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ドキュメンタリー好き・河瀬大作(TVプロデューサー)、忘れられないあのシーン。『バリケードの中のジャズ 』

  • 2022.9.2
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『バリケードの中のジャズ ~ゲバ学生対猛烈ピアニスト~』イメージイラスト

山下洋輔への仕事依頼の電話を妻が断っている向こうで山下はソファでゴロゴロ……

「ドキュメンタリーは事実を映す」と言う人がいますが、この作品はそもそも壮大な“やらせ”です。
山下に忠告する医者も、中核派がピアノを盗み対立するセクトに運び込むのも、山下が早稲田に乗り込んで開くコンサートも、すべて田原総一朗が仕掛けた“やらせ”。でもすべて“やらせ”だからといって“何も映っていない”わけでは、ない。

僕が好きなのは、歌謡ショーの特番の依頼の電話を、妻が謝り断る場面に挿入される、山下が“武士は食わねど高楊枝”よろしくソファで寝転ぶカット。前衛ジャズピアニストを志す山下はそれ以外の仕事は見下しているので当然断る。しかも妻に断らせる。

当然この電話は仕込みで、妻の対応、寝転ぶ山下もすべて田原の周到な演出です。とはいえ、やらされているにもかかわらず、なぜかそこには山下の孤独が滲み出ている。カメラに追い込まれた山下は、少しずつ自分でも気づかなかった感情を溢れさせる。

それが積み重なっていった結果、彼は伝説となる即興演奏に辿り着くことができた。この、積み重ねた虚構の中から圧倒的な真実を浮かび上がらせる田原の手法は、今のバラエティに多大な影響を与えていると思います。

『バリケードの中のジャズ ~ゲバ学生対猛烈ピアニスト~』イメージイラスト

Information

『バリケードの中のジャズ ~ゲバ学生対猛烈ピアニスト~』DVD

『バリケードの中のジャズ 〜ゲバ学生対猛烈ピアニスト〜』

ジャーナリスト田原総一朗がテレビ東京社員時代に制作した作品。1969年、全共闘の学生から「エセ文化人」と挑発された、前衛ジャズピアニストの山下洋輔。そんな彼が早稲田大学に乗り込み、一触即発の雰囲気の中で行ったライブの記録。2011年に発売されたDVD『田原総一朗の遺言 〜タブーに挑んだ50年!未来への対話〜』に再編集版が収録。レンタルなどで利用可。©2011 BSジャパン/テレビ東京

profile

河瀬大作(TVプロデューサー)

かわせ・だいさく/NHKエンタープライズ。『有吉のお金発見 突撃!カネオくん』『ズームバック×オチアイ』などを担当。

twitter:@kawabou

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