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ノルマンディーのシードル街道を訪ねて。

  • 2022.9.4

今年のヴァカンスは、猫連れでノルマンディーのキャンプ場に出かけてきました。キャンピングブームのせいか、どこも満員。地続きのベルギーやオランダからキャンピングカーでフランス各地を巡る人たちが、なんと多いこと!

到着してから早速、村のマルシェへ……ところが、拍子抜けするほど小さい。八百屋一軒とチーズ屋のみで、買い物に来ているのは、村に住むお年寄りが数人。翌日、気を取り直してCambremer(カンブルメール)という村まで行ってみると、そこもこじんまりとしていて、3軒のみ。

マルシェは、いつも村の中心にある教会前の広場に立つ。

八百屋には旬のフルーツ。ですが、地元の野菜が無いのが残念。

さすがは、乳製品の豊富なノルマンディー。チーズ屋には地元産の牛乳、クリーム、鶏肉やシャルキュトリーと、おいしそうなものが揃っていてラッキー。

Camembert(カマンベール)、Pont-L'Evêque(ポンレヴェック)、Livarot(リヴァロ)など、この近くの村の名前を冠して、現地で作られたチーズが並んでいます。奥の白いバケツに入っているのは、フロマージュ・ブランの量り売り。

大きなボールに入っているのは、ノルマンディーの郷土食Teurgoule(テルグル)というお米のプディングで、6時間くらいかけてゆっくりオーブンで焼かれるもの。左は名産のシードル、奥は牛乳のコンフィチュール。

買い物の後は、広場にあるカフェで休んでから周りを散策。可愛い家々が並ぶ村は、どこも手入れが行き届いていて気持ちがいい。

歩いていると、ふと現れてスリスリ。ここ撫でて!と人懐っこい子が。

こちらに来る道すがら、方々で見かけた“Route du Cidre”(シードル街道)という看板が気になったので、帰りに寄ってみることに。

木々の生い茂るトンネルを抜けて辿り着いたのは、若い夫婦が運営する、イギリス貴族の荘園を思わせるマナーハウス、Manoir de Grandouet(マノワール・ド・グランデュエット)。素朴なシードル農家を想像していたので、わあ、素敵!と声を上げてしまった。

庭の中には、12世紀に建てられた教会、池には蓮の花が美しい。

昔りんごをすり潰していた石の道具は、現在は花壇になってゲストを迎える。

敷地内にあるりんご畑では、牛90頭が放し飼いにされていて、その乳は、Pont-L'Evêque(ポンレヴェック)、Livarot(リヴァロ)のチーズに加工されているという。

ノルマンディー独特の木組造りの小屋は、かつてシードル工房として使われていた処で、ガイド付きの見学で古くから伝わるメソッドを学ぶことができる。

無農薬有機農法で栽培されている20種類のりんごから作られているのは、ジュース、シードル、カルヴァドス、ポモーにヴィネガー。それぞれの発酵、熟成を経て加工されている。

りんごを砕いて圧搾する機械は、20年位前まで使われていたもの。

16kgのりんごからできるのは10Lのシードル=1Lのカルヴァドス、と記された樽。

このオーク樽が造られたのは、1792年だという。

一旦外へ出て、中世から現在の工房へ移動。途中にある、18世紀頃造られた風情ある納屋は良く手入れされて現役で使われている。

秋に収穫したりんごは、この大きな籠に入れて洗浄、粉砕、圧搾されてジュースに。

それを隣にある貯蔵庫に送り、シードルはおよそ2~3ヵ月発酵させる。

カルヴァドス用に6ヵ月発酵させたものを、蒸留機にかけてからオーク樽に入れて、熟成させる。(2~5年、古いものはさらに20年以上)

ちなみに、この地方にはノルマンディー固有品種のりんごが約40種類ほどあるそう。

見学の最後は、ここで造られているジュースからカルヴァドスまですべてを試飲。BioでAOCマーク(産地、品種、熟成法などの基準をクリアした原産地呼称)のお墨付きの製品は、それぞれのキャラクターの違いが良く分かって、本当に面白い。ゲスト一同ゴキゲンに。特に気に入ったのは、3年熟成させたというシードルで、これは、いままで味わったことのない衝撃のおいしさ!口に含んだ途端にカッと目が見開いてしまいました。

そして、アペロ用にポモー(シードルにカルバドスを混ぜたもの)も。これは、マルシェで買ったチーズに合いそう。アルザスワインがフォアグラに合うように、同じ地方で造られた産物同士がぴったりくるのは、Terroir(テロワール)、この土地の持つ独特の風土のせいでしょうか。

古くは中世からこの地で造られてきたシードルは、主に自家用として飲まれてきたものを、戦後、この館の主であった祖父のイヴォンさんが本格的に製造を始めて、息子のフランソワさんが受け継ぎ、いま、孫であるステファンとルシール夫妻で3代目。

家族が培って守ってきたサヴォワールフェール、郷土のエスプリや知識が、若い世代にも伝えられて、こんなにも私たちを愉しませてくれる。

この日は、たくさんの学びがあり、シードルやカルヴァドスの魅力に開眼。偶然の出会い、ほんの気まぐれで寄り道をした数時間の出来事で、とても豊かな気持ちになれました。やっぱり旅はいいもの。

今日は、そこで購入した3年物のシードル、レゼルブを使った簡単なデザートをご紹介します。

■シードルのグラニテGranité au cidre

<材料(4人分)>シードル1カップリンゴジュース1カップリンゴ1/2個ミント少々<作り方>1. バットか平たいタッパーに材料を入れて凍らせる。蓋を開けて、フォークを表面に当てて手前に引き寄せながら混ぜる。うつわに盛ってミントやリンゴの薄切りをのせる。

一口ほお張ると爽やかでリフレッシュ!食べながら、味の変化をつけたければ、レモンやライムを搾ってみる、甘さが欲しければ、はちみつを加えてみる。ちょっと贅沢だけど、ポモーを使うと、さらに大人の味になっておいしそう。

まだまだ残暑が続く頃、涼みながら思い思いに楽しんでみてください。

Manoir de Grandouet14340 Grandouet    www.manoir-de-grandouet.fr

Sachiyo Harada/料理クリエイター長い間モードの仕事に携わった後、2003年に渡仏。料理学校でフランス料理のCAP(職業適性国家資格)を取得。 パリで日本料理教室やデモンストレーション、東京でフランス料理教室を開催。フランスの料理専門誌や料理本で、レシピ&スタイリングを担当。16年春、ベジタリアン向けの料理本『LA CUISINE VEGETARIENNE』をフランス全土と海外県、ベルギー、スイス、イギリスなどのヨーロッパ各地で発売。この連載をまとめた『パリのマルシェを歩く』(CCCメディアハウス刊)が発売中。近著に『LE B.A.-BA DE LA CUISINE “Ramen”』(Edition Marabout Hachette社 刊)がある。Instagram : @haradasachiyo

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