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この秋、心の機微を感じ取る女性作家たちによる4冊。

  • 2022.9.10
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空疎な抽象論ではない言葉、地に足の着いた眼差し。

『パイプの中のかえる』

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小山田浩子著イグニッション ギャラリー刊¥1,760

生まれ育った広島で創作を続ける芥川賞作家、小山田浩子の初のエッセイ。広島では保育園の時から平和教育が行われているが、それは具体的な行動に結び付いているだろうか。「女はおならもうんこもしない」という男児の発言を聞き捨てならないと感じたり、日常のささやかな違和感に潜むものを地に足の着いた感覚で読み解いていく。東京発信の情報は、ともすれば主語が大きくなる。おざなりな言葉に流されない眼差しにハッとさせられる。

あまりにも不穏な展開に、人の心の闇が浮かび上がる。

『とんこつQ&A』

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今村夏子著講談社刊¥1,650

今村夏子の小説を読むと心がざわつくのはなぜだろう。中華料理店「とんこつ」で働き始めた不器用な私は、やっと見つけた居場所を新しく雇われた女に奪われるのではないかと危機感を覚える。みんなから嘘つきとレッテルを貼られた少年は、さんざんいじめられて姿を消した。さて、それで何が起こったのか。明るい筆致で描かれる不穏な結末。人が集団になった時に芽生える同調圧力や依存心の行き着く先を不吉な寓話のように描いた全4編。

回復への祈りにも似た、韓国作家による詩集。

『引き出しに夕方をしまっておいた』

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ハン・ガン著きむ ふな、斎藤真理子訳クオン刊¥2,420

2016年に『菜食主義者』でアジア人初のブッカー賞を受賞した韓国の作家ハン・ガンは、1993年にまず詩人としてデビューした。21年目にしてその詩を初めて一冊にまとめたのがこの詩集だ。『菜食主義者』では突然肉を食べられなくなった妻を、『ギリシャ語の時間』では言葉を失った女性を描いたこの作家が美しい文体で紡いできたのは、喪失と再生の物語だった。読むこともヒーリングだと感じさせる魔術的な読後感をぜひ味わってほしい。

花の命の揺らぎをとらえた、蜷川実花の新境地。

『花、瞬く光』

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蜷川実花写真河出書房新社刊¥2,640

2018年から国内10カ所を巡回した『蜷川実花展―虚構と現実の間に―』は、これまでの集大成と言えるものだった。昨年から今年にかけて日本各地の植物を撮影した最新作は、まばゆい光の中に命の瞬きをとらえた新境地。造花やネオン管など無機質な虚構にリアルな輝きを見いだしてきた写真家が、散るからこそ美しい花々の儚さを追いかけた世界は、コロナ禍のいまに寄り添っている。東京都庭園美術館にて同作に関連した展覧会が開催中。

*「フィガロジャポン」2022年10月号より抜粋

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