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闇を照らし、自らを見つめる...秋の夜長に読みたい4冊。

  • 2022.10.22
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普遍的な想いを伝え、ウクライナを支援する絵本。

『キーウの月』

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ジャンニ・ロダーリ著ベアトリーチェ・アレマーニャ絵内田洋子訳講談社刊¥1,320

ウクライナ支援のため、イタリアの出版社がこの絵本を緊急刊行したのは今年4月。ミラノを拠点にジャーナリストとして活躍する内田洋子がこの動きに賛同し、日本版が刊行された。イタリアの国民的作家ジャンニ・ロダーリの詩は語りかける。キーウの月もローマの月も同じひとつの月。パスポートもなしに移動して闇夜を照らす月の光は希望そのものだ。この本の売り上げによる利益はすべてイタリア赤十字社とセーブ・ザ・チルドレンに寄付される。

母に支配された娘の自立を、神話的な語り口で描く。

『ホットミルク』

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デボラ・レヴィ著小澤身和子訳新潮社刊¥2,420

原因不明の病で歩けなくなった母を介護するため、25歳のソフィアは人類学者になる夢を断念し、南スペインにやってくる。保養地の陽光とそこで出会った人々が、諦めに苛まれていたソフィアを変えていく。傍若無人な母親を、見る人を石に変えるメドゥーサにたとえたり、神話的なモチーフがちりばめられた語り口には不思議な浮遊感が漂う。なるほど、介護とは究極の支配でもある。母に支配された「いい子」が殻を破り、自立するまでの物語。

なぜ私は選ばれないのか、モテを真摯に考えたエッセイ。

『失われたモテを求めて』

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黒川アンネ著草思社刊¥1,540

シングルとして充実した人生を謳歌しようとすると、なぜかモテなくなる理不尽を感じたことはないだろうか。仕事ができる自立した聡明な女性と、旧態依然とした「モテ」の規格の相性はそもそも悪いのではないか。恋愛や仕事で「選ばれない」と自己嫌悪に陥りがちだけれど、「選ばれない」理由は本当に自分にあるのだろうか。コロナ禍をサバイブしながら、「モテ」に安易に迎合することなく楽しく生きる方法を真摯に実践したエッセイ。

美しい植物標本と、そこから生まれた掌編小説が一冊に。

『ポール・ヴァーゼンの植物標本』

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ポール・ヴァーゼン、堀江敏幸著リトルモア刊¥2,200

この本に収録されている植物標本は、東京のアンティークショップの店主が南仏の蚤の市で見つけたものだという。100年も前に採集された野の花の淡い色が、歳月を経たいまも残っていることに驚く。一方、堀江敏幸という作家は、遺された物に宿っている記憶の欠片を小説にしてきた。かすかな手がかりから、植物標本を作ったひとりの女性の消息が浮かび上がる手際は名探偵さながら。記憶の残り香と想像力による美しい二重奏。

*「フィガロジャポン」2022年11月号より抜粋

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