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エドゥアール・マネ『猫の逢引』【FUDGENA:カトートシのアート×ショートストーリー vol.11】

  • 2022.9.27
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エドゥアール・マネ『猫の逢引』【FUDGENA:カトートシのアート×ショートストーリー vol.11】
出典 FUDGE.jp

 

洋服を着替えるように、インテリアを変えるように、
気軽に自由に、アートを飾るのはどうだろう。

アート一枚で部屋の雰囲気はガラリと変わるし、
さらにその絵に〈物語〉があれば、いつもの空間がもっと素敵になる。

 

あなたの部屋に飾るとっておきの一枚を、
その絵からインスピレーションを受けて生まれたショートストーリーを添えて。

 

◆今日の一枚:エドゥアール・マネ『猫の逢引』

エドゥアール・マネ『猫の逢引』【FUDGENA:カトートシのアート×ショートストーリー vol.11】
出典 FUDGE.jp

 

【同じいきもの】

数メートル先から歩いてくるその姿勢は、やや猫背気味。

 

ぼくはどっちかっていうとぱっちり目の、いわゆる犬顔が好きなんだけれど、アスファルトの白線を見つめる物憂げなその目からして、彼女は完全に猫顔だ。

べつに好みのタイプってわけじゃない。

けれどどうしてだろう、目が離せない。

 

どこかで会ったことがあるのだろうか、ぼくは記憶を辿る。

猫の額のように狭いこの街だから、どこかで出会っていたっておかしくはない。

たとえば、昔の同級生。

もしくは大学で同じ講義を受けていたり。

バイト先に来たお客さんとか。

どこにでもいそうといえば、そう。

でも同じ理由で、どこにもいないといえば、そんな感じもする。

ぼくの周りの女の子たちといえば声も背丈も皆よく似ているし、猫も杓子も同じような服を着ているけれど、彼女の着ている白い無地のワンピースはどこまでも潔くて眩しい。

 

風になびく、細く柔らかな猫っ毛。彼女はもう、すぐそこまで来ている。

彼女はどこから来たのだろう。そしてどこへ行くのだろう。

今日ここに来るまで、どんなふうに過ごしていた?

残りの今日を、どんなふうに過ごす?

変な詮索をするつもりはないけど、なぜか君のこと、もっと知りたいんだ。

 

ぼくに少しだけ時間をくれないか。

猫の手も借りたいほど忙しいかもしれないけれど、ちょっとコーヒーを飲むくらいならいいだろう。

猫舌のぼくは熱々のコーヒーが苦手だから、ちょうどいい温度に冷めるまで他愛もない話をしようよ。

猫をかぶることなく、君が知りたいことならなんでも包み隠さず教えるよ。

ぼくがそうすれば、最初は借りてきた猫のようにおとなしかった君だって、次第にいろんなことを話してくれるようになるだろう。

 

もしも、もしもだよ。

もしも君がぼくの恋人になってくれるなら、一途なぼくは君を猫かわいがりするだろう。

きっと君のこと大事にして、記念日にはお祝いしよう。

そして五年後の今日、ぼくは君にダイヤモンドのついた指輪を贈る。

宝石なんかに興味のない君には猫に小判かもしれないけど、どうか受け取ってくれないか。

 

そんな未来のはじまりが、あと1メートル先まで迫っている。

 

ぼくと君が、すれちがう。

視線がぶつかって、その瞬間、息が止まる。

たくさんの人が行き交うこの世界で、ぼくらはきっと同じいきもの。

 

エドゥアール・マネ『猫の逢引』【FUDGENA:カトートシのアート×ショートストーリー vol.11】
出典 FUDGE.jp

 

エドゥアール・マネ『猫の逢引』【FUDGENA:カトートシのアート×ショートストーリー vol.11】
出典 FUDGE.jp
エドゥアール・マネ『猫の逢引』【FUDGENA:カトートシのアート×ショートストーリー vol.11】
出典 FUDGE.jp

カトートシ

1991年生まれ

大学時代は文学批評を専攻。

書店員や美術館スタッフ、カナダでのライター経験を経た後、

2018年よりカトートシとして活動を開始。

現在は大学で働く傍ら、カルチャー関連のエッセイや小説等を執筆。

カトートシという名前は、俳人である祖父に由来するもの。

Instagram:@toshi_kato_z

 

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