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平田晃久が設計を手がけたカプセルホテル「ナインアワーズ 赤坂 スリープラボ」:東京ケンチク物語 vol.36

  • 2022.10.30

寝るためだけのものだった「カプセルホテル」は、大きく様変わりしました。小さくても満ち足りた気持ちで眠りたい!そんなワガママを叶える宿泊施設を訪ねます。

ナインアワーズ 赤坂 スリープラボ
9h Akasaka Sleep Lab

ベッドの入った小さなユニットが縦横に重なり、その中に人々が泊まる宿泊施設「カプセルホテル」。手に届くところにテレビや棚、電源など工夫を凝らした設備がそろっていて“寝るだけ”ならば十分なうえ、一人分の宿泊スペースが通常のホテルよりずっとコンパクトで済むから、宿泊費も格段に安い。この「カプセルホテル」という形態の登場は1970年代の終わりの大阪。これが終電後まで働く会社員や、出張の宿泊費を節約したい人々などに支持されて日本各地に広がっていく。高度経済成長期の日本を象徴するような形態だ。それから40年あまり。カプセルホテルの現在地点を教えてくれるのが、赤坂の繁華街から少し道をそれた場所に建つ「ナインアワーズ 赤坂 スリープラボ」だ。

設計を手がけたのは平田晃久。1971年生まれの平田は、2012年にヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展・金獅子賞を受賞するなど、いまの日本の建築界を担う一人。作品にはいつも、呼吸する生命体のような空気が宿る。この建築もそんなひとつだ。

外観は四角い箱が前後左右にずれながら4層に積み上がったような形で、“ずれ”の部分や外側にテラスが設けられて緑が生い茂る。さらにそれぞれの箱は大部分がガラス張りで、内部のカプセルが口を開けているのが見える。従来型の同様の施設では、カプセルが廊下に向けて出入り口が同方向に並んでいるケースが多いが、ここでは上段と下段の各2個を90度回転させた、4個で1ユニットのキューブをずらしながら配置しているのが特徴的。ユニットの向きや上下によって、見える景色やこもり感がそれぞれに違うから、宿泊者の好みに合ったポジションが見つかる。さらにプロダクトデザイン界のトップランナー、柴田文江によるカプセル自体も、身体を心地よく包み込む設計で快適そのもの。「寝るだけだからカプセルホテルでいい」ではなくて、「あそこで寝たい」と思わせる、カプセルホテル。デザインの力が、昔からある業態に新たな価値を生んだ好例だ。

GINZA2022年6月号掲載

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