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87歳の「カラフルな魔女」 角野栄子さんが魔女修行に出るまで

  • 2022.10.2

カラフルなメガネとおしゃれなワンピースがトレードマークの角野栄子さん。ジブリ映画「魔女の宅急便」の原作シリーズをはじめ、数多くの児童文学の名作を手掛けてきた87歳の現役作家だ。

最近ではNHK Eテレのドキュメンタリー「カラフルな魔女」でその暮らしぶりが紹介され、何ものにも縛られない生き方に、ますます注目が集まっている。

いちご色の家で好きなものに囲まれて暮らし、思い立ったらどこへでも気ままに旅をする角野さん。自由な生き方の原点は意外にも、「不自由さ」にあった――。

2022年9月28日、角野さんの最新小説『イコ トラベリング 1948-』(KADOKAWA)が発売された。2015年にはじめて戦争をテーマに執筆した『トンネルの森 1945』のその後を描いた自伝的物語だ。

自由な人になることから始めなければ

「戦争」と聞くと暗く悲しいイメージから敬遠する人もいるかもしれないが、本作は爽やかで明るく、希望に満ちている。主人公の「イコ」が13歳から22歳になるまでの成長物語だ。

「好き? ならいいじゃないか。それでいいよ。好きを通せる世の中になったんだから」

1948年、終戦後の日本。中学2年になったイコの周囲には、顔にやけどを負った同級生や傷痍軍人の物乞いなど、戦争の傷跡が多く残されていた。

5歳の時に母を亡くし、いつも心のどこかに不安を抱えるイコだったが、英語の授業で習った【~ing=現在進行形】に夢中になる。現在進行形とは「今を進む」ということ。好奇心旺盛で思い立ったらすぐ行動に移すイコにぴったりの言葉だった。

つい最近まで「敵国の言葉」だったのに...と罪悪感を覚えながらも好奇心が勝るイコ。周囲の人々も、戦争なんて忘れてしまったかのようにふるまっている。急速に変わっていく価値観に戸惑いながらも、イコは必死に時代をつかもうとする。そして「いつかどこかへ行きたい。私ひとりで」。そう強く願うようになる。

とはいえ、日本からの海外渡航が許されない不自由な時代。手段も理由も見つからないまま大学を卒業したイコに、ある日大きなチャンスが巡ってくる。

<イコはまず、自由な人になることから始めなければならない。自分の中に自由を作っていかなければならないと思う。それはきっと貯金箱に小銭を入れるように、こつこつ貯めていくようなことかもしれない。>(本文より)

思春期の淡い恋、刺激的で尊敬し合える友人との出会い、「女の子は結婚するのが一番」と言う父「セイゾウさん」との衝突――。戦後の日本を舞台に、懸命に自分の路を探す少女の成長が、エスプリとユーモア溢れるタッチで描かれる。

見習い魔女が、世界をカラフルに変える「自由」という魔法を手に入れるための旅に出る。小説の中のイコが「魔女の宅急便」のキキに重なり、応援したくなる。87歳になった今もなお、自分の中に自由を作り続ける角野さんの旅は、現在進行中だ。

■角野栄子さんプロフィール
かどの・えいこ/東京・深川生まれ。大学卒業後、紀伊國屋書店勤務を経て24歳からブラジルに2年滞在。1970年作家デビュー。代表作『魔女の宅急便』は89年ジブリアニメ作品として映画化、その後舞台化、実写映画化された。野間児童文芸賞、小学館文学賞等受賞多数。紫綬褒章、旭日小綬章を受章。2016年『トンネルの森 1945』で産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、18年3月に「小さなノーベル賞」と言われる国際アンデルセン賞作家賞を、日本人3人目として受賞。23年11月に江戸川区角野栄子児童文学館がオープン予定。

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