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「シャーロック・ホームズ」は、なぜ130年経った今でも熱狂的に愛されているのか

  • 2022.10.24

世界で最も有名な「名探偵」、シャーロック・ホームズ。推理小説家コナン・ドイルによって生み出されてから130年以上が経ってもなお、その人気は揺るぎなく、今でも世界各地でさまざまな派生作品が作られている。

読書家でなくともその名を知り、世界中に熱狂的なファンを抱え続けるスーパースター探偵は、いかにして生み出され、どのような軌跡を辿ってきたのだろうか。ホームズ研究の第一人者・日暮雅通さんが、シャーロック・ホームズにまつわるあらゆる歴史を一冊にまとめたのが『シャーロック・ホームズ・バイブル 永遠の名探偵をめぐる170年の物語』(早川書房)だ。

本書は、シャーロック・ホームズシリーズを一つ一つ見ていく解説書ではない。ホームズがどのように誕生し、以後130年の間にどのような人々の手によって人気が持続・増幅され続けてきたかという、ホームズ人気の"立役者"たちを追う一冊だ。

第1部では、作品誕生当時のヴィクトリア時代のイギリス・ロンドンの時代背景を解説。第2部では多くのページ数を割き、作者コナン・ドイルその人の生い立ちを詳説している。第3部ではホームズシリーズの登場人物や物語の基礎知識を紹介。第4部では映像化などの二次作品やファンの活動に焦点を当て、第5部ではホームズシリーズが日本へどのように移入し翻訳されてきたかを辿る。

特に興味深いのは、「シャーロッキアン」と呼ばれる熱狂的なファンたちの活動だ。シャーロッキアンたちは、「ホームズとワトスンを実在の人物として扱い」「ホームズ物語は(コナン・ドイルでなく)ワトスンが書いた現実の出来事だとみなす」ことを前提に、さまざまな「研究」を楽しんでいるという。本書はそれを踏まえて、シャーロック・ホームズシリーズを書いたのはコナン・ドイルであるという現実をベースにしつつ、物語の内容やホームズの人生に関わる話の際には、「ホームズやワトスンを実在の人物として扱う」という立場に立って書かれている。こうした、ファンダムならではの文化を俯瞰できる点でも興味深い。

本書は552ページという大著だが、「これでもかなり削っている」のだそうだ。いかにシャーロック・ホームズの世界が幅広く奥深いかがよくわかる。内容はミステリファン向けのため、普段全く推理小説を読まない人にとってはかなり骨の折れる本だろう。それでも、シャーロック・ホームズシリーズの深い森へと足を踏み入れてみたい......そんな読者にはぜひおすすめだ。

【目次】
はじめに
序章 ホームズ物語の全体像とアプローチのしかた
第1部 ホームズ物語誕生の時代背景:ヴィクトリアーナ的基礎知識
第2部 コナン・ドイルの人生とホームズ物語:ドイリアーナ的基礎知識
第3部 ホームズ物語の詳細:シャーロッキアーナ的基礎知識
第4部 アダプテーションとファン活動:シャーロッキアンの世界の詳細
第5部 日本への移入史と翻訳の話題

■日暮雅通(ひぐらし・まさみち)さん
翻訳家。1954年生まれ。日本推理作家協会、日本文藝家協会会員。訳書に、ドイル『新訳シャーロック・ホームズ全集』、フォレット『ペーパー・マネー』、ウィルソン『千の嘘』、スタシャワー『コナン・ドイル伝』、スティーヴンスン『七人のイヴ』など多数。

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