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細野晴臣と中沢新一の合羽橋ぶらり旅。リアルが残る町で、バーチャルな世界を語る

  • 2022.10.22
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音楽家・細野晴臣、人類学者・中沢新一

100年の歴史を持つ、日本一の道具専門店街

大正初期、江戸期に造られた新堀川の両岸に数軒の古道具屋や小間物屋が商売を始めたことが道具街の始まりとされる。川は大正12(1923)年に暗渠化された。

合羽橋の由来は、金竜小学校跡地周辺にかつて伊予新谷の城主の下屋敷があり、侍が内職で作った雨合羽を近くの橋に干していたという説と、文化年間に合羽屋喜八が私財を投げ売って掘割工事を始めた際、捗らない工事を隅田川の河童たちが助けたという説がある。

東京 合羽橋周辺地図
合羽橋 誓教寺の墓地
稲荷町駅から歩いて5分の誓教寺へ。
浮世絵師・葛飾北斎の墓
境内には江戸の浮世絵師・葛飾北斎の墓が。墓には「画狂老人卍墓」(「卍」は北斎の雅号の一つ)とあり、辞世の句が刻まれている

道具にこだわらない2人の道具屋巡り

リアルが残る貴重な町で
バーチャルな世界を語る。

細野晴臣

中沢くんはこのあたりって来ることあるの?

中沢新一

そうですねえ。僕はやっぱり浅草の〈とんかつ ゆたか〉。

細野

僕ら2人とも出歩く目的は大抵、食べ物屋だな(笑)。

中沢

いや、でも僕は合羽橋の道具街に買い物に来ることもありますよ。さっき大きなざるを買ったのも、家の近くにいる雀たちにあげる餌を入れようと思って。細野さんは料理道具とか買ったりはしないの?

合羽橋〈ニイミ洋食器店〉店内
道具街では中沢さんはざるを購入。

細野

簡単な料理はするけどね、道具にこだわるところまでいってない。チャーハンとかチキンライスとか。色々と研究してるんだけど、やっぱりお店で食べるのと味が違う。道具にも何か秘密があるんだろうな。

中沢

僕もあんまり道具に凝ったりするのは好きじゃないんですけど。今日は普段は訪れることのない店も覗けて楽しかったですね。〈食品サンプル「まいづる」〉とか。

細野

あの食品サンプルのiPhoneケース(笑)。中沢くんは「ガラケー」だから使えなかったけど。

合羽橋〈かっぱ橋道具街〉
170店に及ぶ料理飲食器具・道具の店が並ぶ〈かっぱ橋道具街〉をそぞろ歩き。入口となる菊屋橋交差点のビルの屋上に置かれた巨大なコック像(通称:ジャンボコック)をシンボルとする〈ニイミ洋食器店〉は明治末期創業の老舗。
音楽家・細野晴臣と洋食サンプルiPhoneケース
細野さんは〈食品サンプル「まいづる」〉で見つけたエビフライ&カレーの「洋食サンプルiPhoneケース」。
松が谷〈松葉公園〉
松が谷の〈松葉公園〉は第二次世界大戦の影響で一時中断されていたラジオ体操の放送が、戦後の昭和27(1952)年に再開された地。現在も年中無休で体操が行われている会場の台に上って、子供たちとポーズ。

中沢

柿の種のサンプルのストラップを買いました(笑)。戦後のラジオ体操中継放送再開の地〈松葉公園〉なんてのもありましたね。

細野

寒い中、子供たちが元気に走り回ってて良かったな。最近はゲームとかバーチャルな遊びばかりが氾濫してるじゃない。

中沢

そうなんですよ。子供だけじゃなくて、社会全体から「リアル」が消えていってますからね。お金だって、世界中どこの都市に行っても、キャッシュレスの商売が当たり前になってきてるでしょう。いまだに現金中心の東京の方が今やマイノリティ。〈宮川刷毛ブラシ製作所〉もクレジットカードが使えなかったけど、このあたりの古い商店なんかはまさに貴重な存在なんですよ。

合羽橋〈宮川刷毛ブラシ製作所〉店内
大正期の創業以来、質の高い刷毛とブラシを作り続ける〈宮川刷毛ブラシ製作所〉。豚毛や馬毛などを使い、手植えにこだわったブラシは機械による大量生産のものとは違い、毛先が広がらず長く使えるとか。
合羽橋〈宮川刷毛ブラシ製作所〉のブラシ
細野さんは爪用ブラシを購入。

細野

本当にバーチャルなものに囲まれて、自然から隔離されてきているからね。かつては自然だったことも、今はどんどん自然じゃなくなってる。

すべて作りものの世界というか。映画なんか観ていても、最近の映画は何だかよくできた遊園地みたいなんだ。その場は楽しいけれど、最終的には何も残らない。

中沢

今、テクノロジーの進化によって、人間を取り巻く環境が根本から激変しているんです。これって人類史における大転換の真っ只中にいると言ってもいい。

その中で、これまで人間社会を支えてきた「家族」という単位が持つ意味も失われつつある。これは単に“親子関係が稀薄になって由々しい問題だ”なんていうレベルの話じゃないんです。

細野

そうなんだよ。静かに、すごい変化が起きている気がしていて。

中沢

はい。その反動としてアンチGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)的な動きが噴出するように出てくるのも、ある意味では自然の摂理のように思えます。

細野

確かに、バーチャルに対抗する動きにも面白いものが出てきている気がする。やっぱり「ガラケーに戻れ」かな、中沢くんみたいに。

合羽橋〈矢先稲荷神社〉外観
寛永19(1642)年に弓師備後が京都のそれを模して建立した〈浅草三十三間堂〉の鎮守として創建された〈矢先稲荷神社〉。
合羽橋〈矢先稲荷神社〉拝殿の天井絵馬
拝殿の天井絵馬は必見。拝殿の天井には日本馬乗史を描いた100枚の絵馬が奉納されている。
音楽家・細野晴臣、人類学者・中沢新一
合羽橋の地名の由来になったともいわれる合羽屋喜八の墓がある曹源寺(通称「かっぱ寺」)ほか、大小の寺院と仏具屋がひしめく寺町でもある田原町周辺。浄土真宗東本願寺派本山である東本願寺の門前には、昔ながらの下町風情が残る町並みが。

profile

細野晴臣(音楽家)

ほその・はるおみ/1947年東京都生まれ。69年にエイプリル・フールでデビュー後、はっぴいえんど、ソロ、ティン・パン・アレー、YMOなどで活動。2017年、2枚組アルバム『Vu Jà Dé(ヴジャデ)』発表。

HP:http://hosonoharuomi.jp/

profile

中沢新一(人類学者)

なかざわ・しんいち/1950年山梨県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。明治大学野生の科学研究所所長。『カイエ・ソバージュ』(小林秀雄賞)ほか著書多数。近著に『アースダイバー 東京の聖地』(講談社)。

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