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新国立劇場バレエ・シーズンオープニング『ホフマン物語』に、ダブルキャストで主演する米沢唯にインタビュー

  • 2015.10.13
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新国立劇場バレエ団の新シーズン(2015/2016)は、『ホフマン物語』で幕を開ける。この作品はドイツの詩人E.T.A.ホフマンの小説をベースに、フランスの作曲家オッフェンバックが曲をつけ、1881年にオペラとして初演されたもの。物語は知らなくても、このオペラの中に組み込まれた"舟唄"のメランコリックな調べは、誰もが一度は聴いたことがあるだろう。今回新国立劇場バレエ団が上演するのはスコティッシュ・バレエなど、英国で活躍したピーター・ダレルが1972年にバレエとして振付けたもの。スコティッシュ・バレエで長く活躍し、ダレルから直々に多くを学んだという現・芸術監督の大原永子氏が、ぜひとも新国立劇場バレエ団でもこの魅力的な作品を、と熱望し新シーズンのスタートに選んだ一作である。


■ 高い演技力が求められる物語バレエ

この物語の主人公たちは実に個性的である。
ストーリーは初老の男性ホフマンが語る自身の恋愛遍歴として展開される。
可憐な少女(実は人形)オリンピア、病弱な美女アントニア、そして妖艶な高級娼婦ジュリエッタ......。青年期から熟年期へ、年齢を重ねる中で全く異なるタイプの女たちに翻弄されたひとりの男の物語。ホフマンをひとりの男性が演じ、3人の恋人をそれぞれ異なる主役が演じる、という点でも、稀有なバレエである。ちなみにバレエ作品として有名な『コッペリア』は、この物語のオリンピアをモデルにして作られた作品だ。

今回は、オリンピアを長田佳世・奥田花純、アントニアを小野絢子・米沢唯、ジュリエッタを米沢唯・本島美和がそれぞれ日替わりで演じる。唯一アントニアとジュリエッタの2役を務める米沢唯に、話を聞いた。

「キャスト表を見に行って、驚きました。でも、ものすごく嬉しかったです。望んでも二役をもらえることなんてそうはありませんから」

と、とても意欲的だが、この作品は深い読解力と演技力が求められるだけにプレッシャーも大きいようだ。

「複雑に身体が絡み合うパ・ド・ドゥが随所に挟まれ、技術的にも難しい作品なのですが、それよりも演技が求められる点がハードルを高くしています」

そもそも、これまで日本で上演される機会も希少だった作品である。

「大原監督からは"踊りじゃないのよ。物語のあるバレエなのだから、セリフや思いが身体の動きとなって現れなければ"と言われています。主人公の心の動きや振付の意味を見つけ出し、身体に入れて踊らないと、つまらなくなってしまうんです」

さすがは、演劇の国・英国で誕生したバレエである。


■ 妄想の世界を漂うアントニア,闘う美女ジュリエッタ

ところで、米沢はアントニアとジュリエッタをどのようにとらえているのだろう。

「アントニアは生死の境目を生きています。その彼女を支えているのは恋人・ホフマンの愛。彼の愛だけを生命の糧にしている彼女は、身体は弱いけれど心は非常に情熱的なのだと思います。その熱い想いがあるから、最後には踊り狂って死んでしまうんです。現実の世界では少し踊っただけで苦しくなってしまうけれど、幻想の中では、軽やかにホフマンと踊り続けることができる。諦めていた夢が手に入ったと思った瞬間に、彼女の命は尽きてしまうのです。ジュリエッタに対してはずっと"黒鳥"のようなイメージを抱いていましたが、大原監督に"もっと彼に情熱的にぶつかって行きなさい!"と指導され、はっとしました。ジュリエッタは全力でホフマンの愛を得ようと思っているんです。がしかし、彼が振り向いたらとたんに興味を失ってしまう。生まれながらのハンターです。しかも、ただ美しく誘惑するのではなく、闘い抜いて勝つ、つまり男女の闘いなんですね。取っ組み合いのような振付がこのシーンに散りばめられているのにもそれを感じます」

見た目は愛らしいが中身は空っぽな女、薄幸の美女、妖艶で一筋縄ではものにできない美女。どれも、男性が惑わされやすい典型的な女性像だ。......この物語が誕生した1800年代も、2015年の今も、そこのところはあまり変わらないのかもね、とほくそ笑みつつ、実はそこにこそ物語の深さを垣間見る思いがする。

「そう、この作品はホフマンというひとりの男性の心の成長と変化を表現した、男性が主役のバレエなんです。しかもホフマンの前に現れる3人の女性は別々の人間が演じますが、ホフマン役はひとり。体力的にはもちろんですが、表現を変化させていくのも難しいでしょうから、彼らは大変だと思います」

ホフマン役は今回、福岡雄大・菅野英男・井澤駿の3人が、日替わりでキャスティングされている。


■ それぞれに味わいのある、3人のホフマン

しかも、3人のホフマンと踊ることになるのも今回は米沢だけ。

「まだリハーサルの途中ですが、それぞれの個性が分かって、勉強になります。彼らに合わせて踊ると、スピード感、タイミング、癖などそれぞれに異なるのがわかります。危険なリフトもたくさんありますが、3人とも信頼できるパートナーなので、安心しています」

ちなみに、"キレキレ"のテクニックで対応してくれる福岡氏からはスキルを吸収し、若い井澤氏からはひたむきさを感じるとか。そして、甘えられるのは同期の菅野氏だそう。

「とにかくやさしい、いい人〜。なんとかしてくれる、って感じがあります」

この日の段階では全幕を通してのリハーサルにはたどり着いていない状況ではあったのだが、それでもパートナーを変えながらの全日出演は体力的にもハードだろう。

「そうですね。でも、体力だけはあります。それに全力でやらないと自分も、お客様も面白くない。怪我には気を付けて、本番を迎えられることができるよう、頑張りたいです」


■ 心と身体にもっとトレーニングを

米沢は、レッスン、リハーサルとは別にトレーニングにも熱心だ。

「バレエ団では踊りのことだけに集中し、身体の使いかたはトレーニングで探索します。トレーニングで見つけた感覚を、クラスレッスンに活かし、それを今度はリハーサルの中で試し、舞台へとつなげていきます」

今は、ジャイロトニック®に通えるだけ通っているという米沢。

「トレーニングを続けていると、いろいろな感覚に出会え、身体も少しずつ変わってきました。まだまだ課題はたくさんありますけれど......」

ちなみに、目下の悩みはキャラクターに対する表現力なのだそうだ。

「舞台の上で演技をするということは難しい。自分は100の力でやっているつもりでも、客席に伝わるのはそのうちの10か20なんです。人間としての深さが足りない、そんな自分が歯がゆくて仕方ない!」

物語バレエが大好きで、いつかは、『ロミオとジュリエット』に挑戦してみたい、という米沢唯。たくさんの可能性を秘めた彼女が、4階席の一番後ろまで、情感豊かな表現を届けてくれるバレエダンサーに成長するのが、楽しみである。

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米沢唯
新国立劇場バレエ団 プリンシパル
愛知県出身。塚本洋子バレエスタジオで学ぶ。国内国外の数多くのコンクールに入賞し、2006年に渡米、サンノゼバレエ団に入団した。主な受賞歴は、04年こうべ全国洋舞コンクールクラシックバレエ部門ジュニアの部第1位、全国舞踊コンクールジュニアの部第1位、ヴァルナ国際バレエコンクールジュニアの部第1位、05年世界バレエ&モダンダンスコンクール第3位、06年USAジャクソン国際バレエコンクールシニアの部第3位など。10年にソリストとして新国立劇場バレエ団に入団した。ビントレー『パゴダの王子』で初主役を務め、『眠れる森の美女』『白鳥の湖』『くるみ割り人形』『ドン・キホーテ』『ジゼル』ほか数々の作品で主役を踊っている。13年プリンシパルに昇格。14年中川鋭之助賞受賞。

新国立劇場バレエ団『ホフマン物語』
会場:新国立劇場オペラパレス
日程:2015年10月30日(金)19:00、31日(土)13:00/18:00、11月1日(日)14:00、11月3日(火・祝)14:00
料金:S席¥12,960 A席¥10,800 B席¥7,560 C席¥4,320 D席¥3,240
問い合わせ先:ボックスオフィス
Tel. 03-5352-9999
www.nntt.jac.go.jp/ballet

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