1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 鉱物写真家・紀伊國潔に学ぶ鉱物の撮り方

鉱物写真家・紀伊國潔に学ぶ鉱物の撮り方

  • 2022.9.19
  • 3902 views
Rhodochrosite and Chalcopyrite / Sweet Home Mine, Alma, Colorado, USA

鉱物標本、特に透明感のある標本は、ライトを当てることでその魅力が最大限に引き出される。また、同じ種の標本でも、一つとして同じ形のものがないため、どこを正面にして見せるか、などの見立ての楽しみもあり、自分の愛着ある標本を最高の状態で写真に収めておきたいと願う愛好家が多い。

そんな鉱物写真における日本の第一人者が紀伊國潔さん。まだ日本では身近で鉱物標本が手に入らない時代から、アメリカのショーに出向き、本場のファインミネラルに触れてきた。そんな中、アメリカで最も権威のある鉱物専門誌『The Mineralogical Record』で、鉱物写真の第一線で活躍するジェフ・スコビル氏の写真に出会い、衝撃を受ける。

「もともとライカ収集家だった父親の影響でカメラは好きで、小学生の頃から理科室にあった鉱物標本の写真を撮ったりしていたんです。図鑑を見たりするのも好きでしたし。でも、ジェフさんの写真からはそうしたこれまでの標本写真とはまったく違う、なにか“鉱物の色気”のようなものを感じて。

こんな写真を撮れるようになりたい!と思い、アメリカのデンヴァー・ショーで会ったときに、いきなり初対面で弟子入りを志願したんですよ。そうしたら、すぐその場で写真の撮り方のレクチャーをしてくれて。以来アメリカのショーで会うたびに彼のアシスタント的なことをしながら撮影方法を学び、その関係は今も続いています」

そんな紀伊國さんのスタジオにある撮影セットは、とてもユニークな構成だ。鉱物を置く面はノングレアガラスになっており、その下にさらにもう一段台があって、そこに背景紙のアールがついている。2階建て式の背景セットなのだ。

Olivenite / Tsumeb Mine, Tsumeb, Namibia
Olivenite / Tsumeb Mine, Tsumeb, Namibia
Fluorite and Rhodochrosite / Sweet Home Mine, Alma, Colorado, USA
Fluorite and Rhodochrosite / Sweet Home Mine, Alma, Colorado, USA
Smithsonite / Berg Aukas Mine, Grootfontein, Otjozondjupa, Namibia
Smithsonite / Berg Aukas Mine, Grootfontein, Otjozondjupa, Namibia
Guanajuatite / Santa Catarina Mine, Guanajuato, Mexico
Guanajuatite / Santa Catarina Mine, Guanajuato, Mexico
Pink Topaz / Katlang, Mardan, Pakistan
Pink Topaz / Katlang, Mardan, Pakistan

「すべてジェフさんに教えてもらったセットです。こうすることで、背景にぐっと奥行きが出てくる。また、上からのライトでガラス面手前に標本が映り込んでくる効果も出る。こういう写真ってほかにはない。このノングレアガラスがとても大事で、日本のものだと、表面のガラス粒子の凹凸が少し粗くて、背景にその影のくすみが少し出てしまうんです。アメリカはこうした用品がかなり充実していて、ものすごい細かい粒子のものがあり、それを教えてもらって使ってます。アメリカのショーに行くたびに写真用品ショップは覗いていて、石より熱心に見てるかもしれません(笑)」

その撮影台には、複数のアームが伸び、小型のレフ板を無数に付けられるようになっている。

「師匠の教えに“太陽は1つだから光源もメインを1灯から作っていくのが基本”というのがありました。そこからレフを駆使して、ハイライトの入り方などを作り込んでいく。“隣り合う結晶の面同士に同じ量の光を当てないように”というのも師匠から最初に言われましたね。だから面が多い鉱物、ガーネットなどは難易度が上がります」

Liddicoatite / Vohitrakanga, Betafo, Madagascar
Fluorite and Calcite / Minerva #1 Mine, Hardin County, Illinois, USA
Rhodochrosite with Manganite / N'Chwaning I Mine, Kuruman, South Africa
Rhodochrosite with Manganite / N'Chwaning I Mine, Kuruman, South Africa
Fluorite and Calcite / Minerva #1 Mine, Hardin County, Illinois, USA
Liddicoatite / Vohitrakanga, Betafo, Madagascar
Rhodochrosite and Chalcopyrite / Sweet Home Mine, Alma, Colorado, USA
Rhodochrosite and Chalcopyrite / Sweet Home Mine, Alma, Colorado, USA

機材だけではない。さまざまな形の鉱物標本のどこを正面とするか、この見立ても非常に重要だ。

「まずその鉱物のどこがしっかりと写っていることが重要か、を考えます。その鉱物特有の結晶形が明確にわかるか、条線があるものは条線が、内包物やゾーニングがあるものはそれが見えるようになっているか、などなど。そんな学術的な知識を抜きにして標本写真は成立しません。 こうした知識がないと重視すべきディテールを見落としてしまうんです。

鉱物標本写真は、その依頼主がコレクターさんで、自分の愛着のあるものを写真で残しておきたい、という依頼が大半なので、もちろんその人の思いに応えるような美しい写真である必要があります。でも、同時に学術的資料・リファレンスとしての役割を併せ持っていることも忘れてはいけないと思うんです」

紀伊國潔が自作したレフ板がぎっしり入った棚
自作のレフ板がぎっしり入った棚。ポラフィルムの箱の内側のアルミ箔を使ったレフがお気に入り。

profile

鉱物写真家・紀伊國潔

紀伊國潔(鉱物写真家)

きいくに・きよし/鉱物写真界の第一人者であるジェフ・スコビル氏に師事。スタジオ兼予約制ショップの〈キーズミネラルコレクション〉代表。

HP:www.keysminerals.com

元記事で読む
の記事をもっとみる