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「YouTubeは一切見せない」3人ワンオペ育児の脳科学者が子育てで死守する4つのこと

  • 2022.8.9
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世の中には子育て情報があふれている。賢く幸せな子に育てるために親にできることは何か。東北大学准教授で3人の子を育てる細田千尋さんは「多くの情報の中で、個人の経験による意見とエビデンスに基づいた方法とを見定めることが重要です」という――。

机の上に積まれた本
※写真はイメージです
ある一人の母親の子育て成功談にどれほどの意味があるのか

インタビューや講演の時に、よく聞かれるのが「どんな子育てをしていますか?」という質問です。世の中には、○○歳までの子育てなど、子育てバイブルとされるベストセラーが数多ありますし、「子どもを賢く育てること」は、多くの人の関心事なのだと思います。

私は科学者の端くれなので、子どもたちを“成功”に導いた、とある1人の母親の“子育ての方法”を参考にすべきとは思いません。なぜならそれは「個人の経験に基づく意見」であり、その方法が本当に意味を持っているかは、科学的に全く不明だからです。

ところが、このような説明をすると、「科学的、とかどうでもいいんです。自分の子どもができるようになるかどうかが大事で、研究でどうこうより、実際に子どもを成功に導いた人の話は参考になります!」ということをよく言われます。

「伝説の教師」の話も同じ

実は、ここに大きな誤解があります。科学的に妥当性がないということは、「その方法が効果(子どもの成績を上げるなど)がある良い教育法であるか不明」ということです。つまり、その人がやった方法を熱心に読んで学んで、仮にそこに書いてある通りにやったからといって、子どもが同じように成功するとは限らない、ということです。これは、個人の母親の子育て成功談だけではなく、○万人を成功に導いた伝説の教師やカウンセラーのような人が述べていることであっても、それが「個人の意見」としての域を出ていないものであれば、全く同様です。

そもそも、料理のレシピ本のように、その通りにやればみんな同じようなものが出来上がるというような子育てはないですし、有名な人の元や場所には、能力や経済力など条件のそろった人が集まるので、その効果の要因がどこにあるのかわかりません。

科学的根拠に基づいた教育の本

最近では、科学的根拠に基づく(エビデンスベースド)教育方法について書かれた書籍がたくさんあります。これらでは、研究によってその妥当性が示された子育て方法が紹介されます。

例えば、経済学者は、学力を向上させる費用対効果の高い方法などを示しています(例:タブレット学習と紙ベースの学習で学習効果は変わらない=高価なタブレットより従来の学習で十分など)。

心理学や脳科学は、子どもの年齢に応じて必要な発達が何か、いわゆる“非認知能力”を伸ばしていくことの重要性、子どもの心身の健全な発達に必要な親の養育態度のあり方などを示唆します。

これらエビデンスベースのもので、とくにその再現性が高く見いだされているものは、多くの人の教育にさまざまな形で効果をもたらす可能性が高いです。

ゴム製のアヒルの親子のおもちゃで遊ぶ子供
※写真はイメージです
絵本の読み聞かせより日常会話が大事

お気づきかもしれませんが、子どもを成功に導いた母親によるバイブルは、子ども成功の定義が、受験戦争に勝ち抜いた経験という大変狭義なものです。これらのバイブルが全く意味を持たないものとは思いません。ただ、例えば、東大生は子どもの頃、水泳/ピアノを習っていた、絵本を○○○○冊読み聞かせてもらっていた、というようなことが記されているものをよく目にしますが、これは、子どもの頃それらを習っていたことが、東大に入れた要因になっていると示されているわけでもなければ、絵本を多量に読み聞かせたから子どもの語彙ごいをはじめ、情緒や知識が豊富になったわけでもないでしょう。

科学的には、単純な絵本の読み聞かせではなく、乳幼児期では、親の日常的な話しかけの語彙量や情動の伝え方が、それらを向上させることが示されています。

幼児期に適した接し方

子育てにおいて大事なことは、「何のためにそれをさせるのか」の筋道が親の頭の中にあることではないかと思います。そうすることで、親の態度や考え方が、回りからの情報によって振り回され、子どもに影響することがなくなります。

例えば、私自身は、自分の子どもたちには、あらゆる環境の中で、自分がどう進んでいくべきか、探究心と自律性を持って道を切り開いていける人生を歩んでほしいと思っています。そのため、近年白熱する幼児教育への“過剰”な投資は重要だとは思っていません。

おもちゃを使っておままごとをする子供とそれに寄り添う母親
※写真はイメージです

幼児期には、効率よく多量の問題を解く訓練や、問いに対する模範的な回答をする訓練をするよりも、親が子どもに対して常に応答的な関わりを持ちながら、柔軟に統制を行う(権威的養育態度)ことの方が、子どもの向社会性や自主性を育むのに重要、というエビデンスに基づいた考えを持つためです。さらに言えば、子どもの心理や行動を厳しく統制し、従わせようとする養育(権威主義的養育態度)の下では、一見「いい子」とみえることも多くありますが、子どもの自律性や自己制御力が育たないこともわかっているためです。

小学校高学年の学習量は重要

一方、中学に向けた小学校時代の教育のあり方や、とくに小学校高学年以降に多くの学習時間を持つことは、10代前半まで続く脳の前頭葉の発達ダイナミクスが認知機能や非認知能力に関わっているという点からも非常に重要であると考えています。

ただし、もし、「将来社会的に成功して高い収入を得るために、偏差値の高い良い大学に行ってほしい。そのためには、良い中高に行ってほしい」というような考えで、熱心な教育を行っている場合には、以下のようなエビデンスがあることも知ってもらいたいと思います。

「レベルの高い大学に行っている人とそうでない人(大卒)での収入に差はない」

これは、海外からだけでなく、日本の研究からも示されています(※)。

※一般的によく知られている「学歴と収入には関係がある」といいう説は、最終学歴を、大学院卒、大卒、高卒、中卒、という枠組みで評価して比較しており、大学レベル(偏差値)は考慮されていない。つまり、大学卒とそれ以外の比較による結果が示されています

ながら学習で子どもを鍛えた

いろいろ記載してきましたが、私自身研究者として勤務の傍ら、3人の子どもをワンオペで育てており、教育における理想(研究)と現実(ワンオペ子育て)にはギャップがあることも日々痛感しています。ただし、いつも「今何が重要か?」を常に考えるように意識しています。例えば、乳幼児期では、上述したように親の「権威的養育態度」が重要であるという考えから「英才教育を与える環境」に高額を投資することよりも、日々、自分がどのように子どもと接し、何を伝えるかの方を重視していました。とくに子どもが未就学児の時に意識していたのは以下4つです。

①絵本は暗唱するまで繰り返し読む

絵本と本は多くの種類のものを常においておき、好きな本から自然と暗唱するまで繰り返し読む

②YouTubeは一切見せない
スマホから目が離せない幼児
※写真はイメージです
③数、文字、四則計算を意識して接する

座学は一切行わず、日常の中で、日本語英語両方で、色形に始まり(0歳〜)、数を数える(1歳〜)文字の読み書き(3歳〜)、足し算引き算(4歳〜)、掛け算割り算(5歳〜)を常に意識して子どもと接する

④一緒に調べる

日常の中で見られる「不思議」をいつも問いかけ、一緒に調べる。子どもからの問いかけなどには、なるべく応答的に対応するようにする。

絵本については、読み聞かせた冊数にこだわるお母さんをよく見かけますが、もちろん冊数も意味を持ってくるとは思いますが、それ自体よりも同じ本を繰り返し読むことはかなり重要だと思っています。なぜならこれは、文字を覚えるのにダイレクトにつながります。何回も読んだ本は子どもの記憶力ではあっという間に暗唱できるようになります。そうすると自然と文字をそこから覚えることにもつながりますし、それこそ情景描写の理解や語彙力向上にもつながります。

このような絵本タイムを増やすわが家での最大の要因は、YouTubeやゲームなどの電子媒体を子どもに与えない、ということだったと思います。必然的に、子どもにとっての「娯楽」の選択肢が減るので、自ら絵本を読むことになりました。そしてその習慣は、年齢が上がると読書の習慣につながりました。

未就学児のうちは座学をさせなかった

またわが家では、未就学児のうちに、簡単な漢字も含めた文字の読み書きのほか、足し算、引き算、九九、簡単な割り算の概念もできていましたが、これらのインプットを座学でやらせた時間は1分たりともなく、上述の絵本のほか、3兄弟でのおやつの数や、送り迎えで見かける車のナンバープレートの利用など、本当に日常の生活の中で、送りむかえや散歩をしながら、私が手書きでメモをしている時に横でまねさせながらなど、ながら作業として、軽く、かつ、繰り返し行っていました。

一方で、机に座って何かに取り組む、という習慣づけが必要とは考えていましたので、アウトプットの時間で机に座り集中する時間をつくりました。具体的には、覚えた文字で、遠方に住む祖父母へ手紙を書く習慣を付けるとか、すでに理解している計算などについて、ゲームのような形式で書かせるようなことをしていました。

未就学児が座学をする目的

未就学児が座学をする目的はなんでしょうか。私自身は、「机に向かって、正しい姿勢で集中して何かをする習慣を付け始めること」だと考えていました。何か知識を得るためのものだとは考えていなかったのです。

効率的にこの習慣を付けるには、「知識のインプット」を、ただひたすら「やるべきことなのだ」という意識のもとで習慣づけようとするよりも(本当に子どもがそれを楽しんでいるのであればいいですが)、日常的にインプットを行って、“わかったこと・できるようになったことの”アウトプットの時間として机に座る習慣を付けることのほうが、親子ともに気持ちのゆとりが生まれますし、子どもにとっては、自己肯定感や先々の勉強に対する主体性にプラスに影響すると考えます。

子どもの教育にとって何が大事か、どんな教育をしていけばいいのかは、非常に難しい問題です。ただ、正しい情報(エビデンスベースの教育法)が何かを常に意識しながら、有象無象の教育市場に振り回されることなく、また、他の親子と比較することなく、親と子ども両方が心身ともに健康でいられるような、“わが家にとっての適切な教育環境”を見つけることなのだと思います。

参考文献
・Naja Ferjan Ramírez, Sarah Roseberry Lytle, and Patricia K. Kuhl, Parent coaching increases conversational turns and advances infant language development,PNAS, 117 (7) 3484-3491;(2020)
・L. Fenson et al., Variability in early communicative development. Monogr. Soc. Res. Child Dev. 59, 1–173, discussion 174–185 (1994).
・Dale, S. B. & Krueger, A. B. (2002). Estimating the payoff to attending a more selective college: an application of selection on observables and unobservables. The Quarterly Journal of Economics, 117(4), 1491-1527.
・Makiko Nakamuro & Tomohiko Inui (2013). The Returns to College Quality in Japan: Does Your College Choice Affect Your Earnings?

細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学大学院情報科学研究科 加齢医学研究所認知行動脳科学研究分野准教授
内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。

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