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「総括」をしない人事部を待ち受ける“末路”…問われるのは部長の覚悟

  • 2022.8.1
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人事部は「振り返り」をしない?
人事部は「振り返り」をしない?

当たり前のことですが、同じ失敗を繰り返さないために「振り返り」は欠かせません。同じように、成功を再現し続けるためにも、振り返って「総括」しておくことは、個人でも組織でも、とても大切です。

もちろん、総括すれば必ずうまくいくというわけではありませんし、過去の成功や失敗に縛られてしまう危険性もありますが、基本的には「過去を参照できる」のと、そうでないのとでは結果が違ってくるでしょう。優れた組織やベテランは、しっかり総括することが習慣化できていると思います。

その点で気になるのは、企業の人事部です。

「総括」を避け、遠ざかっていく人事

営業などのラインでは、仕事の成否が数字で明確になるため、「なぜこういう結果になったのか」という疑問が自然に湧いてきて、「振り返る」という行動に移りやすいのですが、人事という仕事はその結果が数字になりにくいので、振り返る動機が生まれにくい面があります。

過去に行った人事異動や昇進は、振り返って「どうだったか」とはなかなか考えません。評価・等級・給与・褒賞といった人事制度の変更、研修の実施、就業ルールの改廃、採用など、人事部が手掛ける業務は幅広いものがありますが、そのいずれもが数字ではっきりと表現されるものではなく、従って総括がなされることはほとんどありません。

また総括というのは、精神的に大変な面があります。それは、実行した責任者や担当者を批判することにつながりかねないからで、同じ会社であれば元上司や先輩がやったことを評価し、場合によっては「失敗だった」と結論づけなければならないとすれば、気が進まないのは当然かもしれません。

そして、総括が難しい(総括から逃げた)結果として利用されているのが、「モチベーション」や「組織風土」をサーベイ(調査)して数値化、可視化するような商品なのでしょう。しかしながら、こういうサーベイ商品は、総括とは全く異なるもので代替品とはなり得ません。

サーベイ商品とは、「一般的な観点や基準から見て(他の会社と比較して)、自社の現状を診てみましょう」というサービスであり、そこには総括に欠かせない「ストーリー」がありません。総括とは、単なる結果ではなく、過去において「誰が何をどう考えて、どのようなプロセスを経て実行したか」を明らかにし、その成否を現時点で評価しようとするもので、サーベイ商品から分かる現状分析はせいぜいその参考資料です。

また、過去に対する何の総括もなく、サーベイ商品が示す現状の問題点だけを見てその解決策を講じようとするなら、人事としての一貫性のなさだけでなく、過去に効果のなかった施策をまた繰り返してしまうことにもなりかねません。サーベイが好きな人事部は少なくありませんが、それはむしろ総括を避け、総括からどんどん遠ざかっているようにも見えます。

総括が“根本思想”をつくる

そのためだと思いますが、人事ほど、新しいコンセプトやワードが出ては消えを繰り返す分野はないでしょう。「評価」でいえば、360度評価(多面評価)やノーレイティング(ランク付けしない評価の仕組み)などです。研修の内容には何年かごとに“はやり廃り”があって、仕組みでも「カフェテリア制度」や「選抜型教育」などが注目されては下火になり、最近は「学び直し」や「リカレント教育」、「リスキリング」といった言葉を盛んに目にします。

他にも、「1on1ミーティング」「心理的安全性」だとか、「エンゲージメント」「リチーミング」などなど、次から次に新しいものが登場しています。人材系の会社のホームページを見ると「用語集」というページがよくありますが、それくらい人事関係の仕事をしている人でも混乱気味なのだろうと想像します。

新しい考え方や言葉に振り回されることなく、一貫性を持って自社らしい人事施策を打ち続けるには、「総括」から始めなければなりません。そして、しっかりした総括があれば、それが判断基準となって、新しい考え方やワードを適切に取捨選択し、効果的に生かしていけるようになるでしょう。そう考えると、総括とは人事施策の根本思想をつくることであり、人事担当役員や人事責任者が当たるべき重要な仕事といえます。また、昔からの経緯経過をリアルに振り返るのは、自社で長いキャリアを持っている責任者だからこそできることでもあります。

働き方の多様化や日本的雇用慣習の見直しが進む中、新しい考え方を学び、取り入れていく必要がありますが、それが流行に左右されただけに終わるのか、効果的な人事施策につながっていくのかは、人事部長の「総括する力」にかかっています。

NPO法人・老いの工学研究所 理事長 川口雅裕

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