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【取材】同性同士の性的シーンを適切な描き方とは? インティマシー・コーディネーターの第一人者イタ・オブライエンが語る

  • 2022.6.11
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インティマシー・コーディネーターのパイオニアであるイタ・オブライエンに、フロントロウが3回に分けてインタビュー。第1回目は、LGBTQ+コミュニティを描く作品について。(フロントロウ編集部)

インタビュー第2回目:「訓練された人が必要」イタ・オブライエンが日本の映像業界にアドバイス
インタビュー 第3回目:監督と衝突したことも...インティマシー・コーディネーターとしての経験語る

※この記事は2022年6月11日に掲載されたアーカイブ記事です。

インティマシー・コーディネーターという職業を作った、イタ・オブライエン

インティマシー・コーディネーターという職業をご存じだろうか? ここ数年で、多くの映像制作の現場で起用されている、キスやセックスといった“親密なシーンの専門家”である。映像制作が始まってから100年弱、裸、もしくは裸に近い姿にならなくてはいけない撮影や、相手とキスをしたり、肌を密着させたりしなければいけない撮影で、俳優たちをサポートする環境は整えられていなかった。

しかし、2017年にハリウッドから全世界的に大発生した、女性への性暴力に声を上げるMeToo運動をきっかけに、映像制作における撮影の環境が大幅に改善。主に女性俳優を守るためにインティマシー・コーディネーターを起用する現場が増加し、2018年10月には、米テレビ局のHBOが全作品におけるすべての親密なシーンでインティマシー・コーディネーターを雇うことを発表。他のテレビ局や配給会社のドラマや映画でも、インティマシー・コーディネーターを起用することはスタンダードになってきている。

画像: インティマシー・コーディネーターという職業を作った、イタ・オブライエン

そして、インティマシー・コーディネーターの起用がここまで迅速に進められているのは、その理論や技術を、MeToo運動が起こる前から構築してきた人物がいるからに他ならない。インティマシー・コーディネーターのパイオニアであるイギリス人のイタ・オブライエンは、2014年から親密なシーンにおける演技方法を研究してきた。

そんな彼女に、フロントロウがインタビュー。インタビューの時間は当初は30分だったが、時間を大幅に延長して情熱を語ってくれた。フロントロウではそんな彼女の思いを、3回のインタビューに分けてお届けする。その第1回目は、LGBTQ+コミュニティを描く作品での親密なシーンについて。

適切なシーンに不可欠なのは、正しい「脚本」と「リサーチ」

イタ・オブライアンはこれまでに、80年代のゲイコミュニティの解放と混乱を描いたドラマ『IT'S A SIN 哀しみの天使たち』や、実在したレズビアンの人生を描いたドラマ『ジェントルマン・ジャック 紳士と呼ばれたレディ』、様々なセクシャリティのキャラクターが登場する『セックス・エデュケーション』など、多くのLGBTQ+作品でインティマシー・コーディネーターを務めてきた。そんな彼女は、物語を形作るのは、まず何よりも脚本だと話す。

画像: ドラマ『IT'S A SIN 哀しみの天使たち』© RED Production Company & all3media international
ドラマ『IT'S A SIN 哀しみの天使たち』© RED Production Company & all3media international

「まず初めに、最近ではより良い脚本が増えていることは本当に素晴らしいですね。すべては脚本から始まります。例えば『IT'S A SIN 哀しみの天使たち』では、ラッセル・T・デイヴィスの素晴らしい脚本から始まりました。制作陣は、(セックスを)楽しむことへの恥を取り除き、喜びを解放し、愛する喜びを描きました」

『IT'S A SIN 哀しみの天使たち』が題材としている80年代は、エイズ危機がゲイコミュニティを襲った暗い時代であると同時に、ゲイの青年たちが隠れて生きるのをやめてロンドンのパーティーなどで自由を謳歌し始めた明るい時代でもある。セックスは彼らの解放の物語における一部であり、主人公のリッチーも多くの男性とのセックスを通して成長していく。本作は、ゲイ男性たちのセックスをタブーとして描かずに楽しいこととして描いた点でも評価された。

「第1話のセックスシーンでは、リッチーが自身の性に対する意識や、性的パートナーたち、性的快楽に対してオープンになり、シーンを通して自分を成長させます。そのため、それぞれの付き合いを通した成長の旅がそこには明確にあります。そしてそれらのシーンは、それぞれが小さな作品のようでしょう。全体像を見れば、それぞれが全体の一部です。

それこそが、私たちが見ているものです。それぞれの付き合いのなかで、リッチーとは誰なのか?最終的に彼が友人の1人である性的パートナーに心を開き、最後の輝かしい瞬間が起こるまでに、リッチーと関わりがあった人々は誰なのか?つまり、物語を伝えるなかでの流れは何なのかということに注目するんです」

画像: ドラマ『ジェントルマン・ジャック 紳士と呼ばれたレディ』© 2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.
ドラマ『ジェントルマン・ジャック 紳士と呼ばれたレディ』© 2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

良い脚本があり、そのなかで描かれるそれぞれのキャラクターを分析する。そして、キャラクターを分析したり、インティマシー・コーディネーターの仕事である親密なシーンの振りつけを考えたりするうえでは、リサーチが非常に重要だという。

「(シーンには)ゲイ男性の愛がある。身体的なディティールも、振りつけのディティールも、当事者に敬意を払わなければいけません。なので私はリサーチをしました。『ジェントルマン・ジャック』をやった時には女性を知るための本を読みましたし、男性のゲイの愛や、体型、異なる身体的な動きについての非常に良い本を持っています。リサーチは重要です

インティマシー・コーディネーターとして10年近いキャリアがあってでも、想像に頼ったり、自分の知識を過信したりするのではなく、きちんとリサーチして一つひとつのプロジェクトに取り組んでいることを明かした。

ステレオタイプを助長する描き方はしてはいけない

そして、現代でも差別を受けることが多いLGBTQ+コミュニティを描くうえで気をつけなくてはならないのが、ステレオタイプを助長していないかということ。彼女がインティマシー・コーディネーターを務めた『IT'S A SIN 哀しみの天使たち』は、エイズ危機に襲われた80年代のロンドンが舞台であり、作品におけるセックスシーンは大きな意味を持つ。そのような作品において、制作陣とともにどう撮影を進めていったのかを、彼女は話してくれた。

画像: ステレオタイプを助長する描き方はしてはいけない

「『IT'S A SIN』では、出演者全員がクィアコミュニティに属している。なので、私たちは、作品がステレオタイプなものにならないように気をつけました。この瞬間のこのキャラクターは誰?彼らの性的な表現方法は何?そう気をつけることで、そのコミュニティの人々を白人ばかりにしたり、ステレオタイプなキャラクターにしたりせずにいられます。

何度も言いますが、細かいリサーチや、身体性が正しく物語に機能しているかなんです。そしてそれを振りつけに組み込めば、俳優たちは集中でき、その瞬間が何についてなのかを完璧に理解できる。それが出来れば、自分たちが描いているコミュニティに敬意を払う、非常に良いシーンが撮れるのです」

脚本も、キャスティングも、振り付けも、きちんとリサーチして、現実に正当な形で向き合えば、ステレオタイプは生まれにくい。リタの言葉からは、多くの映像作品でじつはそんな当たり前のことが出来ていなことを痛感させられる。

イタ・オブライエンとのインタビュー第二弾では、インティマシー・コーディネーターという職業への認識が高まりはじめている日本の映像業界についてコメント。そして第三弾では、監督と衝突した過去など、インティマシー・コーディネーターとしての経験を明かした。

(フロントロウ編集部)

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