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日本最古の洋式音楽ホール「旧東京音楽学校奏楽堂」:東京ケンチク物語 vol.30

  • 2022.8.24

日本最古の洋式音楽ホールへ。多くの音楽家を送り出した音楽堂で時間を忘れましょう。

旧東京音楽学校奏楽堂
SOGAKUDO OF THE FORMER TOKYO MUSIC SCHOOL

春の桜、夏の蓮、秋の紅葉に冬枯れの景色。四季ごとの美しさにくわえ、上野動物園にはパンダもいるし、不忍池ではスワンボートも漕げる。上野公園は楽しみの多い、よく知られた公園だけど、建築の名所としての顔もある。明治時代初頭に日本で初めて指定された公園のひとつでもあるここは、敷地内に近現代の名建築が勢ぞろいなのだ。ル・コルビュジエによる「国立西洋美術館」、前川國男の「東京文化会館」や「東京都美術館」、安藤忠雄の「国際子ども図書館」……。今回の目的地「旧東京音楽学校奏楽堂」もそのひとつ。名前の通りに東京音楽学校(東京藝術大学音楽学部の前身)の校舎として1 8 9 0年に完成した建築を、1987年に現在の場所へ移築・復原したものだ。

板貼りの壁に瓦屋根をのせた木造2階建ての建物は、三角屋根の端っこや柱などに西洋風の装飾を施した、典型的な和洋折衷スタイル。中央のエントランスを入って2階へ上がると出合う音楽ホールがメインの空間だ。ステージに向かって傾斜していく客席の数は、復原後の現在で300あまり。縦長の窓が並ぶ漆喰の壁に、かまぼこ型のアーチにくりぬかれた天井。防音や音響効果のために、密閉型で特殊な吸音素材を使ったりする現在の音楽ホールと比べると、ずいぶんと簡素で開けたつくりだが、裏を返せばそれこそ、ここが日本で最初の音楽ホールである証だ。アーチ型の天井は音のエコーを防ぐためのものだし、ホールの四隅が丸くカーブしているのも音響のため。さらに見えないところながら、壁の中には防音のために藁束がぎっしりと詰め込まれているそう。設計は多くの学校建築を手がけた山口半六と久留正道、音響設計は上原六四郎。西洋音楽がまだ珍しかった時代のこと、その音を奏でるための空間をつくるのだって初めてだ。彼らがそんな〝初めての建築〟に込めた創意や工夫が胸を打つ。校舎として90年ほど使われ続けた後に移築・復原を経て以降も、ホールとして使われ続けているのは、建築にとっても幸福なこと。ステージに鎮座する大きな大きなパイプオルガンは、100歳を超えてなお現役! その音色のように、ここで生まれた音楽や建築文化も、優しく堂々と遠くまで響き続ける。

GINZA2021年12月号掲載

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