ドイツ中世祭りで うさぎを狙え！ 弓矢に斧にメリーゴーランド？ 夢中になる昔遊びをレポート【教えて！世界の子育て～ドイツ～】

海外ではどんな子育てをしているの？ 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて！ 世界の子育て」。 ドイツで子育てをする中原さんが子どもたちと楽しんだのは、伝統的な中世のお祭り。 今回はドイツの昔遊びが登場します！

中世祭りでうさぎを狙え！ ミッテルアルター・フェストMittelalterfest（中世祭り）の遊び

さて大人がもぐもぐしているそばで子どもたちはあちらへこちらへと遊ぶのに大忙しです。 中世祭りの日には昔の暮らしに直結した素朴な遊びに接することができます。これに誰もが目の色を変えて夢中になる。魔法の掛かった1日の、特別なお楽しみです。

教えてくれるのはなんとエルフです！ ぎゃー！ 耳が尖ってる！ テンション上がる！ 弓矢といえばレゴラス（『ロード・オブ・ザ・リング』の弓矢がすごいエルフ）と思っている私の頭は沸騰しそうなほど大興奮です。 エルフは優美な仕草で「あなたならコレでしょう……」と弓置きから一丁選ぶと、持ち方と矢の番（つが）え方を教えてくれます。弓を持つのも初めてな子ども達も挑戦です。よいしょよいしょと矢を番えて、弦を引いて……意を決して射った矢は、的の遥か上へぴゅーん！

エルフは優美にフフフと笑いながら「フクロウでも射るつもりですか。もっと下。下を狙うのですよ。うさぎは草むらの中なのですから」と丁寧にアドバイスをくれますが、待って。 エルフってうさぎを射るの……？ 最初はおぼつかなかった射的も回数を重ねるごとに段々飛距離が増して、ストっと的に刺さったとき、爽快感と達成感が胸に広がります。これが的でなく、獲物だったら、家族を養うものだったらと思うと、遥か昔の狩人の気持ちがほんの少しわかる気がします。

この射的の後、武器屋にスッと入った長女リンゼは自分に合う弓と手頃な矢を、自分のお小遣いで買ってきました。よほど楽しかったんだな。

本格的な剣や弓矢や斧……一体誰が買うんだろう？ そんな風に思っていた時もあった。

戦士のお姉さんが教えてくれる斧（おの）投げに行きましょう。しっかり重みのある鉄の斧を肩の上に振りかぶり、上半身を捻るのと同時に腕を連動させて手首のスナップを利かせながら投げ、うまくいくと木の板にズバン！ ズバン！ と刺さる。なるほど、これにはタイミング、獲物との距離、斧を投げるスナップとスピードの見極めとコントロールを練習しないといけないな、そして手に馴染む斧を手に入れることが重要であるな、と真剣に考え始めてハッと気づく。ここで培った技術は現代の人生の、いったいどこで活きるのか。

こんな遊びは中世祭りでしかできない。

体全体を使って引く弓と違って、トリガーを引くだけのボーガンなら年齢を問わずに扱えます。そこで飛んでいくのが矢じゃなくてコルクの弾なら子どもも安心。 ぽこん、ぽこんと可愛らしい音をさせながらお城の模型の上に立つ敵を撃ち、あまりにも的に当たらなくてしょんぼりしてきた子には担当のおじちゃんがなんとか当たるよう手助けしてくれます。

そこで「おかあさん、あれ乗りたい！」と言うがいなや駆け出す子どもたちが向かう先はメリーゴーランド。

中世祭りなのにメリーゴーランドなんて合わないのでは？ と思われるかもしれません。しかしそこは中世祭り、斜め下の異世界クオリティ。 みるからに力の強そうなおじさんだったり、少年だったりが、中世風の話し方で歌や物語を朗々と歌いながら走ったり、レバーをぐるぐると回したり木の杭を押しながら歩く、体力勝負な不気味メルヘン人力メリーゴーランドなのです。

夢に出たらうなされそうな奇妙なメリーゴーランドの世界に子どもたちはすっかり入り込んで、きゃっきゃと大興奮なので楽しいらしい。 聞けば演劇クラブの学生や普段劇場で演劇をしているプロなのだそうです。みなさん本当に1000年前からやってきたかのよう。いやー、体力勝負すぎる。

アカペラで歌うおじさんの物悲しいメロディーに、乗って回るのは魔女の箒（ほうき）。

お花や蔦を頬や額に描き込んだり、顔全体をアナグマにしたりと子ども達に大人気なフェイスペイント。 他にもドラゴン、蝶々、オバケなど子どもたちのリクエストに丁寧に応えてくれるお姉さんたちの忍耐力がすごい。一人ずつの希望を聞いて、髪を留めて、顔のホコリをぬぐったら下地の色をつけて……と丁寧に施される子どもたちの大変身は、一人一人に時間もかかるし、お話が苦手な子はなかなか希望が言えなかったりでお店の前は長蛇の列。

そこで道化師がやってきて待っている子どもたちが退屈しないように物語を聞かせてくれます。なんてやさしいんだ。

「みてごらんよ今日は人間どもが大勢いるねえ」 「蹴散らしてやろうよ！ ケケケッ！」 などなど、意地悪な相談を大声でする意地悪な妖精たち。悪魔や魔法使い、半身が羊のパーンもいます。

幼児向け劇の時間がやってきたら早めに会場に行って良いポジションを確保！ 今年はドラゴンが守る財宝をどろぼうが盗りに行く劇でした。火を吐く巨大ドラゴンの猛攻をすんでのところで掻い潜る、どろぼうの迫真のアクションに子どもたちは息を呑む。

地響き、咆哮（ほうこう）、剣戟（けんげき）の末にどろぼうが手にした宝物はなんとひまわりの種。たくさんの生き物を支えるひまわりになる種は宝石なんかよりもよっぽど大切なんだ、だからドラゴンが守っていたんだと言いながらエルフが子ども達の手のひらにひまわりの種を一粒ずつ蒔いていく。 ドラゴンは君たちに託すというから大切に持ち帰って植えてほしい。花が咲いたらキスをするんだよ。ですって！ ドラゴンの迫力に涙目だった子どもたちはこくこく頷き、ひまわりの種を大切に持ち帰りました。

大人の足腰はもうガタガタです。先程の観劇でずっと立ちっぱなしのうえ肩の上に子どもたちを載せていたのですから。こちらの膝は年々脆くなるのに子どもはどんどん重くなる。

そんな時はホッと一息、焚き火をぐるっと囲むように敷かれた羊の毛皮の上に腰を下ろしてシュトックブロートを焼きます。 これは練った小麦粉を棒に巻きつけて熾火（おきび）で炙（あぶ）るだけの超原始的なパン。気になるお味はというと、まんま練った小麦粉味。会場中でこれが最も潔く、中世に思いを馳せることができるメニューだといえる。シュトックブロートの素晴らしいところは、『焚き火』『木の棒』『自分で世話する食べ物』という子どもが大好きな要素が3つも含まれることで、棒を握ったが最後、ブロートが焼けるまで子どもたちは火のそばに釘付けになり、時折、熾火の中で何かの拍子に炎が立ち上り生地に黒い煤（すす）がついたりするそんな様もまた良い。

じんわり火の上で炙られる棒を見つめながら靴をほっぽり脱いで足を伸ばし、リュートとバグパイプの音に耳を傾けながらボケーーっと、シュトックブロートを炙る。たったそれだけなのにこの多幸感はなんだろう。 木立の隙間からさっきのトンビが見える。ほらほら小麦の焼ける匂いがしてきた。