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「これでお前をいつでもクビにできる」同期で出世レースの先頭を走った女性にかけられた怖すぎる一言

  • 2022.10.31
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均等法第一世代の窪田礼子さん(仮名)は、優秀な女性たちが自ら退職したり、降格させられたりするのを何度も目にしてきた。女性が能力を発揮する社会にするためには何が必要なのか。37年間のキャリアを積み、現在も再雇用で働き続ける女性からの身を削るような叫び――(2回/全2回)。

手を組んで話す上司の話を立って聞く女性
※写真はイメージです
ほかのデザイナーとは別ルートへ

本来望んだものではなかったにしても、自ら身を投じたラグジュアリーブランドのデザインの世界。窪田礼子さん(仮名)にとって、それはどのようなものなのだろうか。

「仕事は面白いのですが、自分の生活レベルと違う人のための物を作るので、ちょっと無理がありましたね。200万円を、2万円感覚で使う人たちのためのものですから。何とか頑張って、絵がうまいというだけで乗り切ってきた感じです」

窪田さんは期せずして、社内の他のデザイナーとは異なる道を歩むこととなった。1986年、総合職となり異動となったのは、新事業を統括する部署だった。ここでは事務作業から商品の企画まで任された。

その後もデザイナーではあるが、百貨店の外販員など外部の人間に、自社の商品の特徴を説明する仕事も任された。

「他のデザイナーには全くそんな仕事は求められないので、私は変な人扱いの枠なのかと思っていましたが、その間、どんどん出世して行きました。デザイン専門職として課長になっていたのですが、上司からさらに昇格試験を受けるよう勧められたのです」

無理やり受けさせられた昇格試験

その試験はすでにエントリーの締切りが過ぎていたにもかかわらず、「お前、試験、受けろ」と強引に受けさせられたものだった。

程なく自覚したのは、これは自分を組合員から外すために意図されたということだ。「あいつはうるさいから、黙らせとけ」とばかりに、無理矢理に受けさせられた昇級試験だった。もちろん、試験は合格。その後の役員面接では通常の倍の時間を使って、「ボロクソに叩かれる」という試練が待っていた。

「たとえば新ブランド立ち上げの時、関連部門がことごとく片手間で援護体制が取られてなかったので、組合に訴えました。当時、私は組合にいろいろ訴えていて、それが、役員には気に入らなかった。組合員にしておくと面倒くさいから、昇格させてしまえというやり口ですね。正社員は全員、組合員なのですが、課長は組合員から外れないといけなくて、そのための試験でした」

だから昇級試験の役員面接は、窪田さんを恫喝するためだけの場となったのだ。その場で窪田さんは「わんわん泣いた」という。今なら、権力を使った立派なパワハラだ。

「これで、いつでも、クビにできるんだからな」

さらに窪田さんは背筋が凍るほど予想だにしなかった言葉を、上司から浴びせられた。

「試験、合格したろう。これで、いつでも、クビにできるんだからな」

時は1990年代後半、Windows95が出たばかり。会社の行為が労働基準法に違反することや、労基署に訴えるなどの知識もなければ、調べる手段も限られた。じゃあ、と窪田さんはここで発想を転換した。

「自分が望んだわけではないのに、これで完全に組合員じゃなくなった。会社がこんな扱いをするなら、私も考える。試験をどんどん受けて、どんどん昇級しよう。向こうは嫌がらせのつもりだけど、それを利用しない手はない。行けるところまで、行ってみよう。だって、敵がそう来るんだから」

階段を上がっていく女性
※写真はイメージです

意地だった。給料を稼ぎたい、上へ行きたいという野心ではなく、不当な扱いを受けたことへの、精いっぱいの抗議としての昇級だった。

「一番上の級まで行きました。自動的に給料も上がって、一番多い時で、年収が1000万円を超えたこともありました」

最上の級まで行ったのが50歳の時だ。男性含めた同期の中で出世頭となった。

2度目の結婚

窪田さんは40代で、2回目の結婚をした。管理職となり、夜中まで無償で働いていた頃だ。相手は年上でフリーランスの仕事をしている。

「最初に、自分は女らしいことは何もできないと言いました。食事も作れない、掃除もできないと。すると、『それは僕がやる』と言って、次の週には私の世話をするために越してきました。前の夫の債務を被った借金のことも話しましたが、『一緒に返していこう』と。マジかと思いました。実際には私が自力で返済したため、彼に負担させずに済んだのですが。でも、私は結婚相手に経済力を求めていないので、ちょうどよかったんです。割れ鍋にとじぶたみたいな」

目の前の窪田さんがふっと、恥ずかしそうに微笑む。彼の料理がおいしいから、こんなに太ってしまったと。何とうらやましい、幸せ太りだろう。

コンビニの冷凍食品シリーズを、栄養補給の頼みの綱として生きていた窪田さんが、結婚したことできちんとした食事が摂れ、疲れている時は夫が会社への送迎も買って出てくれる。こうして夫の支えで、窪田さんはなんとか激務をこなしていた。

40代で味わった2度のどん底

程なく、リーマンショックが会社を直撃した。

「例えば海外セレブの方は景気の変動に関係なく買うわけですが、それだけで全社員の給料が賄えるわけがなく、店頭で日々売っている商品が会社を支えていますから、リーマンショックも今回のコロナも、経営をまさに直撃するんです」

こういう時に限って上層部は、職場の改革など無理難題を押し付けてくる。窪田さんは、「予算は割けないからお金をかけずに改革をやれと。もう、地獄でした」と振り返る。

窪田さんにとっての「地獄」は、リーマンショックだけではなかった。42、3歳ごろから顕著になった更年期障害という、これまで経験したことのない体調不良に襲われた。

「若い時は汗なんてほとんどかかなかったのに、どこから出るのと思うほど汗が出て、動悸どうきもするし、簡単に熱中症になって倒れてしまうし。とりわけ、気分障害が激しくて……」

具合が悪くソファに座り、頭に手をやる女性
※写真はイメージです
気づいたら周りの人間がどんどん離れてしまっていた

ちょうど重い責任が課せられ、出世の階段を登る時期。窪田さんは、更年期の複雑な症状に翻弄される。

「気分障害」と窪田さんは表現したが、とりわけ以前と決定的に変わったのは、「被害者意識」が生まれたことだったと言う。

「一番、それが大きかったと思います。周りが悪いとか、自分はいじめられているとか、理不尽にひどい目に遭っているとか、被害者意識を持ってしまうんです。当時はそれが年齢的な病気のせいだとは思っていないわけで、ハッと気づいた時には、もう遅い。周りの人間がどんどん離れて行ってしまいました」

その被害者意識には、明確な理由もあった。差別されてきたこと、不当な扱いを受けたことによる心の傷は、窪田さんの胸に深く刻み込まれていた。

「そういうものが積もり積もってのことだとは思いますが、やっぱり女性は被害者意識を持ちやすい。当時、部下への当たりがキツかったし、怒りの制御ができなかったですね。これは私だけではなく、40代、50代の女性社員って妙にイライラして人に当たって、厳しいことを言って、嫌われている人がかなりいることが見えてきたんです」

個人として指摘すれば、パワハラになりかねない。更年期障害について会社が働きかけをしてくれないと女性の出世はあり得ないと、窪田さんは痛切に思う。

会社を牛耳る男性のネットワーク

女性が陥りやすい被害者意識のために、女性同士がつながり合うのが難しいのだろうか。

お茶の一件もそうだが、窪田さんがなぜ女性は女性同士でつながれないのかと考えずにいられないのは、社内には男性による強力なネットワークが存在していたからだ。

会社を牛耳る、暗黙の「オールドボーイズネットワーク」の存在こそ、弊害以外の何者でもないと窪田さんは認識する。

「学閥から始まったと思うのですが、お昼に同じ店での食事の時とか、タバコを吸う人同士とか、ゴルフ仲間、麻雀仲間などで会社の決定が行われる。海外出張は、特にそう。そこに行った人だけで話して会社の方針をどんどん決めていく。会議など、全部出来レースで、全て結論は決まっちゃっているんです。その人たちの都合のいいように」

会議室で立ち話をする二人の男性
※写真はイメージです
一番やってはいけないのは、メンツをつぶすこと

ある時、事件が起きた。当時、女性の役職者が3人いたが、当然、オールドボーイズネットワークのメンバーではない。

「会議でメンツを潰すということが、一番やってはいけないことでした。会議で役員がこの商品を取り扱いたいと提案した時に、部長である女性が『何億円もかかるので、今の時期に許可できません』と言ってしまった。でもそれは、オールドボーイズネットワークでは実施が決まっていたことなのです。なのに、女性は強硬に反対を表明して、その役員が激怒したんです。翌日、その女性はいきなり役職を外されました。それだけではありません。それからほどなく、残りの2人も含めて女性の役職者全員が役職を外されたんです」

オールドボーイズネットワークに従わない者への、見せしめだった。こうして社内は震え上がる。

「ネットワークのトップの人たちは仕事ができるというより、ネットワークを利用して下の人間にやらせて、手柄を横取りして業績を上げる。慕われているのではなく、恐怖で支配するんです。言うことを聞かないと、好きな部署にいられないぞと」

報告書ビリビリ事件

実は窪田さんも昔、とんでもない目に遭ったことがあった。

「成功したプロジェクトの報告書を作ったのですが、それを見た部長からビリビリに破かれました。課長が、『お前、部長のおかげって書かなかっただろう』って。驚きですよ」

報告書にすら、上司の実績をたたえないといけないという暗黙のルールがあるとは、ネットワークに所属していない以上、わかるはずもない。これも、男のメンツなのか。

くしゃくしゃになった報告書を引きちぎる男性の手元
※写真はイメージです

「現役時代、何度もいろいろな男性から言われたのが、『俺のメンツを潰したな』という言葉でした。私は順当な出世ではなく成り行きで昇進したので、男のメンツを立てるなどの、オールドボーイズネットワーク的な教育は受けていないわけです。それで地雷を踏むようです」

窪田さんの観察眼によれば、何かを企画した時、オールドボーイズネットワークは仲間を探す。資料を作る能力、プレゼン力があるなど目星をつけた男性社員に、個別に「メシ、行かねえか」とか「酒、飲まねえか」とネットワークに誘いをかける。決して、「お前、仲間に入らないか」とは言葉にしない。

「何となく危険だなと思って去る人もいれば、気がつかないまま仲間になってしまっている人も多いですね。私の部下が違う部署の部長の仕事をしていて、そのことを指摘したら、『いやいや、これはいいんです』と。でも結果、その作業は部長がやったことになって、手柄は他部署の部長のものです」

オールドボーイズネットワークに役立つなら、違う部署の仕事を勤務時間内に行うことも大手を振って許される。こうした暗黙のルールが、社内に張り巡らされていた。

業績が悪化すると組織改革のメスが入るが…

一度、リーマンショックによる業績悪化に直面した際、オールドボーイズネットワーク解体の動きが起こり、窪田さんも協力を求められた。

「私もそのために役立つことをしました。結果として、オールドボーイズ的な動きをしていた人たちが、結構、会社を辞めたんです。でも、その後、同じようなネットワークがまた男性社員の中に出現した。始めたのは、それまで全く関与していなかった若い世代の人。もう、遺伝としか、言いようがない。蚊帳の外であっても、彼はそういう動きをちゃんと見ていて、そこに利があると思うから、踏襲したのでしょうね。普通には、そんなことは思いつかないでしょう? そして業績がいいうちは、もう解体の動きは出てこない。表面上はその中心人物の手柄になっているので、その人のおかげで給料をもらえているからと、ネットワークを退治できなくなる」

悪しき慣習が世代を超えて、連綿と受け継がれているという紛れもない実態。窪田さんはたとえ改革に至らなくとも、この事実を伝えていくことが大事だと思っている。

「再雇用で今、働いているのも、会社の本来あるべき姿というものを少しでも残したい、ちょっとでもとどめていたいという思いがあるからです。誰にも望まれていないことかもしれませんが」

なぜ、女性同士は手を組めないのか

では女性同士でネットワークを組めばいいのではないか。窪田さんがこれまでの経験で痛感するのは、「結婚している/していない」「子どもを産んだ/産まない」という「分断」を、女性側が作ってしまっていることだ。

「男の人にはそういうのが全然ない。結婚して子どももいる女性が部長になりたいと夢を話したら、独身の女性社員が『なんてぜいたくなの!』って怒ったんです。その時、すごい壁があるのを感じました。自分が選ばなかったほうの人生を選んだ同性への嫉妬です」

同じ企業の正社員同士で、これほど深い分断がある。この国で女性同士がつながり合えないでいるのは、それぞれが立場や境遇により苦しい思いを強いられているからではないだろうか。

窪田さんは改めて、こう振り返る。

「私はたまたま子どもがいませんが、難しかったですね。同期の同僚で、子どもが生まれた人は全員、辞めていますから。当時の日本の制度では無理でした」

労働現場で男女雇用機会均等を許された、総合職第一世代の女性たち。男性並みに働くことが可能となった女性たちは、何と多くを犠牲にしないと、男性と同じステージに立てなかったのだろう。

夫との生活を守るため、働き続ける

現在、再雇用の身ゆえ、現役時代と比べて収入はかなり少ない。それでも窪田さんは、働き続ける日々を選んでいる。

「課せられる目標と責任は変わらないのに、収入は激減です。それでも会社に行っているのは、夫のためです。夫との生活を守るため。結婚した時、彼、国民年金を滞納していてほとんど年金がないことがわかったので、私の扶養にして第3号被保険者に入れたんです。さかのぼれる分は払っているので、少しは出るはず。けれど、もし私が先に亡くなった場合、夫に遺族年金は出ないので将来に心配が残ります。男性が年金受給開始前に亡くなった場合は遺された妻に寡婦年金が出るのにおかしいですよね。

今は残業も少なく、家でくつろぐ時間も増えましたが、夫と遊ぶための肝心の原資がない。借金があって蓄えがそれほどできなかったし、現役最後の2年にコロナでボーナスがゼロ、アテにしていた200万円が吹き飛びました」

あれほど私生活を犠牲に身を粉にして会社のために働いてきたというのに、窪田さんが描く未来は安泰なものではないと言う。

女性の立場向上を実現できなかった悔しさ

いよいよ、最後の質問だ。今回、あえて取材に応じてくれた真意はどこにあるのだろう。

「私自身は最も高い職位に試験で合格し、部長職になりましたが、能力のある女性社員が次々と潰されていくさまを止めるほどの力はなく、定年を迎えるまでの37年間、結局女性の立場向上は実現できませんでした。敗北のむなしさを抱えたまま、再雇用に甘んじています。

女性のキャリア形成に、女性特有のライフスタイルの変遷や身体の変化を折り込んだ施策が必要だと、私の経験から強く思います。例えばジェラシー・コントロールについて適切に対処できるよう、プログラムの下に指導していくなど対策が全く欠けている。これは決して、個人の努力の問題に期してはいけない。会社として、あるいは国として、正面から取り組まなければいけない問題だと思います。そこに着手しないと、男性同士で出来上がった出来レースという世界に、女性は全く太刀打ちできない。いくらその女性が優秀でも、優秀なアイデアを実現するすべがないのです」

窪田さん自身の苦節から迸ほとばしる、後輩女性たちへの思い。女性がのびのびと能力を発揮できる、新たな道を作らないといけない。均等法第一世代を生きた、窪田さんの身を削るような叫びだ。

黒川 祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション作家
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。

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