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エドヴァルド・ムンク鑑賞をオルセー美術館とギャラリーで。

  • 2022.10.30
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オルセー美術館の『ムンク、生命・愛・死のポエム』展

オルセー美術館ではノルウェーの画家エドヴァルド・ムンク(1863~1944年)の絵画、版画、デッサンなど約100点を展示する『ムンク、生命・愛・死のポエム』展を開催中だ。彼の名に暗い作品ばかりを想像しがちでは?この展覧会では画家としての彼の60年間のキャリアにおける作品を紹介するもので、発見がいろいろある。展示は時代順ではなく、テーマ別だ。というのも、いくつかの主題について、彼はキャリアの中で複数時期に扱っているからだ。

左: エドゥヴァルド・ムンク作『Heure du soir』(1888年)©️Munch Museum / Munch -Ellingsen Group/ EGAP右: 『Tête du ‘’Cri’’ et mains levées』(1898年)photo: ©️Dag Fosse/ KODE

独学で子ども時代から絵を描き始めた彼。18歳の時に数カ月だけオスロのロイヤル・カレッジでデッサンを学ぶ。奨学金を得てパリ滞在をし、当時フランスを騒がせていた印象派の作品に接し、自由な色使いや素早いタッチに影響を受けるのだ。しかし風景画の時代は短く、その後近親者の肖像画を集中的に描き、1890年代に時代が移る頃家族的光景をシンボリックに描く作風を確立する。これが展覧会の最初の部屋で、次の部屋は「人間の心を探る」をテーマに『思春期』を含む3作品を展示。その後、パリからノルウェーに戻ってから始めた「生命のフリーズ」と呼ぶ連作を紹介し、「愛の波」は人間同士の結びつきをテーマに橋の上の複数の人物を描いた作品を集め……最後の「大規模装飾」へと。

左: エドヴァルド・ムンク作『Soirée sur l’avenue Karl Johan』(1892年)photo: ©️Dag Fosse/ KODE右: ヴァンパイア(左)や死の床といったテーマは『叫び』同様に、キャリアの中で繰り返し描かれた。photo Mariko Omura

左: エドヴァルド・ムンク作『Madonna』(1895〜96年)。photo The Gundersen Collection / Morten Henden Aamot右: 『Les jeunes filles sur le pont』(1927年)photo ©️CC BY 4.0 Munchmuseet

左: エドヴァルド・ムンク作『Jeunes filles arrosant des fleurs』(1904年)photo:Mariko OMURA右: エドヴァルド・ムンク作『Nuit étoilée』(1922〜24年)photo©️: CCBY-NC-SA-4.0Munchmuseet

5歳で母を亡くし、その9年後に姉を亡くし、さらに病の父に寄り添って……と早い時期から周囲に死があり、女性関係も決してうまくいかなかった彼の作品は不安や苦悩を感じさせる。こうした内省的作品を生み出し続けた彼は、1908年に精神病医のクリニックに入院。その翌年、退院するや都会を離れて田舎暮らしを始め、そこから太陽の輝くような明るい作品が生まれることになる。最後のテーマで紹介されるのは20世紀の初めに彼が関わった複数の装飾プロジェクトで、たとえば彼のメセナの家の子ども部屋のための絵画のシリーズや、オスロの大学の大ホールの壁画など。明るい色の希望に満ちたこれらの作品が最後の部屋を満たし、そして会場出口の「エピローグ」で亡くなる少し前に描いた『自画像』が60年のキャリアを締めくくっている。「我々が死ぬのではない。世界が死に、我々から去ってゆくのだ」という彼の言葉とともに。

エドヴァルド・ムンク作『Le Soleil』(1912年)photo©️: CCBY-NC-SA-4.0Munchmuseet

オスロ大学の大ホールのための壁画の一部。会場で流されるビデオより。photo:Mariko Omura

『Munch , une  poème de vie, d’amour et de mort』展開催中~2023年1月22日Musée d’OrsayEsplanade Valéry Giscard d’Estaing75007 Paris開)9:30~18:00(火、水、金~日)9:30~21:45(木)休)月料)16ユーロwww.musee-orsay.fr/fr@museeorsay

ムンクとアンナ=エヴァ・ベルグマン、ふたりのノルウェー人画家

ギャルリー・ポッジの入り口に掲げられている写真は、アンナ=エヴァ・ベルグマンもエドヴァルド・ムンクも海岸で撮影されたものだ。photo:Mariko Omura

オルセー美術館で来年1月22日まで開催のエドヴァルド・ムンク展より少し先に、ポンピドゥー・センターからそう遠くない場所にあるギャルリー・ポッジがエドヴァルド・ムンク展をスタートした。ここは、ムンクが書き残した文章集のフランス語翻訳版を10年ほど前に出版したジェローム・ポッジがオーナーの画廊だ。「芸術の宇宙論」とサブタイトルされた展覧会で、会場ではムンクと同じノルウェー出身で彼の影響を受けたアーティスト、アンナ=エヴァ・ベルグマン(1909〜87年)の絵画、木版画をムンクの作品と対峙させている。自然の光景を神秘的に捉えて描くという共通点のあるふたりだ。

左: フランス初公開のエドヴァルド・ムンクの作品(1903年)。右: アンナ=エヴァ・ベルグマンによる風景。photos:Galerie Poggi

左: 1923年に描かれたムンクの風景画。こちらもフランス初公開である。右: 北欧の家具を配置した会場。左がムンク、右がベルグマンの作品だ。photos:Galerie Poggi

どちらもアンナ=エヴァ・ベルグマンの作品。アンティーブに残された彼女と夫アンス・アルトゥングの自宅&アトリエが今年から一般公開されるようになった。来年パリの近代美術館で開催予定の彼女の回顧展が楽しみだ。photos:Galerie Poggi

展示されているムンクの作品は1903年と1923年に描かれた個人所蔵の2点で、どちらもフランス初公開だという。それに加えて珍しいことに、この2作品は販売されているのだ。買い手次第では、今後この2点は世間の目に触れることがなくなるかもしれない。北欧の家具を展示したミニマルな会場で、この機会にベルグマンの作品とともに鑑賞を。なお、彼女の回顧展が来年の春にパリ市近代美術館で予定されているそうだ。

一般来場者には閉ざされている奥のスペースにも、ムンクの絵画1点とベルグマンの版画3点が展示されている。ムンクのこの作品は海岸で遊ぶ子ども2人を描いたもの。1911年、彼が48歳の時の油彩で、ほかの2点同様、彼にしては穏やかな作品である。

左: ムンクの『海岸の2少年』(1911年)を展示している奥のスペース。右: 自然をテーマにしたベルグマンの版画。photos:(左)Mariko Omura、(右)Galerie Poggi

『Edvard Munck , Anna-Eva Bergman/ Une cosmologie de l'art』開催中~11月6日Galerie Poggi2, rue Beaubourg75004 Paris開)11:00~19:00休)日、月

 

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