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配偶者控除、第3号被保険者制度…もはや昭和ではない時代に「働かない人を優遇する制度」は必要なのか

  • 2022.7.19
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「男女共同参画白書」令和4年版は結婚観や家族のあり方、働き方の変化を明らかにし、配偶者控除などの制度の見直しを提言しました。「もはや昭和ではない」時代にふさわしい制度とは何なのでしょうか。立命館大学教授の筒井淳也さんは「配偶者控除制度や第3号被保険者制度などを見直したからといって、本当の意味での女性の職場進出が進むとは思えません。非正規社員と正社員の間にある高い壁を取り除くことが同時に必要です」といいます――。

「配偶者控除」見直しの本気度

「配偶者控除」は、収入がないか、または少ない配偶者(たいていは妻)がいる場合に(たいていは夫の)税金が控除される制度です。会社員の夫と専業主婦という昭和的な家族モデルを前提にしたもので、今回の「男女共同参画白書」では、さまざまなデータを示しながら、この制度の見直しの必要性を指摘しています。

配偶者控除については、以前から「女性の活躍を妨げる」などの意見があり、政府も課題のひとつとして認識をしていました。ただ、家族のあり方という保守派の価値観に関わる問題のため、諸会議で見直しの声が上がっても自民党にはねつけられてきたのではないかと思います。

その点、今回の白書は、女性が配偶者控除を受けるために、パートやアルバイトで得る年収を一定額以下に抑える「就業調整」をしているとはっきり示しました(図表1)。ここからは、行政の側での「配偶者控除を見直すぞ」という本気度を感じました。

【図表1】就業調整をしている非正規雇用労働者の女性の数・割合
出所=「男女共同参画白書」令和4年版

見直しの大きな理由は、これをなくせばパートで働く妻を持つ男性から得られる所得税が増える、つまり税収が増えるからでしょう。ただ、白書では男女の雇用均等化という目的、すなわち「配偶者控除をなくせば“150万円の壁”もなくなり、女性の就業も進むだろう」という打ち出し方をしています。

「150万円の壁」は壁とは言えない

よく「○○万円の壁」といわれますね。現行では、配偶者の所得が150万円を超えると段階的に所得税の控除額が減少し(配偶者特別控除)、201万円に達したところで控除がなくなります(年収要件あり)。したがって、(たいていは妻の側が)年収を「○○万円以下に収めよう」という「就業調整」をする、と言われているのです。しかし、この「壁」は本当に「壁」なのでしょうか。

年収がこの額を超えても単に控除額が減るだけですから、働きたい人は壁など気にせず、働くことができます。控除制度が職場でそれを妨げるような障害につながっているわけではありません。配偶者控除は、意欲ある人の昇進を妨げる「ガラスの天井」とは違って、働きたい人の邪魔をするものではないのです。その意味では決して壁とは言えないでしょう。

配偶者控除撤廃は女性の就業を促すのか

また、「配偶者控除をなくせば女性の就業が進む」というのも少し違うと思います。「女性の職場進出が進む」という言葉は、非正規雇用のパートタイムではなく、正社員としてフルタイムで働く女性が増えることを指すほうが多いでしょう。そのためには、非正規社員の女性を正社員にしていく必要がありますが、そこにはそれこそ高い壁があります。

本人が「配偶者控除がなくなったからいっそのこと正社員として働こう」と思ったとしても、現状ではすぐ正社員になれるわけではありません。そこは雇い主側の判断になります。今の日本では、非正規社員と正社員、パートタイムとフルタイムとの間に高い壁があり、他国と比べて相互の流動性は極めて小さい。これは配偶者控除をなくしたからといって壊れるものではありません。

一方、配偶者控除を見直すべき理由として「最近はフルタイムで働く女性が増えて形骸化しているから不要」という意見もあります。ですが、今回の男女共同参画白書を見るとそれは事実ではありません。1985年と2021年との比較では、妻がパートタイムで働いている世帯は増えたものの、フルタイムで働いている世帯はほとんど増えていないのです(図表2)。

【図表2】共働き等世帯数の推移(妻が64歳以下の世帯)
出所=「男女共同参画白書」令和4年版
「週3勤務→週4勤務」が増えても女性の進出が進んだことにならない

確かに「共働き家庭」は増加していますが、増えたのは「パートで働く妻」です。そうした人たちの収入は正社員に比べて圧倒的に低く、だからこそ非正規雇用で稼ぐ範囲内で配偶者控除を活用しようと就業調整をする必要が出てくるのです。

配偶者控除がなくなったら、就業調整をやめてパートで週3日働いていたところを4日にする有配偶女性は増えるかもしれません。でも、それでは女性の職場進出が進んだとは言えませんし、時給が上がって自立した暮らしができるようになるわけでもない。男女共同参画行政が進めようとする女性の経済的自立や女性活躍とはほど遠い状況と言えます。

若いビジネスウーマン
※写真はイメージです
いきなり廃止すると取り残される人が出てしまう

配偶者控除を見直すにあたってもうひとつ注意しておきたいのは、この制度がなくなると困る人もいるということです。非正規から正社員になれないまま税負担だけが増えて、家計が苦しくなる家庭もあるでしょう。また、フルタイムで働きたくても育児や家族介護、あるいは自らの体調などの事情で実現できず、専業主婦を選ばざるを得ない人もいます。

配偶者控除を見直すなら、前者に対しては非正規から正社員への壁を取り払う、後者に対してはほかのかたち、たとえば諸手当で支援を手厚くするといった施策を同時に実行すべきです。そうした環境をつくらないままいきなり配偶者控除を外せば、必ず取り残される人が出てしまいます。

第3号被保険者制度の見直しも進む可能性

仮に配偶者控除が見直される場合、第3号被保険者制度についても並行して見直しがさらに進む可能性があります。この制度は、厚生年金に加入している人の扶養する配偶者が、保険料を払うことなしに年金を受け取れる制度です。

白書では「税制、社会保障制度、企業の配偶者手当といった制度・慣行が、女性を専業主婦、または妻は働くとしても家計の補助というモデルの枠内にとどめている一因ではないかと考えられる」と書かれています。「男性稼ぎ手+主婦」世帯を「昭和のレガシー」としたうえで、全体的に構造を変えていきたいという思惑があるわけです。

ただ、ここまでお話ししてきたように、配偶者控除制度や第3号被保険者制度などを見直したからといって、本当の意味での女性の職場進出が進むとは思えません。正規雇用と非正規雇用の間の高い壁がある以上は、制度をなくしても、その成果が出てくるまでに時間がかかりすぎて、施策としては物足りないと感じます。

予算を考えるカップル
※写真はイメージです
「女性の自立」のために何が必要か

本当に女性の自立を考えるのなら、本来は非正規社員と正社員の圧倒的な賃金差を何とかすべきです。現状は非正規では自立に十分な収入が得られず、しかも非正規から正社員への道には高い壁が立ちはだかっています。

圧倒的な賃金差を縮めないまま、税制や社会保険制度だけを動かしても真の女性活躍は望めないでしょう。私たちはこの大事な論点をしっかり見つめ、そして国に伝え続けていく必要があると思います。

構成=辻村洋子

筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授
1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。

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