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家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.62書き留めなくても覚えていること

  • 2022.9.2

クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。27歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回はvol.61マンモスに会ったことある?

vol.62書き留めなくても覚えていること

駅のB2出口、階段下。耳にはめていたイヤホンを外し充電ケースに戻すとステータスランプがオレンジ色に光った。同じ電車に乗っていたみたいだったけど、待ち合わせ場所には私の方が先に着いたみたいだった。上着のポケットからスマホを出し、連絡を入れようとすると鮮やかな色のスカートを揺らしながら歩いてくる女性が見えて「そうだ、彼女って探す必要がないんだった」と心の中で呟きながら笑顔で手を振った。

冬生まれの私の誕生日をお祝いしてくれたのが最後で。年が変わり、そこからリスケを繰り返し、気づけば夏生まれの彼女に誕生日おめでとうのLINEを入れていた先月。流石にそろそろ会いたいね…とやっと予定が合い彼女と久しぶりに会えた8月の昼下がり。私の日傘に2人で入ってお店に向かいながら、もう止まらないお喋り。

本当に会いたいと思っていて、その人が好きで、その人といる自分も好きだったら、時間って怖くないんだなと思った。このタイミングを逃したらもう会えない気がする、とか、定期的に会ってないと振り出しに戻っちゃいそう、って繋げている関係はそろそろ淘汰されてくる年齢なのかもしれない。

やるべき事がある時は思い切り自分の仕事や生活に集中したい。最後に会った日から少なくない月日が流れていて、季節も変わってしまっている。私は私の場所で日々を生きてる。頑張ってるのになんか上手く行かなかったり、ベッドに入って暫く天井を見つめてたり、頬張ったチョコレートに泣けてきたり。だけどちゃんと、たこ焼きにタコが2つ入ってたり、信号に1度も引っかからずに事務所に行けたり、好きな人から向日葵を貰えたりする日もあって。彼女も泣いたり笑ったり私が知らない日々をきっと生きてる。

以前は、私が好きな人たちが私の知らないところで傷付いたりして、それに気づけなかったらって考えると胸がグッと痛くてうずくまった。自分の人生を全部見ているのも、自分しかいないんだなぁって事が途方もなくて、人間は結局1人で生きていくんだって事に色が無かった。だけど今は、それが良いってのんびり思える。

普通の、何でもない、毎日を生きて、それでも掻き消されなかった、忘れることがどうしてもできなかった希望とか悲しかったことだけで良い、知ってもらうのは。全部、じゃなくて良い。それを聞いて欲しいって思える人がいて、私に聞いて欲しいって思ってくれている人がいる事が幸せだと思った。

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