1. トップ
  2. 恋愛
  3. ほどほど、それなり、なかなかでいい。心が軽くなる、韓国発のイラストエッセイ。

ほどほど、それなり、なかなかでいい。心が軽くなる、韓国発のイラストエッセイ。

  • 2022.7.28
  • 219 views

「自分には余裕をあげて、人には愛をあげる。」

本書『ほどほどに生きても、それなりに素敵な毎日だから。 なかなかな今日』(朝日新聞出版)は、1千万ビューの韓国発、人気WEBドラマ作家・アントイさんのイラストエッセイ。

人からほめられたい。自分で自分を認めたい。著者はこれまでの人生、そうやって完璧に近づこうとがんばってきたという。しかし、今はこう考えている。「完璧にはなれない」し、そもそも「完璧な人になる必要はない」と。

「これからは寛大になろうと思う。ちょっとだめだけど、それなりによくやってると。そしてそこそこ素敵だと。なかなかな人になって、なかなかな今日を生きて、なかなかな愛を抱き、なかなかな人生をつくってみようとする、ほろ苦い過程を描いた」

陽キャでも陰キャでもない

本書に収録された80のエッセイから、3つ紹介していこう。まずは「陰キャでも陽キャでもない"中キャ"」から。

「陰キャ」「陽キャ」という言葉ができてから、陽キャの集まりに入れなければ負け組かのような社会の雰囲気がつくられ、陽キャになるべく必死にがんばらなければならない時代になってしまったという。

「骨の髄まで内向的な私は、明らかに陰キャだ」。そんな著者も、飲み会で無駄に明るいふりをしてみたり、カラオケで陽キャが歌いそうな曲を歌ってみたりした。しかし、結局は「偽物の陽キャ」にしかなれなかった。

そこで、陽キャのふりをして影でため息をついている陰キャたちに、こう呼びかける。

「私たちに新しい呼び名をつけよう。陰キャは悲しすぎるので、そこそこ素敵な呼び名をつけてあげよう。陽キャでも陰キャでもない、なかなかなキャラ、"中(なか)キャ"と!」

「なりたい」より「やりたい」

続いて「やりたいこと、なりたいもの」。

「おばさんは大きくなったら何になるの?」「おばさんはもう大きくなっちゃった」「じゃあ何になったの?」......。

ネットでこんなやり取りを見た著者は、「私も画家になりたかった。だけど結局、給料日だけが楽しみの、一介の会社員になった」と思いつつ、ちょっと考え方を変えてみた。「何になりたいか」ではなく「何をしたいか」が夢だったら、と。

「夢があるなら、『なりたい』より『やりたい』で言ってみようと思う。なりたいという夢は運命に身を任せるようなものだけど、やりたいことはただ実践すればいい。そうすれば、夢に一歩近づけるんじゃないだろうか」

こうなったからには

最後に、「ただなりゆきで」。

著者はデザイナーを目指して大学に入った。しかし、自分は天才とは違う、センスがない、と早々にあきらめ、それからは遊びほうけた。4年生の進路相談の日、何でもいいから教授に言わなくてはと思い、なぜか「作家になります」と宣言した。

言ってしまってから1日ほど悩んで放送作家になろうと決め、友人に誘われて応募した会社に入り、与えられた仕事に最善を尽くし、そうこうしているうちに縁がつながり、今に至る。

「どれも私が計画し、設計したことではなかった。ただなりゆきで、こうなったからには。しかもちょうど悪くはないし。一瞬一瞬、ただ目の前のことに最善を尽くしていたから、自分の好きなことを続けられるようになったのだろう」

韓国は「競争社会」といわれる。大学進学、就職、結婚、出産が「若者たちの当然の道理」とされるが、「セオリー通りに生きることが難しくなった」「他人と同じように平凡に生きることが夢になってしまった」と、著者は書いている。

だからこそ、ほどほど、それなり、なかなかでいい、というメッセージを、本書に込めたのかもしれない。言葉でこんなにも心は軽くなるのか。ゆるっとしたイラストもいい。がんばりすぎている人に読んでほしい1冊。

■目次
PART1 なかなか――な人
そこそこ素敵な呼び名を、自分につけてあげよう
PART2 なかなか――な今日
無事に過ごす力があって本当によかった
PART3 なかなか――な愛
愛は無限で、時間は有限だ
PART4 なかなか――な人生
私は今日も、ちっぽけな成功のかけらを集める

■アントイさんプロフィール
会社員兼作家、イラストレーター。ウェブドラマ『My Fuxxxxx Romance』の脚本、人気ドラマシリーズのノベライズである小説版『恋愛プレイリスト』、コミックエッセイ『カカオフレンズ・オフィス』などを執筆。いつでも心ときめく物語を創作したいと考え、今この瞬間も何かを書いている。

■加藤慧さんプロフィール
東北大学工学部卒業、同大学院都市・建築学専攻博士課程科目修了退学。大学院在学中の2013年に漢陽大学校大学院に交換留学し、韓国建築史を学ぶ。現在はオンラインで韓国語レッスンを行うほか、宮城学院女子大学、東北学院大学で韓国・朝鮮語の授業を担当。訳書に『僕の狂ったフェミ彼女』(イースト・プレス)。

■土田理奈さんプロフィール
東京外国語大学朝鮮語学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、2012年に後藤涼子と編集・ライティングユニットomo!(オモ)を結成。韓国の旅行情報、K-POP、語学などを中心とした書籍・雑誌・コンテンツ制作に携わっている。訳書に『韓国発 刺しゅう図案集 レトロかわいい刺しゅう』(朝日新聞出版)。

元記事で読む
の記事をもっとみる