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まだ語りたい『持続可能な恋ですか?』月の満ち欠け、雲の変化……ドラマがくれた多様なメッセージを未来に生かしたい

  • 2022.6.28
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最終回を迎えた上野樹里主演『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~』(TBS系)。主人公の杏花(上野樹里)は、シングルファザーの晴太(田中圭)と、幼馴染みの颯(磯村勇斗)との「恋と結婚」問題をどう帰結させたのか。また、新しい恋を得た杏花の父(松重豊)が選んだ結婚のかたちとは? さまざまな世代、環境を生きるひとたちに真摯なメッセージを投げかけつづけたドラマを振り返ります。

上野樹里主演の火曜ドラマ『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~』の最終話が、6月21日に放送された。

上野が演じる主人公の杏花は、仕事に一生懸命で自分は結婚に向いていないと考えていた。杏花の父で辞書の編纂を仕事にする林太郎(松重豊)は、亡くなった妻・陽子(八木亜希子)の喪失から立ち直れていない。父ひとり子ひとり、そんな家族が恋愛と結婚を通して人生を生き直していく。

「持続可能な恋ですか?」「いいえ、違います」

タイトルの「持続可能な恋ですか?」の答えは、最終話で明かされた。杏花に一途に恋をしてきた幼馴染みの颯(磯村勇斗)が言う。

「持続可能な恋は、叶わなかった恋だけなんだよ」

杏花とシングルファーザーの晴太(田中圭)は、一度「結婚を前提としないお付き合い」を開始。交際をはじめたとき、ふたりは、晴太の息子・虹朗(鈴木楽)をどんなときでも一番大切にすること、そして、どちらかが結婚したくなったら交際を終わらせることを約束する。

晴太と虹朗と関わっていくうちに、結婚したいと思うようになっていったのは杏花のほうだった。しかし、結婚することで杏花に無理をさせてしまうこと、そして、いまも元妻・安奈(瀧内公美)と協力して子育てをしていることを考えると、杏花と「普通の幸せな結婚」はできない。そう考えた晴太は、約束通り杏花と別れることを選ぶ。

「持続可能な」は、「サステナブル(Sustainable)」と同じ意味。第8話で、林太郎が新語の用例採集をしていたときに「サステナ疲れ」という言葉を目にする。際限なく継続しようとするあまり、疲れて持続できなくなってしまう矛盾を表している。晴太が心配したのは、杏花のサステナ疲れだったのだろう。

「持続可能な恋ですか?」に対する杏花と晴太の出した答えは「いいえ、違います」だった。ずっと同じ気持ちでいられるのは片思いだけだ。

「足るを知る」の本来の意味

相手を大切に思うあまり、何が起こるかわからないずっと先の未来のことまで心配し、関わることすら諦めてしまった杏花と晴太。杏花は、晴太との関係を継続しなかった自分について「足るを知る」、いまの自分に満足するという言葉を用いて表現した。しかし、林太郎はその語源について杏花に伝える。

「自分が本当に何を求めているのか、それを知らなければ、いまの自分で十分だと、足るを知ることは難しいんじゃないかな」

「足るを知る」の部分ばかりがよく知られているが、元々の老子の言葉は「足るを知る者は富み、強(つと)めて行う者は志有り。其の所を失わざる者は久し。死して而(しか)も亡びざる者は寿(いのちなが)し」だという。意味は、現状に満足することやいま以上の環境を諦めることではない。自分自身が何に満足するかを理解し、本来の自分の在り方を見失わないことだ。

そんな林太郎は、主治医でもある整形外科医の明里(井川遥)との真剣交際と結婚を決めていた。その過程で、林太郎と陽子が結婚に至る思いがけない事実が明かされる。そのため、大好きな陽子との結婚生活が終わってしまってもなお、林太郎は「結婚」の意味をつかめないでいた。

明里との結婚は、林太郎が自分らしく生きるために自ら選び取ったものだ。林太郎と明里は事実婚を選び、互いのキャリアを大切にするためにもそれぞれが健康なうちは週末婚をすることを決めた。「普通の結婚、普通の幸せ」にこだわっていたふたりが、そうではない方法を選んだのだ。

結婚は「永遠に続く愛情への無茶な挑戦」

「結婚すること自体、普通じゃないと思うんですよ!」

最終話で、晴太は杏花にこう言った。「普通の幸せ」にとらわれていた晴太と杏花だったが、そんなものはない。無理や我慢によって継続する結婚はできない。互いに変化をし続けて、それを認め対応しながら生きていかなければいけない。

「普通じゃないくらい杏花さんが好きです。ぼくと結婚してください!」

杏花が救われたヨガでは「いまこの瞬間を感じること」が大切にされている。最初から遠くにある目標である持続を目指すのではなく、普通じゃないくらい好きだといういまこの瞬間を重んじる。その積み重ねの先に、持続という結果がある。

最後に、林太郎は「結婚」という言葉の語釈を書き換えた。

「愛し合う男女が、正式に一緒に暮らすようになること」ではなく、「愛し合う他人同士がわかり合いたいと願い、ともに歳を重ね、互いの変化を慈しみ、それでもなお、わかり合えないことを知る営み。古来、人類が繰り返してきた、永遠に続く愛情への無茶な挑戦」と。

この語釈は辞書には採用されないだろう。多分に林太郎の経験と実感のこもった、彼の中での「結婚」の意味だ。林太郎と明里の結婚式から1年後、杏花はヨガの講師を続けながら、晴太と一緒に大好きなカレー屋を開いていた。虹朗は杏花を「杏花ちゃん」と呼ぶ。新しい母親としてではなく杏花個人のままで、新しい家族として迎えられていた。

海外で杏花を思い続ける颯を含め、これが全員の「十分」で「満足」な結論だった。

細部まで「変化するもの」が散りばめられたドラマ

「生きている言葉」にこだわったこのドラマ。「サステナブル」だけでなく「Some(サム)」や「リモ婚」など、まだ辞書には載っていないような言葉も多く用いられてきた。生きているとは「変化していくということ」だと、言葉をとおして伝え続けた。

また、タイトルの『持続可能な恋ですか?』の「恋」の文字色が、オープニングで毎話変化していたのも見落としたくない表現である。第1話から最終話まで、グリーン系からブルー系、オレンジやイエローを経てまたグリーン系に戻り、第9話ではシルバー、最終話ではゴールドに変わっていた。「恋」は変化とともにある。タイトルからもそのメッセージは伝えられていたのだ。

月の満ち欠け、雲のかたちの変化、タイトルの他にもさまざまな「変化するもの」で構成されていた本作。月も雲も、人間がその変化をどうこうできるものではない。晴太の仕事も、彼の意思とは関係なく変化していた。杏花も「心の満ち欠けは思い通りにならない」とヨガの生徒に教え、その変化を味わうことを伝えている。

7月6日からは、未公開映像やNG集などを含めたスペシャル版の『持続可能な恋ですか?』がParaviにて配信される予定だ。「変化していくもの」に注目しながら、改めてドラマを見るのが楽しみである。

思いがけないという点では、田中圭の演技にもそんな部分があるようだ。彼のコミカルなシーンがあると、ファンが「ここは田中圭のアドリブでは?」と考察する様子がうかがえた。また、ドラマに監修として参加していた国語辞典編纂者の飯間浩明は、最終話での晴太から颯へのハグについて「台本にあったっけ」と

「いまのとこ、この国ではさ、女性の人生、いいとこどりは難しいんだよ。全部選んで進むのは、相当覚悟がないと」と、安奈は言った。実際、このドラマの伝えてくれた「自分のままで生きる」や「いまを大切に変化していく」ことは、少しはみ出た生き方であり覚悟がいる。

林太郎は結婚の主体を「愛し合う男女」から「愛し合う他人同士」に書き換えたが、最終話放送日前日の6月20日には、大阪地裁が「同性婚不認可は合憲」と判決を出しインターネットを中心に議論が起こっている。また、虹朗のように養育費を受け取れる子どもは多くない。母子家庭においては56%、父子家庭では86%が養育費を「受け取ったことがない」と答えている(厚生労働省「2016年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」による)。

ドラマのメッセージは、現時点では高い理想かもしれない。それでも、希望を感じたい。数年後、このドラマを思い出して、あるいは見返して、何を思うのか。自分自身と時代の変化が待ち遠しくなった。

■むらたえりかのプロフィール
ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。

■pon3のプロフィール
東京生まれ。イラストレーター&デザイナー。 ユーモアと少しのスパイスを大事に、楽しいイラストを目指しています。こころと体の疲れはもっぱらサウナで癒します。

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