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35歳、8年ぶりに男性を...。もどかしくもうらやましい恋愛小説。

  • 2022.6.22
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「8年ぶりに、恋をした」――。

畑野智美(はたの ともみ)さんの『大人になったら、』(中公文庫)は、結婚したいのか子どもがほしいのか、よくわからないけど年齢的に焦りはじめた35歳の女性が、8年ぶりに恋をする物語。2018年に単行本として刊行され、今年1月に文庫化された。

何をするのも、早い方がいい? 35歳では、もう遅い? 35歳を過ぎた者としてはそんなことはないと思うが、35歳以上の初産を「高齢出産」と言うこともあり、彼女は「35歳」という年齢を気にしている。

「三十五歳の誕生日を迎えたメイ。『いつから彼氏いないんですか?』『何が目標なんですか?』――失礼な後輩に憤慨しつつも、カフェの副店長として働く日々はそれなりに充実している。毎日同じメニューを頼むお客さんも、そんな日常の一部だったのだけど......。久しぶりの恋に戸惑う、大人になりきれない私たちの恋愛小説。」

「平均」に対してどれくらい

6月22日はメイの誕生日。日本人女性の平均寿命は87歳と少し。一生を60分のドラマとして考えると、35歳は「起承転結」の「起」が終わり、「承」の半ばに差しかかろうとしているぐらい......などと考えている。

「平均」に対して自分がどれくらいのところにいるのか。それが問題だった。すべての35歳の平均的な人生など、そんな明確なものはないのだが、メイのなかには「平均」に対する劣等感があった。

「子供もいなければ、結婚もしていない。八年前、二十七歳の誕生日に、十年間付き合ったフウちゃんと別れてから、彼氏もいない。好きな人もいないし、気になる人もいない。だからといって、恋愛を諦めたわけではないし、仕事に人生を捧げていて恋愛どころではないわけでもない」

カフェのスタッフ、お客さん、学生時代からの男友だち。出会いがないわけではなく、むしろけっこう恵まれているのではないかと思うが......。

「考えて悩んだところで、誰もわたしのことを好きなわけではないから、話は進みようがない。そして、わたしは八年間、誰のことも好きになれなかった」

ずっと元彼がいたところに

カフェが開店してすぐに来る常連のお客さんがいる。その男の人は眼鏡をかけ、スーツを着ている。鶏の唐揚げの南蛮漬けランチセットを頼み、黙々と食べる。メイがここで働くようになって7年、毎日来ている。

彼は予備校の数学のカリスマ講師として有名な人で、羽鳥先生という。彼の授業を受けたことがあるアルバイトの子から聞いて知った。

メイはこんなふうに思う。20代なら結婚を意識せずに付き合ってもよかったのに、元彼と10年付き合った後で重く考えてしまった。そうこうするうちに30歳になり、年齢の重みが加わった。そして35歳になり、年齢の重みは増すいっぽうだと。

恋愛からすっかりご無沙汰だったメイに、ここにきて変化が。羽鳥先生とカフェでちょっとした会話をしたり、外でばったり会ったりすることが何度かあり、彼のことが気になりはじめていた。

「最近はフウちゃんのことをあまり思い出さなくなっている。十年付き合った恋人というよりも、学生のころの友達という存在になった。今までずっとフウちゃんがいたところに、羽鳥先生が入ってきているからだろう。でも、羽鳥先生のことが好きなのかどうなのかは、未だにわからない」

人生が劇的に変わることはなくても

メイは自分のなかで設定した「大人=35歳」になったものの、しっくりきていない。「中学生みたい」「高校生のころから何も変わっていない」という描写も出てくる。

いわゆる「大人」の年齢になっても、なりきれない感じ。大きくなっていく数字に追いつけない感じ。年齢にまつわるこうした違和感は、痛いほどよくわかる。

メイも羽鳥先生も慎重で、うぶで、不器用で、物語はじっくりと進んでいく。もどかしくもあり、なつかしくもあり、うらやましくもある、そんなふたりの関係を見守りながら読んだ。

「未来のことなんてわからないと思っても、自分の性格や今までの生活から、なんとなくの予想はできる。白馬の王子様でも現れないかぎり、人生が劇的に変わることはない。今はただ、一日一日をちゃんと生きて、人生を少しでもいい方へ向けていくべきだ」

「大人になったら、○○」――。あなたなら「大人」を何歳に設定し、「○○」に何をあてはめるだろうか。

■畑野智美さんプロフィール

1979年東京都生まれ。2010年「国道沿いのファミレス」で第23回小説すばる新人賞を受賞。13年に『海の見える街』で、14年に『南部芸能事務所』で吉川英治文学新人賞の候補となる。著書に「南部芸能事務所」シリーズ、『夏のバスプール』『タイムマシンでは、行けない明日』『感情8号線』『消えない月』『神さまを待っている』『水槽の中』など。高校生の時に『耳をすませば』を観て、「大人になったら、小説家になる」と決めた。

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