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ドキュメンタリー好き・鈴木親、忘れられないあのシーン。『マルジェラが語る “マルタン・マルジェラ”』

  • 2022.7.9
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『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』イメージイラスト

アトリエでマルタン本人の手で何でもないものが特別なものになっていくとき

マルタンの肉声で、手で、何でもないものが特別なものに変わる瞬間が記録されている本作。最上級のオーガンジーの布でいいドレスを作るのではなく、素材は靴下だったり、タオルだったり、ヴィンテージの古着だったりする。

ストリートをいち早くモードに持っていったのも彼だ。ショーのモデルをストリートキャスティングし、治安が良くはないパリ18区を会場にし、豪華さを追求していた既存のファッションシステムから外れて、身近な人々にフォーカスした。

『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』
©2019 Reiner Holzemer Film – RTBF – Aminata Productions

ファッションがセレブ系になり、SNSやマーケティング視点から見た価値に比重が置かれがちな今だからこそ、当時カウンターとして登場し、沈黙を守っていた彼自身の本当の言葉は、もの作りをする人にとって後押しになるし、子供時代からのアーカイブを見るとコレクションのすべてに合点がいく。

マルジェラについては、異なる視点から描かれたドキュメンタリーもあり、今もファッションの第一線で働く当時のスタッフがパブリックなマルジェラについて語る『We Margiela マルジェラと私たち』と併せて観ると、ブランドについて客観的により濃く理解することができると思う。

『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』イメージイラスト

Information

『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』

公の場に一切姿を現すことがなかったデザイナー、マルタン・マルジェラ。突然の引退発表から10年以上経っても多大な影響力を持つ彼が、キャリアやクリエイティビティについて語る。幼い頃のノート、ドローイング、ドールコレクション、初めて作った服などの貴重なアーカイブや、親交のある人物のインタビューを織り交ぜたドキュメンタリー。監督:ライナー・ホルツェマー。全国公開中。

profile

鈴木親(写真家)

すずき・ちかし/1972年千葉県生まれ。独学で写真を学び、98年に渡仏。雑誌『Purple』の表紙で写真家としてのキャリアをスタート。

公式サイト:https://chikashisuzuki.net/

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