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老舗〈磯谷煙火店〉花火師・磯谷尚孝さんにインタビュー。花火はなんとなく眺めちゃもったいない!

  • 2022.7.20
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2018年開催『赤川花火大会』より「コスモ」

花火師・磯谷尚孝さんが語る、心に残り続ける一発。ビールを飲む手を止める職人技に迫る

BRUTUS

花火が家業なのですよね。

磯谷尚孝

私で〈磯谷煙火店〉は4代目になります。中学生の頃から両親の手伝いをして、花火大会に連れていってもらうことも。楽しむお客さんの反応を見て、子供ながらに「これは面白そうな仕事だな」と思っていました。本格的に仕事を始めてからは30年ほどになります。

B

4代目ということは、会社の歴史も相当長いですよね。

磯谷

創業は明治20(1887)年です。初代は慶応の生まれでした。

B

愛知県は打ち上げ花火の発祥の地と聞きました。

磯谷

決定的な記録はないのですが、古くから花火作りが盛んな土地だったのは間違いありません。火薬が日本に入ってきて、戦国時代には鉄砲に使われました。江戸時代に入ると争いが減り火薬が平和利用されるようになる。その利用法の一つが花火というわけです。愛知といえば徳川家康生誕の地。反乱を警戒する必要がないから、特にこのあたりでは火薬使用の規制が緩かったのではないかと考えられています。

B

当時の担い手は?

磯谷

農村の村人たちで、農閑期に花火を作って楽しんでいたようです。村同士で出来を競い合い、明治41(1908)年には〈三河煙火同業組合〉も誕生しています。この時期に組合があるのは全国的にも珍しいんです。今でも全国の花火会社が加わる〈日本煙火協会〉では、愛知県の業者が一番多いんですよ。

B

この地に根づいたカルチャーなんですね。花火作り自体は進化してきているのですか?

磯谷

事故はかなり減りました。でも、花火の構造は基本的に同じです。ごく簡単に言えば、粉末の火薬を混ぜ合わせ、丸く形成し「星」を作り、これを玉に並べ入れて、玉にクラフト紙を巻く、といった作り。“球”は外圧に一番強い形で、より遠くに飛ばせるし、その結果、大きく開く花火を作れるんです。

花火師・磯谷尚孝が花火を作る様子
黒いのが「星」。
花火師・磯谷尚孝
玉の中に星を並べる磯谷さん。安全のため部屋で作業ができるのは2人までと決まっている。

B

理にかなっているのですね。花火のクオリティの違いを感じるにはどこに注目するといいですか?

磯谷

花火の色はオリジナリティが出る部分と言えます。というのも、花火そのものを眺めても、色の作り方はわからないんですよ。明度の高いビビッドな発色は試行錯誤の賜物。とはいえ、風下にいると煙で色が見えにくくなってしまうので気をつけてもらいたいです。

B

花火大会は風上で見るのがベストですね。オススメの大会は?

磯谷

打ち上げのバリエーションがあって、飽きがこない大会は面白いですよね。やや専門的な話ですが、協賛が花火1玉ずつではなく、大会自体についている場合には、打ち上げる花火の規模に緩急がつけやすい。そのためプログラムの完成度が高い印象があります。

B

大会に向けて、どのように制作が進むのですか?

磯谷

一年の流れとしては花火大会のシーズンが終わった後、10月から作業を始めて翌夏までに、その年必要な分の花火を計画的に作っています。夏は大会が多い土曜日に向けて、毎週のように打ち上げの準備を。現在はこの2年で作った花火が保管庫に眠り続けている状態です。

B

今夏は忙しくなりそうですか?

磯谷

2021年も7月頃から本格的に中止が決まるイベントが多かったので、まだ確証はありませんが、開催される前提で準備は進めていますよ。大曲の花火などに参加予定です。

花火の天日干しの様子
星は天日干しをしてより強固に。
花火師・磯谷尚孝が花火を作る様子2
星のもとになる「切り星」。原料となる粉末を固めて切って作る。
クラフト紙を貼ったたまを天日干しする様子
クラフト紙を貼った玉は天日干しして糊を乾燥させる。

B

制作中の思いを教えてください。

磯谷

常に「1年に1度しか花火を見ない人が楽しめるように」と考えています。だから見せ方を工夫することが大切。大きな花火がドーンと上がるのもいいけれど、それだけでは飽きてしまう。花火よりビールの方が気になっちゃうはず(笑)。

少しでも花火そのものを楽しんでほしい。そう思って、日本で初めて、音楽に合わせた「メロディー花火」や、ストーリー仕立てのナレーションに合わせた「ドラマチックハナビ」というものを作っています。

B

拝見しましたが、確かにビールどころではなさそうです(笑)。

磯谷

もちろん、なにより大切なのは一つ一つの完成度。かつて父が「あれはすごかった」と何度も話してくれた花火がありました。そんな心に残り続ける一発を、いつかは作りたいですね。

2018年開催『赤川花火大会』より「コスモ」
2018年開催『赤川花火大会』より「コスモ」。撮影:古川和宏

profile

磯谷尚孝(花火師)

いそがい・なおたか/1960年愛知県生まれ。磯谷煙火店の4代目代表取締役。総合演出を手がける『ISOGAI花火劇場 in 名古屋港』が22年12月24日に開催予定。

花火鑑賞士・石井孝子さんが語る、今年の必見花火大会

「花火鑑賞士」とは花火の普及に資する人々を認定する資格。花火名を答える(!)映像試験などをパスした、鑑賞のプロだ。鑑賞士の石井孝子さんに今夏おすすめの大会を教えてもらった。「本格的な花火好きへの第一歩を踏み出すならぜひ“大曲の花火『第94回全国花火競技大会』”へ。約30の会社が花火の美しさを競い合います。参加チームは実力により入れ替えもあるから、いわばその年のオールスターが集う場。好きな花火師を見つければ、一層ハマること間違いなしです。

大迫力を感じるなら『酒田花火ショー2022』。20号の超大玉がドンドン上がります。会場が狭い東京では打ち上げ不可能なサイズなので、驚きがあるはず。これらの大会はチケット必須。今からでも間に合うはずなので、急いで購入を。その点、チケット不要で見られる『熱海海上花火大会』は時間も30分弱ほどでカジュアルに楽しめる。気軽さだけではなく、山を背にしての鑑賞になるので、反響した音の迫力はピカイチですよ」

Information

大曲の花火「第94回全国花火競技大会」(秋田県大仙市)

8月27日:磯谷さんら、凄腕花火師が集合!
「夜の花火はもちろん、“煙竜”と呼ばれる煙を楽しむ“昼花火”も見られるのが特徴。どちらも美しいものを作れる花火師だけが参加できるのです」。

公式サイト:www.oomagari-hanabi.com

Information

酒田花火ショー2022(山形県酒田市)

8月6日:そのサイズは、東京タワー超え。
「20号は直径450mほどになる超大型花火。形が崩れず、美しく作れる最大サイズです。見られるのは最上川河口付近という広大なスペースがあるからこそ」。

公式サイト:sakata-hanabi.com

Information

熱海海上花火大会(静岡県熱海市)

7月26日(ほか多数):観光ついでに、花火も楽しめる。
「4月から12月までほぼ毎月開催。特に夏は回数が増加!小旅行がてら、いい音で大きな花火が見られるのが魅力」。

公式サイト:www.city.atami.lg.jp/event/1009037/index.html

profile

花火鑑賞士・石井孝子

石井孝子(花火鑑賞士)

いしい・たかこ/1965年東京都生まれ。花火好きが高じて、2004年、花火鑑賞士の試験に合格する。会社に勤めつつ、全国各地の花火大会の実行委員などとしても活動。

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