。彼が着ているのは、ずたずたに引き裂かれたレースが刺繍されたタキシードジャケット(したがってメンズなのかレディーズなのか判別できない)とメタリックなシルバーのジーンズ。ジャケットの下には何もなし。最近、ティモシー・シャラメがやっていたようにね…。

――逆に女革命戦士サディアはボディコンシャスなドレスでセクシーさが強調されています。この衣装を通して何を表現しようとしたのでしょうか?

彼女も現代の世界を象徴する人物です。自分の女性性や強さ、とりわけ支配的な男性の視線から解放されていることを主張するために、意図して自分の身体を見せる若い女性たちのひとりです。サディアは自分の身体を非常に意識している。彼女には、バイクのボディにインスパイアされたのが一目でわかるようなオールドレザーのドレスに、黒のニーハイブーツを合わせました。都会的で、非常に強いキャラクターです。扇情的な格好で街を歩くことも恐れない……。

――1970年代に生まれた『スターマニア』で扱われているテーマが2022年の今も現代性を持っていることをどう説明しますか?

この作品にはすべてがある。すごいことです。汚染された世界、名声の追求、階級闘争、ジェンダーの問題……。40年前に『スターマニア』はすでに環境問題の緊急性や社会の分断について警告を発していた。これは驚くべきことですが、同時に不安も覚えます。なぜなら1970年代に取り上げられたこれらの問題にいまだに回答が見つかってないということですから。また、作品に登場する感受性の強い人物たちが感じている生きづらさや、何もかも台無しにしたいという欲求、フラストレーション、そして愛を求める気持ちも、現代の社会と明らかに反響し合う。モノポリスのエリート世界にアクセスするためにテレビ番組「スターマニア」に出演して15分間の名声を得ることに憧れるジギーは、一夜にして有名人になるというテーマにもつながります。これも現在の私たちがSNSでよく目にすること。それに伴うよい面や被害も含めて……。

――それに関連しますが、どうやって『スターマニア』のエスプリを今日の世界に移し替えたのでしょうか?

毎シーズン発表しているコレクションの仕事からヒントを得ています。つまり時代を反映し、できるだけ正確に時代を掴むことです。これからこの新しい『スターマニア』を観る人たちには、衣装デザインにノスタルジーやレトロはまったくない、と言いたい。僕のインスピレーション源はあくまでも現代です。新しい世代の若者たちの反応がいまから楽しみです。彼らがどうやってこの新バージョンに共感し、感情移入してくれるのか……。

――この作品には多くのリファレンスも含まれています。モノポリスはフリッツ・ラングの『メトロポリス』が下敷きになっていますし、ナチランドはスタジオ54(アメリカの伝説のナイトクラブ)を想起させます。作品の舞台となる未来の世界はジョージ・オーウェルの『1984』の雰囲気。また登場人物のひとり、ゼロ・ジャンヴィエはオーソン・ウェルズの『市民ケーン』を彷彿させます。こうした数々の引用には刺激されましたか?

もちろんです。すべてのリファレンスをメモしました。とくに、原作者が登場人物をどのように造形したか、その過程を理解するのに役立ちました。たとえば『1984』はエトワル・ノワール団のものの見方や、彼らの特徴のない簡素なユニフォームなどに美的面でとても強い影響を与えています。スタジオ54も、派手さや退廃について考え方に影響している。過剰さを象徴する退廃、そのこと自体も、今日、市民に新しい形の質素を求めるこの世界において説得力を持っています。何もかも燃え尽きた後に、何が残るのか?このオペラがいま蘇ったのは、決して偶然ではありません。より「適切な」やり方で生きることは芸術的な自由に待ったをかけることではありません。作り、創造したいという欲望にブレーキをかけるべきではありません。それもまた『スターマニア』が表現していることです。この作品には、ほのかな希望の光や、その後の日々への楽観的なメッセージも読み取れます。

――芸術的な自由があなたにとっていかに重要かよくわかります。あなたはこれまでもファッションに様々な領域(音楽、ダンス、アート……)を取り入れ、融合させてきました。『スターマニア』によってあなたの視野はさらに広がりましたか?

ひとつ確かなのは、この経験で学んだことはいつか自分のクリエーションに何らかの形で現れるだろうということです。改めて『スターマニア』の音楽を聴き、登場人物の心理や彼らの衣装に表現されたアイデンティティについて考察したことは、もちろん僕のビジョンやインスピレーションに影響します。そうですね。未来のコレクションには、間違いなくクリスタルやステラやジギーが登場するでしょう。

『スターマニア』は、11月8日より、パリのセーヌ・ミュジカルで上演開始。starmania-officiel.com

元記事で読む
の記事をもっとみる