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「1週間後の目標」は「目標がない」よりも悪い…勉強を習慣にできる人はどこに目標を置くか

  • 2022.9.4
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一生懸命暗記しても、すぐに忘れてしまう人は何がいけないのか。記憶のプラットフォーム 「Monoxer」を研究開発する畔柳圭佑さんは「記憶を定着させるには定期的なメンテナンスが必要です。それを習慣にするためには短期目標を定めることが大切」という――。

※本稿は、畔柳圭佑『記憶はスキル』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を加筆再編集したものです。

目覚まし時計とカレンダー
※写真はイメージです
「忘れない」ためにはメンテナンスの習慣が必要

記憶する必要性や重要性は感じていても、試験のような明確なゴール設定がないと「いつ役に立つかわからない」と感じてしまい、記憶のメンテナンスをし続けることへのモチベーションが湧かなくなってしまいます。

特に社会人になって仕事をしていると、短期的に重要性が高いことや締切が決まっているもの、すぐに役に立つと思うことに優先的に時間を取られてしまいます。しかも、頑張って記憶したとしても忘却は避けられるものではありません。

それゆえ、高いモチベーションを保ち、記憶のメンテナンスを継続することが、大人になるほど大変になります。

そこで重要なのが、記憶を習慣化することです。

定期的に記憶のメンテナンスをすることが、忘れてしまうことを防ぐ最も効果的な手段です。また、分散効果を利用することで記憶が定着しやすくなることからも、学習はやる気が出たときに集中して進めるのではなく、毎日少しずつ積み重ねることが近道といえます。

新しい習慣に取り組むのは大変なことですが、いったん習慣にしてしまえば、そのあとは自然と継続できるようになります。つまり、ここが努力のしどころなのです。

では、どのように記憶を習慣にしていけばよいのでしょうか。

(1)意志の力は最初だけ

新しくなにかを習慣にしたいときは、自由意志に頼らないことが大切です。

一般的に、なにかを継続するためには高い目標を設定して、そこに向かって強い意志を持って取り組んでいくことが大事だと考える人が多いのではないでしょうか。そのような人は、「自由意志に頼らないことが重要」と言われると驚くことでしょう。

ベンジャミン・リベットという生理学者がおこなった自由意志に関する有名な実験があります。

【エビデンス】
被検者は自由なタイミングで指を曲げると同時に、時計を見てその時刻を報告します。そのタイミングと、電位センサーによって記録された脳の活動のタイミングとを比較するという実験です。

一般的に、指を曲げようという意志があり、その結果脳から「指を曲げる」という司令が出て、指が曲がる。つまり意志決定が先にあり、そのあと脳の電位の変化があり、指が曲がるという順番で起こると予想されます。

しかし、実際には脳の電位の変化は、指を曲げるという意志決定よりも、0.4秒ほど前に脳が「指を曲げる」という指示を出していることを示していました。

さまざまな追試で、同様の現象が起こることが確認されています。

ジョブズが同じ服を着続けた理由

日々の生活のなかで、意志とは関係なく勝手に手が動くと感じることはないので、こうした実験結果に驚く人が多いでしょう。

この結果は自由意志が存在していないことを示しているわけではありません。ほかの実験からも、「動かす」と決めたあとに、意志によって「やっぱりやめた」と取りやめることもできるとわかっています。

それに、指を曲げることと人生の目標を考えることでは、もちろん異なる部分も多くあります。経験としてもエピソードとしても、意志を強く持つことによってなにかを成し遂げられた例は多数あります。

しかし、その後の多くの研究から、人間はさまざまな活動を無意識のうちに決定し、自由意志がそれを追認して、その結果「自分で決めた」と思い込んでいることがわかってきています。指を曲げるという簡単な動作に限らず、日々のさまざまな活動で、無意識下で脳の決定に大きく影響されていることは変わりません。

また、自由意志によってなにかを決断することが、とても負荷の大きな活動であることも一般に知られるようになりました。スティーブ・ジョブズが同じ服を何着も揃え、服の選択に意志決定のリソースを使わないようにしていたエピソードはとても有名です。

Tシャツとデニム
※写真はイメージです

人間が毎日、自由意志にもとづいてできることには限りがあります。目標達成するのに長い期間が必要なときに、意志の力で目標達成のための活動を継続しようとしてもなかなかうまくいきません。

「自分は意志が強いから大丈夫」と思う人もいるかもしれませんが、自由意志という限りある貴重なリソースは、より創造的なことに使ったほうがよいのです。

「意志の力」で継続するのは“非効率”

さらに、意識することでうまくいかなくなることもあります。

たとえば、舌の動きを意識するとうまく話せなくなったり、呼吸に意識を向けると逆に息苦しく感じてしまったりします。また、心理的な影響としても、やってはいけないと禁止されたことは余計にやりたくなったり、「秘密だよ」と言われると人に教えたくなったりすることもあるでしょう。

目標に関連するところでは、締切が近づいてくることでやる気が出るという面がありつつ、一方で机や部屋の整理をはじめるなど、なにか別のことをやりたくなってしまうこともよくあります。自然な思考や感情を抑え込むといろいろな悪影響があるとも報告されています。

意志の力でなにかを継続したり、モチベーションを保ったりすることは不可能ではありませんが、効率的ではありません。特にそれが長期間にわたるものであればなおさらです。

これまでなにかを継続できなかったとしたら、それは意志の力に頼りすぎていたからかもしれません。あなたの意志が弱いからではなく、脳の性質を上手に活用できていなかったからなのです。

(2)無意識下の判断を活用する

では実際、どのようにして記憶のメンテナンスを継続すればよいのでしょうか。

まず、無意識下の判断を活用することです。

先ほどの例のように、人間は無意識にいろいろなことを決定していますが、無意識だからといってそれがコントロールできないわけではありません。なにもないところから脳が勝手に決定を下しているとか、別の世界があってそこから命令をうけているといったことはないのです。

人はこれまでに身につけてきたことや習慣化されていること、記憶してきたことにもとづいて自動で判断を下しているだけです。こうした性質を利用することで、意志によって無意識の判断をコントロールできます。

ふだん意識することのない記憶として、「プライミング効果」があります。プライミング効果とは、先に受けた刺激があとに続く刺激の処理に影響することを言います。

「りんご」を思い浮かべるように言われてりんごを思い浮かべているときに、「次に紫のものを思い浮かべてください」と指示されると、ついブドウを思い浮かべてしまいます。

プライミング効果は、無意識下の判断を活用して物事に取り組むときにも、活用できます。プライミングという先行刺激が後続刺激の処理に影響を及ぼすという作用を、モチベーションの維持にも利用しようというわけです。

トイレに目標を貼るのも実は効果的

ひとつ実験を紹介します。

【エビデンス】
ある実験では、なにか課題をおこなうときに、「到達」「成功」「課題をクリアできる」といったポジティブな単語に触れることで、そのあとにおこなう課題でも集中力が持続したり、生産性が向上したりする結果が得られました。

また別の実験では、テスト10日前にポジティブな単語に触れることによって自発的に学習をする人が増えたり、自発的に学習する時間が増えたりしたこともわかっています。

このように、「ポジティブな単語に触れたかどうか」というとても小さなちがいで、そのあとにおこなう活動に対するモチベーションを知らないうちに向上させられたのです。

プライミング効果の持続時間については諸説あり、数十分程度から数日、数年間とかなり幅があります。

生活のなかでプライミングの要素を取り入れていくには、自分がやりたいこと、達成したいことを1日に数回、目にすることが効果的です。具体的にはトイレや玄関、机などに目標書いた紙を貼ったり、スマホのホーム画面上に継続して使う学習アプリをおいたり、さらにはフォルダの名前を工夫して、そこに目標を書いておくのもよいでしょう。

プライミング効果が得られる先行刺激について、文字数などを明確に示した実験はありませんが、本人にとって自然に受け入れられることが重要です。「到達」「成功」といった簡潔な言葉や、TOEICや英検であれば、TOEICという言葉や目標点数が自然と目に入るようにするとよいでしょう。

必ずしも1語である必要はありません。すぐに認識でき、「ポジティブなものだ」と自然に捉えられることが重要です。

(3)条件づけの活用 テレビやゲームも使いよう

習慣化を助けてくれるのが、「条件づけ」です。プライミング効果と同じく記憶の種類として紹介したものですが、こちらもモチベーション維持に活用できます。

これにも有効性を示してくれる実験結果があります。

【エビデンス】
テレビやゲームといった遊びや誘惑に関する単語をプライミングされると、基本的には課題に対する生産性が落ちます。「到達」や「成功」とは逆に作用するプライミングの効果です。

ただし、テレビやゲームに「到達」や「成功」といった条件づけをして記憶させると、逆にモチベーションを高く保ったまま課題に取り組めました。

被検者には、テレビやゲームなどの誘惑に負けずに勉強できたケースを思い出し、その様子を強く思い描いてもらいました。これによって、テレビやゲームという単語が生産性を上げる要因になったのです。

これは、とても興味深く、また私たちの生活でも活用しやすい方法です。

日々の生活のなかで、学習したい、将来のために時間を使いたいと思っているのに、ほんの30分のつもりでテレビや動画を見始めて、気づけば寝る時間……なんてこともあるのではないでしょうか。

時間の浪費と感じたり、やめたいと思っていたりするのについやってしまっている活動を一度断ち切って学習する。ここが私たちの意志の使いどころです。

誘惑を断ち切ったという経験を何度も思い起こすことで、条件づけを強化していくのです。これにより、思わずテレビや動画を見そうになっても、時間の浪費と思っていたことをやめて学習を始められた経験が思い出されて、学習に向かうことができます。

(4)報酬を活用する

習慣化をするうえで、報酬も活用できます。

誰もが報酬によってやる気を出した経験があるでしょうし、これまでの経験から、どのような報酬が自分に合っているかもなんとなくわかっているかもしれません。その経験を活かして、自分が今一番欲しいものややりたいことを報酬として設定します。

たとえば、1週間の目標が達成できたらケーキを食べるなど、報酬の種類はなんでもかまいません。そのために頑張る気が起きること、それが重要です。

ただし、報酬を活用するときに注意すべきことがあります。

「アンダーマイニング効果」というもので、すでに習慣化されているものや動機づけされているものに対して報酬を与えると、報酬なしにはやる気が出なくなってしまうのです。

報酬を与える以外にも監視をしたり締切をつくったりしても同じようにモチベーションが下がるので、注意しましょう。報酬を活用するのは、新しく習慣化するときだけです。

(5)短期目標を設定する

長期にわたる目標を設定すると、どうしても継続した強い意志の力がモチベーションを維持するために必要になります。また、翌週にひかえたプレゼンの準備といった優先度の高い短期的な課題に直面したときに、目の前の課題のほうが優先されてしまいがちです。

長期的な目標だけで、モチベーションを維持することは難しいのです。

一方で、短期的な目標を設定し、それを達成することは、なにかを習慣化するときに大きな効果があります。

面白い実験があるので、紹介しましょう。

【エビデンス】
算数が苦手な小学生を対象とした実験です。1週間の学習をおこなうとき、1日ごとの目標を与えられたグループ、1週間後の目標を与えられたグループ、目標はなにも与えられなかったグループに分けて、1週間の行動を観察しました。

その結果、学習をする前は5%程度だった正答率が、1日ごとの目標を設定されたグループでは80%にまで伸びました。加えて、自ら勉強したいというモチベーションもとても高い数値をマークしました。

一方で、1週間後の目標が設定されたグループは、なんと目標がないグループよりも正答率と興味がともに劣る結果となりました。算数が苦手なグループでの実験なので、長期的な目標がマイナスに働いてしまったのです。

目標はできるだけ「短期」に

この実験結果から、遠い目標や実感のない目標など、自分の行動に結びつかないような目標では、目標を立てる意味がないことがわかります。

目標を立てるときには、「自分は絶対にやってやるんだ」と思っていたとしても、習慣化するうえでは、目標を細分化して、「今日はこれ、明日はこれ」と短期的に達成できる目標を立てていくことがとても重要なのです。

記憶を習慣化するときでも、はじめは時間、頻度ともに少なくてよいので、まずは目標を設定し、達成することが大事です。

週に3回、寝る前に5分だけ時間をつくって記憶をすることからはじめて、それが達成できたら週3回から5回に頻度を増やしていったり、昼休みにも5分、朝起きたときにも5分というように増やしていったりと、だんだん達成できることを増やしていきます。

短期目標を達成していくことでモチベーションが自然と形成されやすくなることが、実験結果からも示されています。

(6)フロー状態に入るコツ

フローと呼ばれる精神の状態があります。時が経つのを忘れてしまうほど物事に集中したり、逆に短い時間だったけれど実感としてはすごく長く感じたり、集中した状態をいいます。

また、スポーツでも「ゾーンに入る」という言い方で表現され、自分の実力を余すことなく出して、なにもかもがうまくいくような状態として知られています。

フローが起きる条件についても研究が進んでおり、次の3条件が満たされているときにフローが発生しやすいとされています。

(1)能力と課題が高いレベルで釣り合っていること (2)瞬間瞬間の目標が明確であること (3)その行動に対して即時にフィードバックがあること

畔柳圭佑『記憶はスキル』(クロスメディア・パブリッシング)
畔柳圭佑『記憶はスキル』(クロスメディア・パブリッシング)

なにかを記憶するための学習は、難易度さえ適切に設定されていれば、これらの条件を満たしやすく、フローに入りやすい活動と言えます。私たちが開発している記憶アプリ「Monoxer」の利用者からも、「はじめは嫌だったけれど、やっていると楽しくて自然にやってしまう」といったフィードバックが届くことがあります。

フローを体験しないと、「学習なんて単純作業で、楽しいはずがない」と思いがちですが、実はそうした一見単純な作業こそフローに入る条件に合っているのです。

フローに入ることで集中力が高まり、学習効果が上がります。さらに内面からのモチベーションが湧き上がり、学習や記憶することが楽しくなります。学習に対する内発的な動機づけに大きな効果が期待できるのです。

フロー状態は個人差があるので注意

一方で、フロー状態になるかどうかは個人差が大きいことも知られています。フローに入った経験がない人も一定数います。

これまでお伝えしてきたたように、記憶は長期戦なので、フローにこだわりすぎるのも考えものです。「フローを活用できたらいいな」という程度に考えておくとよいでしょう。

まずは、覚えようとしている内容の難易度が自分の能力と釣り合っているかに着目しましょう。

畔柳 圭佑(くろやなぎ・けいすけ)
モノグサ代表取締役CTO
東京大学理学部情報科学科卒業後、同大大学院情報理工学系研究科にてコンピュータ科学を専攻。修了後はグーグルに入社し、Android、Chrome OSチームに所属。その後、2016年に竹内孝太朗氏(CEO)とモノグサを共同創業。CTOとして記憶のプラットフォーム「Monoxer」の研究開発に従事。

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