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ドキュメンタリー好き・九龍ジョー、忘れられないあのシーン。『ゆきゆきて、神軍』

  • 2022.8.3
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『ゆきゆきて、神軍』イメージイラスト

主人公である奥崎謙三がミカンを人に見立て軍隊での処刑の様子を説明するとき

“こたつでミカン”とは、なんとも日本的で穏やかな風景ですよね。だけど、そのミカンを使って説明されるのは、太平洋戦争下に日本軍の内部で起きた処刑事件の一部始終、とかなりギャップがある。さらにこの真相を知るべく当時の関係者を訪ねて回る主人公、奥崎謙三がまたエキセントリックで。

『ゆきゆきて、神軍』
©疾走プロダクション

このシーンでも、処刑された人の遺族“役”として2人を同行させたり、しかもその1人は奥崎の妻だったり。可笑しいほどの卑近さがある一方で、扱うテーマは戦争犯罪とかなり大きい。このアンバランスさこそがそのまま戦後日本のいびつさを象徴しているように思います。

時に倫理を踏み外し、極限の状態に置かれる戦争での出来事を、この関係者たちは聞かれることも話すこともなくじっと胸にしまって過ごしてきた。そうしてなんとなく平和に流れる日常に、奥崎というある種のトリックスターが亀裂を生じさせていくさまは、日本社会に対するショック療法ともいえるかも。

ちなみに原監督が制作の裏側を綴った『ドキュメント ゆきゆきて、神軍』もぜひ。撮影をコントロールしようとする奥崎との攻防や、幻となったニューギニア編の顚末など本作をより深く味わうためのエピソード満載です。

『ゆきゆきて、神軍』イメージイラスト

Information

『ゆきゆきて、神軍』

過激な手段で戦争責任を追及し続けたアナーキスト、奥崎謙三を追った作品。自身も所属した独立工兵第36連隊で、終戦から23日後に処刑された2人の兵士がいることを知った奥崎は遺族とともに真相究明に乗り出す。BD/DVD『ゆきゆきて、神軍 デジタルリマスター版』が21年12月3日に発売。特別限定版『大神軍BOX』(10,780円)には特典として奥崎の自著が付く。監督:原一男。U-NEXTで配信中。

profile

九龍ジョー(編集者、ライター)

くーろん・じょー/著書に『伝統芸能の革命児たち』など。『神田伯山ティービィー』はじめYouTubeチャンネルの監修も手がける。

twitter:@wannyan

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